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終戦から80年。戦争や被爆の記憶を伝える3つの展覧会──東京都写真美術館、川崎市岡本太郎美術館、しょうけい館
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原爆ドームを撮影する岡本太郎(1963年、広島)|提供:川崎市岡本太郎美術館

戦争や被爆の経験を次世代に共有する展覧会が全国で開催

今年2025年は、終戦80年を迎えます。1945(昭和20)年8月15日、日本の無条件降伏が発表され、第二次世界大戦が集結した「終戦の日」から80年が経つ現在、戦時下を生き抜いた戦争体験者が減少し、高齢化も進んでいます。戦争や被爆の経験を次世代に語り継いでいくことが難しくなり、どのように継承していくかがますますの課題となっています。

そうした状況の中、戦後80年の節目に際し、戦争や原爆の記憶を後世に伝えることを目的とした展覧会が、全国の美術館や資料館で開催されています。本記事では、東京都写真美術館、川崎市岡本太郎美術館、しょうけい館で開催中の3つの展示をご紹介します。

当時の広島市民や報道機関による広島原爆写真、現代の広島の高校生が描いた原爆の絵、現代美術のアーティストによる戦争をテーマとする作品、漫画家・水木しげるの体験した作品や言葉など、時代や表現などさまざまに異なる戦争や原爆をテーマにした作品を目にすることができます。

報道機関の連携により実現した、原爆写真と映像の展覧会「被爆80年企画展 ヒロシマ1945」(東京都写真美術館)

東京都写真美術館(東京都目黒区)では、原子爆弾の被害を受けた現地の様子を捉えた写真と映像による展覧会「被爆80年企画展 ヒロシマ1945」が開催中。本展は、資料の所蔵や保存・活用に携わってきた報道機関各社が連携して実現した初めての試みです。広島市民、報道機関のカメラマンや写真家による、広島原爆写真約160点と映像2点によって構成されています(注)。

広島では、原爆が投下された1945年8月6日から年末までに、推計14万人が犠牲になったとされています。あれから80年経った現在、世界では9カ国が核兵器を保有し、世界各地でいまだに戦争は終わらず犠牲になっている人たちがいます。原爆写真と映像を通して、被爆者の「決して繰り返させてはならない」という訴えを広めることを目的に、本展は開催されています。

注:本展は「広島の原爆被害の実態」をテーマとした展覧会のため、一部負傷者などを含む被害の様子を撮影した作品が含まれています。鑑賞に不安を感じられる方は、事前に美術館のスタッフへお声がけください。

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「頭髪の抜けた姉弟」1945年10月5~6日、菊池俊吉(きくち・しゅんきち)氏撮影、田子はるみ氏所蔵
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「御幸橋西詰めの惨状(2枚目)」1945年8月6日、松重美人(まつしげ・よしと)氏撮影、中国新聞社所有、日本写真保存センター管理
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「下村時計店」1945年10月1~10日、林重男撮影、広島平和記念資料館所蔵

新聞社などの報道機関、映画会社、広島原爆被災撮影者会などから提供された写真や映像は、敗戦直後の混乱や占領期の報道統制に撮影者があらがい、守り抜いた資料でもあります。会期中は関連イベントとして、主催である報道各社の担当者によるギャラリートークなどが行われます。今後予定されているイベントとしては、7月31日(木)14:00〜、中国新聞社、朝日新聞社、毎日新聞社、中国放送(RCC)、共同通信社、日本放送協会(NHK)にて、写真と映像に関する調査・報道に力を注いできた担当者が出展作品について解説するギャラリートークが展示室で開催されます。

広島の高校生が描いた原爆の絵と岡本太郎 「戦後80年 《明日の神話》 次世代につなぐ 原爆×芸術」展(川崎市岡本太郎美術館)

芸術家・岡本太郎(1911-1996年)の代表作の1つである巨大壁画《明日の神話》(1968年)は、戦争が生み出した原子爆弾が炸裂する瞬間を描いた作品です。第五福竜丸の被爆をテーマに、原爆の悲劇を乗り越え再生する人間の力強さが描かれています。

長らく行方不明だった本作が2003年にメキシコで発見されてから、日本に移送され、修復の後に一般公開を経て、2008年にJR渋谷駅と京王井の頭線改札口を結ぶ連絡通路に設置されました。その《明日の神話》の原画である油彩画の1つが、川崎市岡本太郎美術館に所蔵されています。

現在、川崎市岡本太郎美術館では《明日の神話》と、広島の高校生が描いた原爆の絵、そして現代のアーティストによる戦争や紛争、社会問題をテーマとする作品を展示する「戦後80年 《明日の神話》 次世代につなぐ 原爆×芸術」展が開催中です。

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岡本太郎《明日の神話》1968年、川崎市岡本太郎美術館蔵

本展開催のきっかけとなった、広島市立基町高等学校の生徒たちが描いた「原爆の絵」は、被爆者から半年以上にわたり話を聞きとり、その記憶を描いたもので、20年近く続けられている活動です。高校生たちが描いた「次世代と描く原爆の絵」42点、そして第一線で活躍する現代アーティスト9組の作品が、本展で展示されています。

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「次世代と描く原爆の絵」より。サンガー梨里(証言者:飯田國彦)《皆、どこに消えたの?》2021年、広島平和記念資料館蔵
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李晶玉《Ground-Zero》2022年、個人蔵
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冨安由真《影にのぞむ》2023年、作家蔵(原爆の図丸木美術館での展示風景-撮影:加藤健)

会期中は、関連イベントも多数実施。出品作家によるトークイベントのほか、広島の基町高校卒業生と東京造形大学山田ゼミよるギャラリートーク&ワークショップが8月22日(金)、現代美術家・笠木絵津子さんによる映像プロジェクト「現代物理への旅」のトークショーが8月23日(土)に開催されます。

漫画家・水木しげるが描いた戦争体験(しょうけい館)

しょうけい館(東京都千代田)は、厚生労働省が戦傷病者等の援護施策の一環として2006年に開館した、戦傷病者史料館です。館名は、“受け継ぎ、語り継ぐ”という意味の「承継」という言葉に由来します。戦傷病者やその家族等が体験した戦中・戦後の労苦を後世に語り継ぐことを目的に、資料の収集・保存、展示活動を行っています。

現在しょうけい館では、戦後80年の特別企画展として「武良茂(水木しげる)の戦争体験」が開催中です。

【画像】チラシ画像

漫画家・水木しげる(本名:武良茂、1922-2015年)は、1943年に戦地パプアニューギニアのニューブリテン島に派遣され、現地でマラリアにかり、さらに爆撃を受けて左腕を失うなど、過酷な軍隊生活を送りました。それらの体験や現地の人々との交流などは、水木しげるの代表作『総員玉砕せよ!』や『昭和史』に描かれています。本展では、水木しげるが描いた作品や言葉を通して戦争体験を伝えます。

【画像】展示会場の様子
【画像】展示会場の様子
【画像】展示会場の様子

また、常設展示室では、戦地での暮らしや戦時下の療養生活などの記録や当時の資料などが展示されているほか、実際に戦傷病者が使用していた義肢を再現して作られたレプリカに触ることができるコーナーなどもあります。

戦後80年の節目に戦争のない平和な世界を願う

1945(昭和20)年の終戦から長い年月が経過し、戦争体験者から当時の様子を直接聞くことが難しくなっていますが、写真や映像、絵画やアート作品を通して、多くのことを学ぶことができます。今なお世界では戦争や紛争が絶えず起こっていますが、80年という節目で開催されているこうした展覧会に足を運んでみて、戦争や原爆の記憶を受け継ぎ、戦争のない平和な世の中について考えてみる機会としてはいかがでしょうか。