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人生を閉じるときに訪れる、心身の変化。看取りの現場から生まれた書籍『人のさいご』が発刊
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「さいご」までの経過を知り、大切な人と過ごす時間を考える

【写真】窓際に置かれた書籍
撮影:尾山直子

誰にでも、いつの日か訪れる「さいご」。その瞬間が近づいてきている時、私たちの体には、どういった変化があらわれるのでしょうか。食事、睡眠、感覚は、どのように変わっていくのでしょうか。個人差や病気による違いはあるものの、具体的な経過を前もって知る機会は、あまり多くありません。

2024年6月、桜新町アーバンクリニックが、書籍『人のさいご』を発行しました。看取りの現場で働く経験から生まれた本著には、「人のいのちがどう閉じられていくのか、前もってその知識に触れておくことが、きっと大切な人と過ごす時間をかけがえのないものにしてくれる」との願いが込められています。

一方で、さいごについて考えるのは怖い、という人も多いかもしれません。思わず目を背けたくなるのは、きっと自然なことです。本著の「はじめに」では、怖い場合は「無理をしなくて大丈夫」と呼びかけています。信頼できる人に代わりに読んでおいてもらったり、本棚に置いておいたりと、向き合い方はさまざまです。

患者の助言を得ながら作った、「本人」が読める本

手がけたのは、訪問看護認定看護師の國居早苗さん、緩和ケア認定看護師の林瞳さん、訪問看護師の尾山直子さんと、クリニックの運営に携わる神野真実さんら。尾山さんは東京都世田谷区で訪問看護師として働く傍ら、写真家としても活動しています。

制作のきっかけは、看取りの場で出会った人々から「人は死ぬ時にどう変化していくのか」と問われた経験だったそう。家族向けのパンフレットは存在するものの、患者本人が読めるものがないとの問題意識から、本著は本人を含む、あらゆる人が読むことを前提として書かれています。実際に患者である人たちに原稿を読んでもらい、助言を得ながら編集されました。

【写真】公園にて、笑顔で横に並ぶ女性4名
左から神野さん、國居さん、尾山さん、林さん(撮影:尾山直子)

全44ページとコンパクトで風合いのある紙に印刷された本著は、やさしい言葉とあたたかい雰囲気のイラストで構成され、横になっているときも気軽に読めるようなつくりです。全3章のうち第1章の「人のさいご」では、心筋梗塞、がん、慢心性不全や老衰など、病気によるプロセスの違いを図で紹介。その上で、「いま、できること」という視点が大切だと伝えます。

「一番大切なのは、あなたの気持ちと身体が守られること」

第2章「いのちを閉じていく自然な経過」では、具体的にどのような変化があらわれるのかを紹介しています。ひとつめとして挙げられているのが、「急な変化」。食事の準備、入浴、歩いてトイレへ行くなど、これまで当たり前にできていた生活の動作ができなくなり、「症状が押し寄せてくる」印象を持つことがあるといいます。本著では「一番大切なのは、あなたの気持ちと身体が守られること」という点を強調しています。

さらに、関心や視点にも変化が表れます。

外交的で周りの人の気持ちに配慮していた人も、社会の動きに敏感で博識だった人も、関心の向かう先が「社会や周囲の人々」から「自分自身」に変化していきます。友人が訪れても今までのようには喜べないことも、社会や家族のことに関心が薄くなることも、自分の欲求に正直になっていくことも、それは自然なことです。積み重ねてきた「あなたらしさ」は、ちゃんと周囲の大切な人たちの中に生きています。

『人のさいご』P16より

他にも、食事の量、睡眠時間や尿の量の変化、「身の置き所がない」という体感、「夢と現実が混ざりあう」ような感覚について、丁寧につづられています。主眼に置かれているのは、どうすれば本人が心地よく過ごせるのか、という点。たとえば食事に関するページでは「無理はせず、食べたいときに、食べたいものを、食べたい分だけ、食べられればよいのです」と書かれています。

【写真】書籍のページ
撮影:尾山直子

いくつかの項目には「家族のひとへ」という欄が設けられています。ここでいう「家族」とは、血縁関係のある人に限らず、パートナー、知人、友人、なじみのヘルパーさんなど、広い意味で「信頼している誰か」。付き添う人が不安に感じやすい点に触れつつ、やさしくアドバイスしています。

聴きたい音楽、救命処置、服装。事前に話し合っておきたいポイントも紹介

第3章の「いのちを閉じるとき」では、いよいよ最期を迎える段階を説明しています。手足の色や息遣いに変化が表れる一方で、聴覚は最期まで残っていると言われているそう。その時になったら聴きたい音楽を伝えておくなど、事前にできることも紹介しています。

【写真】書籍のページ
撮影:尾山直子

そして、「お別れのとき」のページには、このように書かれています。

お別れのときは、ふとしたときに訪れます。家族が眠っている間だったり、少し席を外したとき、ということもあります。それは思いがけないタイミングかもしれませんが、お別れは瞬間的なことではなく、それまで一緒に過ごした時間が大切なのです。

『人のさいご』P36より

さらに、容態が変わった時に救命処置を求めるかどうか、エンゼルケア(亡くなったあと、身なりを整えるケア)ではどのような服を着たいかなど、家族らと事前に話し合えるポイントも紹介しています。

【写真】本棚に置かれた『人のさいご』
撮影:尾山直子

本著の購入方法は、公式ウェブサイトからの予約です(詳しくはInformation欄へ)。

さいごまでの道のりを知ることは、「自分らしく人生を閉じること」、そして「自分らしく生きること」について考えるきっかけにもなり得ます。もちろん、「知りたい」と思うタイミングは人それぞれ。気持ちが向いた時には、この本が寄り添ってくれるかもしれません。