個と個で一緒にできること。福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉マガジンハウス

こここ編集部より

メディアをつくる「チーム」と「コンパス」
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【写真】かべいちめんにはりだされたかみにんぎょう
こここレポート 「『わからない』を笑いに変え、ツッコミで社会を滑らかにする! 『なんでそんなんプロジェクト』レポート」より。3歳のハルタニくんがつくった、1000体以上の元阪神タイガース・鳥谷敬選手。(撮影:川瀬一絵)

記事が対話のきっかけになるように

こんにちは。編集長の中田です。ラマノの鯉のぼりがエアコンの風でゆらゆら揺れる仕事部屋からお届けします。

〈こここ〉がオープンして約半月が経ちました。正直、創刊するまでは本当にどきどきしていたので、ご覧になった方からの率直な反応や感想に励まされたり、勇気づけられたりする毎日です。ありがとうございます。

〈こここ〉全体にも、それぞれの記事にもさまざまなコメントをいただきました。たとえば、写真家・齋藤陽道さんによる連載「働くろう者を訪ねて」では、「こんな情報がほしかった」「字幕なしの手話動画が新鮮」などの声が寄せられています。

とある、ろう学校の先生からは、「齋藤さんの記事をぜひ生徒に紹介したい」と、編集部宛にメールをいただきました。その先生は、学校の掲示板に記事のQRコードを張り出し、その横に「あなたの知っているろう者の職業を教えてください」という書き込みコーナーまで用意されたそう。〈こここ〉の記事を「情報」としてだけではなく、「対話のきっかけ」として使っていただけるなんて。編集部としてこんなにありがたいことはありません。

「こここについて」でも書きましたが、〈こここ〉は答えを用意するのではなく、「問い」を抱えて旅をしては一緒に考えるような、そんな過程を共有するウェブマガジンを目指しています。編集部ではずっとそういったことを話してきたので、先生からのご連絡は、本当に嬉しい出来事でした。

さて今回は、そんな〈こここ〉の立ち上げの話をさせてください。

新米編集長の最初の仕事

編集長をつとめる私自身は、実はメディア編集の経験がありません。

じゃあ何者かというと、組織広報やコミュニケーションにまつわる企画制作、アートプロジェクトの中間支援職などの仕事をしてきた人間です(その過程で福祉と表現にまつわる事業に携わったのが〈こここ〉とのご縁でした)。

情報を扱ったり、さまざまな人と協働したり、企画制作をしたり……といった経験はあるのですが、ひとつのテーマを持ったウェブメディア運営は初体験。なので「どうやってつくるか」からだいぶ悩みました。うなりながらメディア編集の先輩方をたずねてまわり、わかったことはひとつ。

編集長の仕事とは、方針・予算・チーム・ルールなど、メディア全体の基本設計をし、運営に責任を持つこと。

……なるほど。腹をくくった私が最初にしたことは、メディアの名前と大まかなコンセプトを決めること。そして一緒にウェブマガジンをつくっていく編集部という「チーム」と、進む先を定める「コンパス」をつくることです。

とにかく人が集まらないことには、ウェブマガジンはつくれません。どんなチームがいいだろう。第一の関門はそこでした。

悩んで立ち止まれるチームがいい

ひとくちに「編集」と言っても、扱うテーマや媒体(ウェブ・雑誌・書籍など)によって、専門性がまったく違います。(心底申し訳ないと思いつつ)編集長に経験が足りないのならば、最短最速の道は、テーマと媒体に慣れた編集者でチームを固めることです。

でも、それは、やめました。

もちろん、ウェブメディアの編集・運営経験は重要です。福祉やクリエイティブ分野への知識と好奇心も欠かせません。だけど最初からスキルが揃いすぎてしまうと、お互いの専門性に遠慮して議論ができなかったり、王道を越えたやりかたを見出すことが難しくなります。

〈こここ〉をつくるには、人権や尊厳、社会問題にも触れながら、それを「みんなのもの」としてやわらかい企画へと翻訳していことも必要です。ただでさえメディアはパワーを持つものなので、やりかたを間違えれば誰かを傷つける可能性もあります。だからこそ、悩んで立ち止まれるチームをつくろうと考えました。

こうして結成した編集部は5名。統括プロデューサー1名、記事をつくる編集者3名、リサーチ&SNS担当1名の構成です。

職業経験はメディア編集のほか、コーディネーターや広報PR、バイヤーまでさまざまで、年齢は25歳から60歳。福祉領域との関係についても、仕事として触れてきた人、家族に関わりが深い人、逆に初めて携わる人とそれぞれ。全員が文化やクリエイティブ領域にも関わっていますが、演劇、パフォーミングアーツ、アートプロジェクト、ファッション、デザイン、まちづくりなど、少しずつ異なる分野にいます。

得意なことが重なっていたり、微妙にずれていたり。「ジャンケンでずっとアイコが出る」とか「みんなで布を引っ張って受け止める面積をひろげる」みいたいなバランスを意識しています。ちなみに共通点はおおむね性格が穏やかで、おしゃべりなところ。人に接する仕事なので接地面の柔らかさも大切です。

こうして〈こここ〉編集部は、放っておくと何時間でも話し続け、悩み続ける、“ぐるぐるしがち”なチームになりました。

記事一本つくるのすら延々と悩むので大変ではありますが、この先どんなことでつまずいても、「立ち止まっていい、悩んでいい」という初期設定が〈こここ〉の進むべき道を照らしてくれるはずです。手前味噌ですがすごく信頼できるチームです。

【写真】こここへんしゅうぶのごにん
〈こここ〉編集部。左から、垣花つや子(編集)、岩中可南子(編集)、中田一会(編集)、ちばひなこ(SNS担当)、及川卓也(統括プロデューサー)。(撮影:加藤甫)

ルールではなくコンパスを持つ

そんなチームで立ち上げた〈こここ〉ですが、運営方法や使用する文言、ウェブサイト、記事づくりの手順や形式まで、すべて同時並行で手分けしながら検討してきました。

こういうとき、根っこの「考え方」が揃っていないと逐一判断がつきません。そこで作業を進めつつ、チームで議論しながらつくったのが「こここのコンパス」という編集方針にまつわるドキュメントです。

【画像】こここのコンパスのどきゅめんといちらん
「こここのコンパス」ドキュメントの一部。2021年2月につくりはじめ、現在はバージョン2。今後も更新していきます。

コンパスの中には、「合言葉」「ミッション」「届けたい相手」「扱うテーマの範囲」などの章が並んでいます。それぞれの大きな方針を提示しつつ、その背景にある想いやまだ悩んでいることも細かく書きました。

たとえば「〈こここ〉における“クリエイティブ”とは何か?」という問いにもたくさんのアプローチがあるので、「これもそうかもしれない」「あれもそうかもしれない」ということを書き連ねて、忘れないように残しています。

記事の形式も企画ごとに判断するという方針をコンパスで決めていて、その代わりに「やらないこと」「推奨すること」の例を細かく共有しました。そしてコンパスそのものも定期的に見直して更新していきます。

細かいルールではなく、大きな方向性を示すコンパスを持つ。その上で進め方は各自が考えるということを〈こここ〉では大切にしています。

初心を忘れないために

以上、ちょっと長くなってしまいましたが、〈こここ〉をつくるチームとコンパスの話をまとめて書いてみました。この内容を、わざわざ2回目の編集部ブログで触れたのには理由があります。

「立ち止まって悩み続けること」も「議論しながら目指す先を間違えないこと」も、余裕のあるうちはできることです。本当に大事なのは続けること。初心を忘れず体現すること。だからこそ、こうして外に向け宣言することで、自分達への戒めにしたいと思いました。

創刊にあたっては、想像よりずっと好意的なコメントをいただきましたが、商業メディアが福祉というテーマを扱う不安に言及してくださる方もいました。SNSを通じ「これからも注視していきます」と言っていただいたこと、本当にありがたく感じています。

〈こここ〉は福祉につらなる人・物・事をたずね、やわらかく軽やかな入り口をつくっていこうというウェブマガジンです。その「手つき」が人を傷つけるものになっていないかは常に考えていくべきことですし、厳しく評価されるべきことだと考えています。私自身、至らないところが多く勉強中の身なので、不安は尽きません。だからこそ、その思考と実践を正直にさらして問うしかないのだと思っています。

「倫理」と「遊び」と「所在なさ」を大切に

最後に。「こここのコンパス」では、編集部の行動指針を「『倫理』と『遊び』と『所在なさ』を大切にすること」と決めました

何がよくて、何がそうではないのか、その理由を考え続けること。楽しさ、実験、チャーム、ユーモアを大事にすること。そして、固定された領域がなく、足場も曖昧な状況を自覚して、ずっと中間をうろうろし続ける態度を維持すること。

この姿勢を来年も5年後も保てるだろうか。2021年4月の私は、未来の自分や編集部をじっと見ています。そして、〈こここ〉を読んでくださるさまざまな人もまた、見ているのだということを忘れません。

ということで、初回からまじめな記事が続きましたが、以降このコーナーは、編集部員からの日々の報告や取材裏話などもお届けしていきます。お楽しみに。

ちょっと今回、“遊び”が足りなかったかな……編集部メンバーに「次が書きにくい!」と言われそうだな……と反省しつつ。

(編集長 中田一会)