福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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こここなイッピン

革靴のアップサイクル・デザイン・プロジェクト〈konst〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

日本各地の福祉施設に出向き、オリジナルの「創作レシピ」で障害のある人の表現を引き出すワークショップを展開する〈konst〉。さらに、企業と障害のあるクリエイターたちの創作をつなぎ、プロダクトに変えていくその活動や思いとは?

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得意をかけ合わせる「創作レシピ」から立ち上がった、世界にひとつだけのシューズ

【画像】様々な色と模様にペイントされた革靴が並んでいる

たちまち人々の視線をうばうような、カラフルで、パンキッシュで、遊び心たっぷりなデザインブーツ。レースアップ、デザートブーツ、ワラビーと、トラディショナルなスタイルながらも、色や模様にどこかプリミティブな雰囲気があって。うーん、かっこいい!

これらのブーツを企画したのは、長野県軽井沢町を拠点に活動を行うデザインスタジオ〈konst(コンスト)〉。デンマークのフットウェアブランド〈duckfeet〉とともに、2024年にスタートさせたアップサイクル・デザイン・プロジェクトによるアイテムです。

シューズの製造時や流通・販売過程で出てしまった“B品”に、マスキングテープやシールなどを貼り、その上からペインティングした、世界にひとつだけのシューズ。もとはB品だったとしても、そんな訳アリもどこへやら。

見た瞬間にぐっと惹き込まれるこれらのクリエイティビティは、どのような場とプロセスから生まれるのでしょうか?

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“手紙のやり取り”から生まれる創造性

2024年7月、軽井沢町にある地域活動支援センターに、障害のある人々、支援員、〈duckfeet japan〉のCEOやスタッフ、ボランティア、そして〈konst〉が集結。伝統的な靴と偶然の美が出会うワークショップを〈konst〉が企画し、障害のあるクリエイターが手を動かし、創作する時間が設けられました。

まずは、シールやマスキングテープを貼ることが好きなクリエイターに、プレーンの靴を託して、心の赴くままに装飾してもらいます。丸いシールを均等に貼る人もいれば、細いマステを格子状に貼る人や、細かくちぎって貼っていく人も。それぞれの美学で装飾された靴を、今度はペイントするのが好きなクリエイターへバトンタッチ。そうして別視点の感性が加わり、新たな装いをまとっていきます。

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「この創作のなかで、僕らはなにも指示はしていません。ただ大事にしたのは、クリエイターの得意はなにか? ということ。シール貼りが得意な人と、ペイントが得意な人の創作のなかから自然に立ち上がったのが、これらの靴なんです。さらにいうと、この創作は“手紙のやり取り”でもあります。シールが貼られた靴という手紙を、君はどう受け取るの? と、ペインターに渡すんです」

そう語るのは〈konst〉の共同代表であり、デザイナーの渡部忠さん。絵の具が乾き、クリエイターたちの手紙のやり取りを、シールを剥がすという作業のなかでひらいていくと、想像を超えた、驚くべき世界が広がっていたといいます。

「あなたはこの靴をどう履きこなす?」もしかするとこの靴には、クリエイターからのこんなメッセージが続いているかもしれません。あなたなら、この手紙をどう受け取るでしょうか?

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1975年にデンマークで誕生し、上質な天然素材を用い、たくましくしなやかな手仕事を続けている〈duckfeet〉。皮を提供してくれる動物たちの生育環境や、携わるメンバーの労働環境など、素材から生産のすべてに意識を向け、持続可能性と正面から向き合ったものづくりを行っています

寄り道から生まれるもの

家具デザイナー・クリエイティブディレクターの須長檀さんと、グラフィックデザイナー・ディレクターの渡部忠さん。デザインスタジオ〈konst〉は、このふたりによって2022年に立ち上げられました。

その活動は、全国の福祉施設に出向き、ワークショップを通じて障害のある人の表現を引き出す「創作レシピ」を支援員に伝授したり、活動から生まれた表現を活用しやすいデザインに変換したり。福祉の創作現場を育て、そこから生まれる原画や表現をテキスタイルやプロダクトなどに展開する活動を行っています。

「多くの福祉施設さんは『自分たちにデザインは関係ない』っておっしゃられるんです。けれど、ジャムをつくる施設なら利用者さんが果物のヘタをとったり、清掃活動が主な施設なら掃除をしたりしますよね。僕らがいう創作とは、それと同じ考え方。そうした時間を用意させてください、ということなんです」

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とはいえ、表現活動に取り組んでいない施設に、創作という考え方を根付かせるには時間がかかるのでは? ……と思いきや「3~4回目くらいになると、みんながちょっと湧いてくるというか。利用者さんも本当の意味で“参加”してるなって感じがしてくるんです」と渡部さん。

たとえば、某施設への入所当時から窓辺に座って演歌を流し、ひとりでおり紙を折るばかりのAさん。〈konst〉のワークショップにも当然のように関心を示さないかと思いきや、4回目には突然Aさんがワークショップのテーブルへ着座。「奇跡が起きた……!」と支援員全員がざわついたのだとか。

「その日から2年間、Aさんはすべてのワークショップに参加しています。創作を通じて僕らはAさんと会話ができているような気がするんです」

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黄色いデザートブーツは、じつはAさんが関わったイッピン。Aさんは丸いシールを貼るのが大好きなのだとか

こうした出来事を機に、支援員のマインドも変化。利用者が生み出す表現や創作に対する目線も変わっていくといいます。

「大人になるにつれ、ゴールを目指して効率よく進めてしまうクセがついてしまいがちです。けれど、自分たちが関わってきた障害のある人たちのなかには、思わぬ“寄り道”を提案してくれる人もいて。そうしたなかで、こっちの美しい湖や、あっちのきれいな森にも辿り着く。それが僕らが大事にしたい創作なんです」

「創作とはなにか?」北欧に学んだレシピ

こうした〈konst〉の活動には、スウェーデンにあるアート・デザイン専門福祉アトリエ〈Formverkstan(フォルムヴェルクスタン)〉のフィロソフィーやアートメソッド、エッセンスが詰まっているといいます。

〈konst〉がスタートする以前、福祉事業のディレクションを担当することになった須長さんは、かつて暮らしていたスウェーデンの〈Formverkstan〉に学ぶものがあるのでは、と視察を申し込みます。そこで、同アトリエの理念、姿勢、支援員と創作の関係性などを目の当たりにし、日本で目指したい姿を明確にすることになりました。

そして、現在〈konst〉が企画するワークショップは、この北欧のアトリエで得たものをエッセンスとして加えたオリジナルの「創作レシピ」として展開しています。

「利用者さんにただ絵を描いてもらうのではなく、僕らはそこに『創作とはなにか?』というレシピを加えるんです。各施設の利用者の特性と、クライアントが入る場合は企業が求めるものとをすり合わせて、レシピを都度変えていきます」

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企業と福祉をつなぐにあたり、必ず交わす“条件”

今回のイッピンも〈duckfeet〉との協働プロジェクトであるように、〈konst〉にはさまざまな企業からものづくりの問合せがあります。

そうしたとき、〈konst〉が必ずクライアントに提示する“条件”があります。それは、企業の代表、スタッフ、デザイナーなどに、創作が生まれる「場」に入ってもらい、クリエイターと一緒に創作にかかわってもらうこと。

「素材が立ち上がるプロセスや、その場に満ちる喜びなどを、見て、体験してもらいたいんです。ちなみに協働のスタート時点では、最終的に形となるプロダクトは決まっていません。ですが、クリエイターと時間をともにし、創作の場を目の当たりにすることで、プロダクトのアイデアは広がっていきます。そして、その素材を生かして『なにをつくってもいい』となると、デザイナーもパワーが生まれるはずです」

〈konst〉の活動は、“福祉施設との創作”がベースにある一方で、そのものづくりのプロセスは福祉に限らず、どのようなクリエイティブの場においても、新しいものを生み出すアイデアだったり、ヒントをつかむ機会になりそうです。日頃からデザインやものづくりなどに関わる人ならば、その活動を知るほどにワクワクが止まらなくなるかもしれません。

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さて、今回のイッピンは、現在〈duckfeet〉にて耐久試験などを繰り返し、販売商品として展開するための準備の最中にあります。色や柄も本記事の写真とはまた違う靴が生まれているのだとか!

販売開始時期は未定ですが、ゆくゆくは須長さんが軽井沢にて運営するファニチャーショップ〈NATUR terrace〉や〈lagom〉に並ぶことがあるかもしれません。気になる方は、各ショップや〈konst〉の公式サイトやSNSなどでチェックしてみてくださいね。