こここ編集部より

"福祉発プロダクト"の魅力とは? イッピンについてご紹介します。
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「こここなイッピン」に込めた想い

こんにちは。はじめまして、〈こここ〉編集部の岩中です。
編集長の中田さんからバトンをもらい、編集部ブログを書かせてもらいます。

私は〈こここ〉では、「こここなイッピン」と「ニュース」を主に担当しています。イッピンは、福祉発のユニークなプロダクトを紹介するコーナーで、月に2〜3本、編集部でセレクトした「イッピン(一品/逸品)」を取り上げています。ニュースは、福祉領域でのクリエイティブな活動やイベント、サービスなどを、週に2〜3本の頻度でアップしています。

イッピンもニュースも、読者の方が福祉の面白さや豊かさに出会うきっかけになったり、何かアクションにつながったりするような、“アクセスしやすい入り口”になったらいいなと思い、記事の企画や編集をしています。

今回のブログでは、「こここなイッピン」に込めた想いを記したいと思います。

ワクワク、楽しい、福祉発プロダクト

私は〈こここ〉編集部のほかに、福祉施設やコミュニティと協働して活動を行うアートプロジェクトの運営に携わっていて、普段から施設に足を運ぶ機会があります。(ここ1年はコロナ禍でほとんど行けなくなってしまいましたが……)

施設を利用するメンバーさんや職員さんたちと活動を行うことが主な目的ですが、訪れた際に施設でお買いものすることもまた、楽しみのひとつです。「この施設のカレンダーは同僚の分もまとめて注文しよう」とか、「もうすぐ夏なのであの施設の藍染商品を買おう」とか、「今日はあそこのパンとコーヒー買って帰ろう」とか…… そんなワクワクも施設と関わるごとに増えています。

施設に行った時は、ついついお財布の紐が緩みます。「購買は社会的な行動だ!」「少しでも施設の応援につながれば!」と自分の行動を正当化したりするけれど、それは半分言い訳で、本当のところはやっぱり魅力が詰まったものだから。

ちょっと出たベロや愛嬌のある顔がたまらない、工房まるの「とかげちゃん」。ずいぶん昔に一目惚れして買ったその当時は、福祉施設でつくられたものとはあまり意識していなかった

就労継続支援の事業所では、企業の下請けだけでなく、オリジナルの商品を開発して、その売り上げを利用者さんの工賃に還元しているところが多くあります。工芸品に力を入れているところ、デザイナーさんが関わってブランディングも工夫しているところ、複数の施設と協働して商品づくりを行うところなど、それぞれのカラーがあります。

福祉発プロダクトの魅力はたくさんありますが、大量生産の既製品にはない手ざわり感や味わい、ユニークな発想や表現があることが特徴です。なんでそんなものがモチーフに!?という驚きや、ユーモアたっぷりの遊び心があったり。一点一点表情が違っていて、自分のお気に入りの一品を掘り出す喜びがあったり。作り手の並々ならぬ思いが集積された痕跡がそこに残っていたり… なんだかモノからいろいろ滲み出ている感じがして、楽しいのです。

福祉施設がつくるプロダクトブランド

アートプロジェクトの仕事でもお世話になっている〈板橋区立小茂根福祉園〉による「KOMONEST」も、大好きな福祉発ブランドのひとつです。メンバーさんの好きなことや得意なことを活かした絶妙なデザインや、パッケージや見せ方に至る細部へのこだわりなど。立ち上げからデザイナーさんも関わり、施設で長年にわたり力を入れて取り組んでいるだけあって、さすがだなと思います。

KOMONESTのプロダクトを持っていると、初対面の人に話しかけられることもしばしば。「それ、かわいいですね」からはじまり、「え、それって何が描かれてるんですか?」と質問が続き、話が展開していく。そんな風にコミュニケーションが生まれるのも、プロダクトの持つ魅力です。

「KOMONEST」の人気商品、メンバーのEmikoさんがつくる「鬼のBAG」と、それをモチーフにした刺繍のブローチ「ドローチ」。一見猫のように見えるけれど、実は鬼。持っていると、「かわいいね、猫?」「いや、鬼なんだって。この耳みたいな部分はきっとツノかな...」というやりとりがよくあります。身につけていると、自分の中の隠れた野生味を忘れないぞ、そんな気持ちになったりします

プロダクトの背景にあるもの

福祉発のプロダクトは、たくさんの人の手や工程を介してつくられているものが多いのも、特徴のひとつです。効率重視ではない、一人ひとりの特性や得意なことに合わせた工程づくりや、持ち味を活かしたものづくりの工夫があります。それは、メンバーさんと職員さんが築いてきた信頼関係や、相手との深い向き合い方から生み出されるものです。

しょうぶ学園の施設長・福森伸さんの著書『ありのままがあるところ』には、「物は人の心のメディア」という一節があります。この言葉は、施設でのものづくりと「民藝」との関連性に触れた文脈で述べられたものですが、モノには作り手の心が映し出されていると同時に、制作に関わった人たちの豊かなの関係性が反映されているように感じます。

さまざまな背景がある人たちが一緒に活動をすること、ものづくりを通して社会との接点をつくることを考えることは、福祉のフィールドに限らず、これからの働き方や社会とのつながり方を考えるヒントになるのではと思います。

どう見せるか、どう届けるか

イッピンの写真は、フォトグラファーさんがスタジオで撮り下ろしています。こんな風に撮ったら魅力が伝わるかなと、毎回スタイリングや構図など、いろいろ練りながら撮影に挑んでいます。

前回の撮影では、静物だけれど「動き」が感じられるように心がけ、プロダクトの背景にある豊かなストーリーやエネルギーが感じられるような写真を目指しました。

フォトグラファーの高倉夢さんが撮影を担当。〈クラフト工房ラマノ〉の鯉のぼりは、テグスで吊って、空を泳いでいるように撮りました

施設の人に話を聞くと、プロダクトをつくった後にそれをどう売るかの課題が大きいそうです。施設内の販売コーナーやお祭り、役所の福祉コーナーなどで販売することが多く、なかなか多くの人の目に止まらないのだそう。適正な価格をつけることも難しく、時間をかけてつくられているにも関わらず、安く販売してしまうこともあるのだとか。

また、オンラインで販売する方法もありますが、支援がメインの仕事である職員さんの手がそこまでまわらず、実際に対応できているところはまだほんの一部と聞きます。

障害のある人がつくるものとしては、アール・ブリュットやアウトサイダー・アートと呼ばれる、絵画や造形作品が取り上げられることが多く、福祉発のプロダクトはあまり知られていないかもしれません。目にしたり、実際手にとったりする機会も、まだ少ないのではと思います。

まずは、プロダクトの魅力を少しでも多くの人に伝えていきたい。そして、現場が抱える課題やそれに対する取り組みや工夫についてなども、いろいろな施設を訪ねていきながら、少しずつご紹介していきたいと思います。

話が長くなりましたが、福祉発のプロダクトの面白さに出会っていただけたら、そして自分だけのイッピンを見つけていただけたら嬉しいです!

(編集部 岩中可南子)