福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

こここ文庫

在宅ひとり死のススメ 上野千鶴子(著)

本を入り口に「個と個で一緒にできること」のヒントをたずねる「こここ文庫」。今回は介護に志を持つ若手のコミュニティ「KAIGO LEADERS」発起人であり、株式会社Blanket 代表取締役 秋本可愛さんに選書をお願いしました。テーマは「ウェルビーイングに年を重ねるために」です。

ご紹介するのは、上野千鶴子さんによる『在宅ひとり死のススメ』。女性学・ジェンダー研究・介護研究の開拓者の一人として活躍してきた著者が「おひとりさまの最期」を支える最前線を紹介。秋本さんは「自分自身や大切なひとに介護が必要となったとき、どうしたいのか、どうして欲しいのか一緒に考えるきっかけになる」と言います。

ざいたくひとりじのすすめのひょうし うえのちづこ
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前向きに歳を重ねていくことを諦めないために

“おひとりさまなら、ひとりで暮らして、ひとりで老いて、ひとりで介護を受ける……そしてある日、ひとりで死んでいる。それがそんなに特別なことでしょうか? わたしなど、ひとりでいることが基本ですから、死ぬ時にだけ、親族縁者、友人知人が枕元に大集合するなんて、かえって不自然に思えます。”

『在宅ひとり死のススメ』P.92


独居高齢者の増加や孤独死から連想するイメージはネガティブなものばかりで、ひとり=「さびしくて、辛いもの」であるという偏見がどこかにありました。

しかしこの本では、『老後はひとり暮らしが幸せ』の著者である辻川覚志さんが独自で調査したデータを参照し「独居高齢者の生活満足度の方が同居高齢者よりも高い」ことを教えてくれます。

認知症があっても、専門職の適切な支援があれば、ひとり在宅で暮らすことができる。本人が望むのであれば自宅で最期を迎えることができる。そう気づかせてもらえる複数の事例が記されています。上野さん自身が持つ「在宅ひとり死」への強い意思に触れることができ、どこか前向きな気持ちになれる本です。

「介護が必要になったら、施設に預けてね。面倒かけたくないから」

母はときどき私につぶやきます。そんな母と一緒にこの本を読んでみたい。それは「おひとりさまになっても大丈夫」という言葉で、突き放したいわけではありません。自分自身や大切なひとに介護が必要となったとき、どうしたいのか、どうして欲しいのか一緒に考えるきっかけになると思ったからです。「独居」や「孤独死」への漠然したイメージから生じる不安だけをみてこれからを考えるのではなく、前向きに歳を重ねていくことを諦めないために。