こここ編集部より

「ケアを感じたマンガ」フェア、本屋B&Bで開催中。こここ編集部のオススメも! (推薦文あり)
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【写真】網紐をつかった、ケアとマンガ、の装飾文字が目立つ棚

〈こここ〉も運営に協力している、東京・下北沢の〈BONUS TRACK〉で開催中の「ケアリングノーベンバー2025」。このイベントと連動して、本屋B&Bにて、「ケアを感じたマンガ」フェアが行われています。

期間は2025年11月11日(火)〜29日(土)。作品を推薦したのは以下のメンバーです!

「『ケア』を感じたマンガを教えてください」をテーマに、過去〈こここ〉にご寄稿いただいた方々

小川公代さん/星野概念さん/木村映里さん/冨永新さん/ヒラノ遊さん
勅使川原真衣さん/村瀨孝生さん/竹中香子さん/竹内孝予さん
土門蘭さん/田口(下地)ローレンス吉孝さん/瀬尾夏美さん/武田奈都子さん

マガジンハウス こここ編集部

垣花つや子/佐々木将史/中田一会

寄稿をいただいた方の推薦作品については、ぜひ以下の記事をご覧ください。特に3つ目は、フェア中の11月18日に公開されたばかりの新着記事です!

編集部メンバーの推薦文は、本屋B&Bで読めます。ただフェア開始後、ありがたいことに「行けないけど読みたい!」という声をいくつもいただきました。

せっかくの機会なので、このブログで紹介できればと思います。上の方々の作品とあわせて、ぜひ会場で実際に手にとってみてくださいね!

【写真】煙たい話の1巻に、累計15万部の文字の帯がかけられている。横には同作のシリーズのほか、葬送のフリーレンという作品も見える

『煙たい話』 著/林史也(光文社) 

【推薦】垣花つや子/こここ編集部

他者の怒りにふれて、自分に光が灯ることがある。そう気付かされた作品でした。

登場するのは、高校教師の武田と花屋の有田。高校時代クラスメイトだった二人は、ある日再会し、一緒に暮らしはじめます。

私が繰り返し読んでいるのは、武田と有田が一緒に暮らしはじめる前、武田が高校時代のある日を思い出した場面です。

いじめに遭い、暴力をふるわれていた学生を目にした武田は、見て見ぬふりをせず、なんらかの形で助けようとします。その詳細は描かれないのですが、結果的にいじめを受けていた学生から「お前が余計なことするけん 親にもバレたやろうが 助けてくれとか頼んでない」と言われ、いじめの矛先が武田に向くことになります。

自身のノートを校舎の裏に破り捨てられ、それを眺める武田。「俺は単にやりたいことをやっていただけなんだから こういうことが起きるのも 仕方がないことだから」と自分を納得させようとしていると、有田が声をかけます。

有田「そうなのかな」
武田「え?」
有田「そんなはず あってたまるか とも思うけど」

淡々とした背中、一点を見つめる横顔、何かを堪えている有田の言葉の紡ぎ方は、腹の底で静かに確かに怒っているように見えました。自分が選んで行動したことだから仕方がないと納得しようとしている出来事に対して、そんなのおかしいと怒りを抱いている人がいる。その人は、わたしを変えようとするのではなく、その人が感じたことを、傍らにぼろっと置く形で言葉にしてくれる。

わたしが手放したくなかったものを、今はまだ手放さずに生きていけるのかもしれない。武田がどう感じたのかはわかりません。有田が怒っていたのかもわかりません。ただ読んでいるわたしは、目に光が灯った感覚を抱きました。

『琥珀の夢で酔いましょう』 著/村野真朱、依田温、杉村啓(マッグガーデン

【推薦】佐々木将史/こここ編集部

「もっと自由にできたらいいのに」。

直接言葉にしなかったり、願う内容に違いはあったりしても、そんな思いを抱いて日々を過ごしている人は多いはず。けれど現実には、誰かの願う“自由”が、別の誰かにとっての“自由”とぶつかり合うケースは少なくないでしょう(……とSNSを眺めていても、また子どもたちのケンカを見ていてもつくづく感じます)。

世の中を見回すと、社会のしくみや歴史的な経緯を理由に、「自由に暮らすこと」が制限されてしまう場面も未だに多くあります。そしてケアワークは、ここに深く関わる営みです。不自由さを迫られるなかでも、一人ひとりの意思をできる限り尊重し、その人が思う自由を支えていく。そうしたまなざしを、ケアを仕事にする方々の話から何度も感じてきました。

京都を舞台に、多様なクラフトビールをたずねる『琥珀の夢で酔いましょう』には、「自由に楽しむ」という言葉がたびたび登場します。味わいの違いや醸造所のこだわりに惹かれて、料理とのペアリングでビールの楽しみを広げようと駆け回る、主人公たちの姿勢が表れています。

この言葉だけを聞いて、すぐにお酒の場を“自由”のイメージと重ねられる人もいれば、そうでない人もいるでしょう。僕はどちらかと言うと前者でしたが、飲んでみんなの気持ちが緩む場が好きだったり、一人で飲みに行っても特に「嫌な思い」をしてなかったりすることは大きいはず。そう思いづらい属性や立場にある人と、見る景色は同じではありません。

全ての人がビールを楽しめているわけではない現実と重ね合わせ、作中には、社会的マイノリティとされる人々の視点がさまざまに出てきます。作品を読むたび、「自分が感じていた自由は、誰かの不自由の上に成り立っていたのかも」と気づかされます。

自分も、自分以外も、みんなが自由にいられるにはどうすればいいか? とにかく美味しそうなビールと料理で魅せつつも、アルコールシーンの向こうにある景色を少しずつ変えてくれるマンガです。

『彼女はNOの翼を持っている』 著/ツルリンゴスター(双葉社

【推薦】中田一会/こここ編集部

「嫁」だからといって親族にお酌をしなくてもいい、婦人科は何歳からでも受診していい、「生理ぐらいで」と思わなくていい、相手の行動にNOと言っても相手を否定していることにはならない、外見をからかわれる場に行かなくていい、下ネタで盛り上がるのが苦手だと表明してもいい、自分の身体は自分のもので勝手に触れられるべきではない、誰をどう好きになるか/ならないかはその人固有のもので気軽に聞いてはいけないーー。

読み進めれば、読み進めるほど、「あぁ、こんな世界で思春期を過ごしたかった。私もNOを大切にしたかった」とため息がでるような作品です。

本作は、16歳の高校生・佐久田つばさが家族や友人、初めてできた恋人と過ごす日常を中心に進む物語。つばさは一見すると“ふつう”の高校生です。しかし、彼女には友人達の「NO」をすっと掬い上げる力があります。「嫌なときは嫌と言っていい」「違和感を大切にしていい」という価値観が彼女の中に根付いていて、周囲はとても救われます。彼女を支えているのは、ジェンダーロールの矛盾や個人の意思、子どもの権利をないがしろにしたくないと考える両親や、包括的性教育を重視している先生の存在。ただし、そんなつばさにも、自分自身のこととなると「NO」が言えない……では一体どうしたら。

こうして進む物語には「自分と他者を大切にすること」の実践ともいえる重要な対話がぎゅっと詰まっています。「こんな世界だったら」とため息がでるほど、現実は理想から程遠いのは確か。けれど、つばさがつばさとして生き生きとしていられるのは、周囲の大人が学び、葛藤し、懸命に築いてきた環境にあります。ケアの根源にあるべきは「尊厳の尊重」。自分のことも他者のことも大切にするための「学び」と、そのための「環境づくり」なら、今からでも、こんな私でも、できるんじゃないかと大変励まされた作品です。

【写真】フェアの棚を上から眺めると、10冊以上の作品がところ狭しと平積みされているのがわかる

(撮影:加藤甫)