
名刺交換で「マナー」とされるふるまいが、身につかないまま、今日まで生きてきました。こここ編集部の垣花(かきのはな)です。初対面の人と名刺交換をするとき「この出会い方でいいのだろうか」というきもちが高い頻度で顔を出します。
今回は、以前記事を公開した広島県福山市にある「鞆の浦・さくらホーム(以下、さくらホーム)」の取材調整をどのように進めたのか書いてみます。
取材依頼の流れ(ざっくり)
訪問取材をするとき、「こここ」という媒体の説明や企画テーマ、取材したい場所、取材希望時期、謝礼、記事掲載までの流れ、備考などを記載した「取材依頼書」を取材先の窓口に送付します。それを確認いただいた上で、お受けいただけるかどうか判断してもらいます。
今回に限っては、他の編集部メンバーとさくらホームで働く方が知り合いではありましたが、「知り合いだからなんとなく依頼する」ことは決してなく、企画を立案し、それをもとに取材依頼書を作成、打診を進めました。
(そもそもどのように企画を立てて、編集部内で決定するのか、取材したい先はどのように見つけているのか、そこを書こうとすると、今回書きたい「取材調整」に辿りつく前に内容てんこもりになってしまうので、割愛します。)
依頼後、ありがたいことにご快諾いただき、取材調整の窓口を担当してくれたのは高本友子さんです。高本さんは新聞記者からさくらホームのスタッフになった方で、取材当時デイサービスの介護スタッフとして働きながら、取材の窓口や広報的な役割を担っていました。(現在は相談支援事業所で相談業務を主に担っているそうです。)
高本さんが書いた「『地域福祉』を知りたくて、新聞記者から介護スタッフになった話」もすばらしいのでnoteのリンクを貼っておきます、こちら。
取材日程調整のやりとりを進めつつ、こちらの企画テーマ「安心して歳を重ねられる町とは? 」を踏まえて、どの働き手に話を聞くのがいいか、さくらホームの現在地の情報や運営している宿、地域のお祭りについてなど多くの情報を共有いただきました。
「事業が幅広く、全体像を把握していただくのに時間を要すると思うので、都合がつけば2泊3日の滞在もご検討ください」
やり取りの中で高本さんから提案がありました。その提案をきっかけに、当初は1泊2日で1記事を作成する想定だったものを、2泊3日で2記事作成に調整しました。
なぜ1泊2日を2泊3日に?
滞在日数が増えるということは、そこに関わる人の拘束時間が増えます。取材の対応をするさくらホーム側の負担も増えます。
地域で暮らす人の暮らし、まちを大事にする姿勢をもち事業を行っているさくらホームには、日々担う仕事があります。取材が入るということは、その日常に対して影響があり、スケジュールや人員配置など事前の調整が多く発生します。わたしとしては、取材によって日常業務の邪魔になったり、働くスタッフが望んでいないのに負荷があがることは避けたい。
また取材チームとしても、限られた予算と謝礼、他の仕事や業務との兼ね合いのなかで、2泊3日滞在することになります。取材時間をやみくもに増やすこと=いい影響が生まれるとは限りません。
今回なら「安心して歳を重ねられる町とは? 」というテーマを掘り下げ、そのまちの日常にすこしでもふれたい。そのためには時間が必要だと思いました。駆け足になりがちな取材が、散歩までは行かないまでもジョギングになるくらいには粘りたかった。それらを踏まえ、高本さんをはじめとするさくらホーム側、取材チーム、こここ編集部メンバーに慎重に相談した上で、2泊3日滞在という形をとりました。
わたし自身のこれまでの経験も影響しています。こここに限らず、さまざまな媒体で取材を経験してきました。あくまで自分が関わってきた範囲ですが「短い時間、端的に、効率的に、円滑に、整理された言葉同士のやりとりを行う」のが「いい取材」である。そんな価値観が根底にあった気がします。
前述した通り、時間をとると相手も自分も負担があがります。お互いの目的を達成するための最適解がそれであればいいかもしれません。しかし、実際はそうではない方がいい場合でも、「短い時間、端的に、効率的に、円滑に、整理された言葉同士のやりとりを行う」が選ばれてしまう苦しさがありました。その条件下になんとか適応できた人しか「取材」との相性は良くないし、出せる、出てくる言葉や表現には偏りがあることのおそろしさがありました。
訪問先のこと、その場所や人が大切にしていることを知りたいのに、味の濃いところだけを出してもらってつまみ食いするように話を聞いて、帰って、記事にする。それでいいのだろうか。いや、「取材」がその人にとってどれくらい重要で、どれくらい時間をかけたいものなのかが違うからそれはもちろんあるけれど、でも、なんだかなあ……。
取材の時間が増えたとしても、1泊2日が2泊3日になったとしても、その場所で大事にされていることを全部知ることはできません。その地域に暮らして、はじめてわかることもあれば、わからないことが増えていく場合もあるでしょう。それでも、すこしでも「いい出会い方」を模索したかった。
ちなみに、事前に読める資料は企画案立案の時点で、ひと通り読み込んでいます。また高本さんから共有いただいたさくらホームの資料や著書なども、事前にすべて目を通し、何度も読み、前提情報は確認しています。すでに出ている情報に存分にふれつつ、これまで何が語られていて、何が語られていないのかなど、できる限り知ろうとしています。
取材スケジュールどうしましょう?
2泊3日滞在の決定後、取材スケジュールをどうするか高本さんとオンラインで打ち合わせしました。こちらが取材で何を知りたいか、さくらホームとして何を知ってもらいたいか、そのためにどういう出会い方がいいか。すり合わせを進めました。
出会い方で大切にしたのは、創業者や経営者から事業全体の話を最初に聞くのではなく、まずは、さくらホームが大事にしている利用者宅への訪問の現場に同行させてもらうこと。その上で、働き手に話を聞かせてもらったり、高齢介護事業ではない場所をたずねさせてもらう形になりました。
創業者や経営者の想いや言葉を先行して聞いて、その答え合わせをするような取材はしない。なんだかわからないこともあるかもしれないけれど、環境にふれながら身体で経験し、そこで感じたことを逃さないようにしつつ、後半の日程でインタビューにのぞめればと思っていました。
訪問の現場に同行する。そう書きましたが、これも当たり前に実現できることではありません。サービスを利用する方々の家、プライベートな空間にあがることになります。取材を迎え入れてくれる方もいれば、踏み込んでほしくない方もいます。その許諾をとっていくこと、話を聞くのはOKだけれど、写真はNGの方もいます。事前の確認に関しても、それができる範囲のものと、当日様子を伺いながら確認する部分と、さまざまです。事前の確認や取材時にはOKと言われたとしても、後日NGが出る場合ももちろんあります。
利用者をはじめ町で暮らす人たちと日々関わりながら信頼関係を築こうとする働き手の存在がいるからこそ、取材の相談ができる場合がほとんどです。今回、訪問の現場に多く立ち会えたのは、さくらホームの働き手とともに自らも働きながら取材調整にも入ってくださる高本さんの存在が大きいと感じました。
出会い方やその環境によって、人から出てくる言葉や表現が変わる

さて事前に取材調整を進めたあとは、実際に当日に向けて準備を進めたり、当日の段取りやどういうことを大事にしながら取材にのぞみたいかチームで共有したり、臨機応変にもろもろ判断したり、1日ごとに取材チームで振り返りしたり、スケジュールの変更などを確認したり、取材が終わったら原稿作成に向けて……記事完成までもたくさん過程があるのですが書ききれなさそうです。
今回は取材日程調整の裏側について、ふれてきました。なぜそんなことを書いてみたのか。出会い方やその環境によって、人から出てくる言葉や表現が変わるという当たり前のことを確認したかったからです。
定型とされている取材のあり方や環境から出てくる言葉や、そこからつくられる記事はどうしても偏りがあります。そうならないように企画者や取材を担う人たちは個人のレベルで工夫を重ねています。でももうすこし違うレイヤーの時点で設計ができると、それぞれの「なんだか苦しい」がやわらぐ機会は増えると思うんです。
そもそも言語もたくさん存在するし、直接喋るのが得意な人もいれば、テキストでのやり取りが得意な人もいれば、身体で示すのがいい人も、遊びながら一緒に過ごすのがいい人も、大人数がいい人も、1対1がいい人も、早く応答するのが得意な人も、じっくり時間をかけて言葉を紡いでいく人も、いろいろいる。関係性によっても、出てくる言葉は違う。親しいともだちと、一緒に住む人と、道で偶然会った人とで、出てくる言葉は異なります。
であれば取材の形ももっといろいろあっていい。あってほしい。その実現には、自分だけではなくて、双方向的なやりとりと相談が必要。お互いどんな環境で、どう出会いたいか、そこからはじめたい。
ここまで書きつつ、そこには、1回目の出会いに比重を置きすぎている側面も感じてます。さらにいうと「出会い方を失敗したら取り返しがつかない」という観念が強く出てしまっている気がします(出会いは出会いだろ、失敗とかないだろ!)。継続的な関係を前提とするのであれば、最初の出会いよりも、そのあと、どういうやり取りを重ねていったかも大事なのに。そっちについても考えていたりしますが、するのですが、あ、もう、今回は、終わります。
垣花つや子でした。
