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こここ文庫

ひとりひとりの人 僕が撮った精神科病棟 大西暢夫(著)

本を入り口に「個と個で一緒にできること」のヒントをたずねる「こここ文庫」。今回は、精神障害のある人などが通う、就労継続支援B型事業所〈ハーモニー〉施設長・新澤克憲さんに選書をお願いしました。テーマは「福祉のことが気になりはじめた人にまず触れてほしい一冊」です。

取り上げるのは、写真家・大西暢夫さんによる『ひとりひとりの人 僕が撮った精神科病棟』。2004年に出版され、現在は絶版になっている写真集です。新澤さんは、日本の精神科病院のことを考えていく上で、「この本に“引退”されては困る」と言います。今回は撮影された大西さんと被写体の方の許可を得て、本書に収録されている写真の一部も合わせてご紹介します。

【画像】ひとりひとりのひと ぼくがとったせいしんかびょうとう しょせきひょうし
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屈託のない笑顔、小さな不思議、ユーモラスなこだわり

普通の人"ってどんな人なのか、僕にはわからない。またどこかで会えるのであれば、今度は病院じゃないところがいい。

『ひとりひとりの人 僕が撮った精神科病棟』 P.43


「精神科病棟の……」と身構えて見はじめると、ページに溢れる屈託のない笑顔にあてが外れるかもしれません。うれしくなってページを繰っていくと、いたるところで小さな不思議と出会います。

【写真】はんがーにほされたえいじしんぶん

ハンガーに吊るされたバトミントンのシャトルと英字新聞、沢山のお守りを身につけた人、細密な線画の人物の胸に記された「愛」「子供達」の文字、判読不明の字をビッシリとノートに書きつづる青年……。

ひとりひとりのこだわりが溢れています。どれもがユーモラスで、見る人をトゲトゲしく弾き返すようなものではありません。

ベッドの上で柔和な笑顔を見せる女性の写真に目を奪われます。大西さんは「(彼女が)どうしてここにいるのか僕にはわからない。話をしても“病気”とは思えない」と書いています。本当に素敵な笑顔です。

精神科病床数が人口比で世界一、入院日数も世界最長の国。それが私たちの住んでいる日本です。人生の大半の時間を病院で過ごす人もいるのですが、私にはそれが理不尽に思えてなりません。

この写真集は2004年に出版され、すでに絶版になっています。「昔に比べれば病棟は綺麗になり、食事も美味しくなった。いいところになった」と言う人たちもいます。

しかし、本書の見返しに映し出された鉄格子に象徴される「障壁」は、今も変わらず、彼らと社会の間に立ちはだかっていると私は感じています。だから絶版となって「昔話のネタ」として引退してくれては困るのです。

大西さんは、20年に渡って精神科病棟の人たちの姿を写真に収め、最近は自らが監督した大阪の浅香山病院の患者さんと支援者の映画「オキナワへいこう」を持って全国を飛び回っています。

幸いなことに『ひとりひとりの人 僕が撮った精神科病棟』は日本中の図書館に収蔵されているので、探してみてください。