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「養子縁組」にまつわる海外ドキュメンタリーを日本へ。翻訳、映像配信のためのクラウドファンディング実施中
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楽しそうに笑っている子どもの写真が映った、プロジェクトのメイン画像
「Adoption for Happiness」プロジェクトが、2024年7月29日(月)まで支援を受付中

特別養子縁組への理解が広まることを目指して

産みの親(実親)と子どもの親子関係を断ち、育ての親(養親)との新しい親子関係を結ぶ「特別養子縁組」。社会的養護の必要な子どもが健やかに育つための制度として、近年「里親」とともに注目されていますが、日本における特別養子縁組の成立件数は年間580人(2022年)と、先進諸国に比べまだまだ一般的なものとは言い難い現状もあります。

そんな特別養子縁組への理解が広まることを目指して、養子縁組に関する海外のドキュメンタリー作品や当事者(産みの親、養親、養子)のインタビュー映像に日本語字幕をつけて配信するプロジェクト「Adoption for Happiness(幸せになるための特別養子縁組)」がクラウドファンディングを実施しています。

プロジェクト発起人のネルソン聡子さんは、自身が養子を迎えた当事者。当事者の生の声に触れることで、産みの親、育ての親、子ども、それぞれの立場にある人や、その周りにいる人の悩みが減り、幸せに生きられるようになることを目指して、翻訳者仲間とともに本プロジェクトを立ち上げました。

特別養子縁組とは

特別養子縁組とは、何らかの事情で産みの親が育てることができない子どもを、育ての親に託し、戸籍上も実の親子となることができる制度です。成立には、実親の同意・養親の年齢・養子の年齢(原則として15歳未満)・半年間の監護などの要件を満たした上で、子の利益のために特別養子縁組が適当であると家庭裁判所に認められる必要があります。

特別養子縁組を仲介する機関は、行政機関である児童相談所と、民間あっせん機関があり、育ての親になりたい夫婦の審査・登録受付を行っています。産みの親が出産後、育ての親となる夫婦に子どもを託し、試験養育機関(6カ月以上)を経て家庭裁判所の審判が確定すると、特別養子縁組成立となります。

国際養子縁組を成立させた、プロジェクト発起人・ネルソン聡子さん

「Adoption for Happiness」プロジェクト発起人のネルソンさんは、複雑な国際養子縁組の手続きを経て、フィリピンで生まれた子どもと養子縁組を成立させました。しかし、同居届けを出しても外国籍である子どもは公的な健康保険の対象外になることや、「養親を対象とした研修を受けたい」と児童相談所に相談しても認められないなど、特別養子縁組に対するサポートが整っていない現実にいくつも直面しました。

芝生に腰掛け、膝の上に子どもを乗せて、こちらを見て微笑んでいる写真
ネルソン聡子さん

また制度の不備だけでなく、偏ったイメージが浸透していると感じることも何度もありました。例えば、子ども連れで電車に乗っていたとき、隣り合わせになった年配の女性との会話の流れで「養子縁組で家族になったのです」と言うと、「あなたは立派ね」と言われたそうです。女性には悪気がないことはわかりながらも、複雑な気持ちになったと当時の経験を振り返ります。

一方で周囲に「養子を迎えることにした」と言うと、海外の友人なら「おめでとう!」とすぐに祝福してたところを、日本の友人からはそっけない対応をされてしまうことも。こうした体験から、今の「特別養子縁組は触れてはいけないこと」「養子はかわいそう」といった空気自体を変えていく必要があるとネルソンさんは感じ、特別養子縁組が「子どもが幸せになるための制度」だということを日本で広める方法を模索しはじめました。

当事者の声を中心に、様々な角度で作られた海外の映像作品

海外では、特別養子縁組の形態が複数あり、当事者への継続的な支援や当事者同士がつながる場作りなども積極的に行われています。日本で、特別養子縁組に対するイメージがネガティブなものとして根付いているのは、正しい情報や当事者の声といった「生の情報」に触れる機会がないからではとネルソンさんは考えました。

そこでネルソンさんは、自身が映像字幕の翻訳家であること、映像作品には人々に心にダイレクトに訴えかける力があることから、養子縁組に関する海外のドキュメンタリーや当事者のインタビュー映像に字幕を付けて、日本で配信する「Adoption for Happiness」プロジェクトを翻訳者仲間と共に立ち上げました。

「産みの親の声」「養子の声」「養親の声」「制度の話」を中心に、様々な角度で作られた映像を、初年度は約10作品配信予定です。以下、テーマごとに配信予定(一部交渉中)の作品からいくつかご紹介します。

テーマ1:アダプション(養子縁組)、オープンアダプションの取り組み

オープンアダプションとは、養子に出した後も産みの親と育ての親が交流を続ける取り組みです。産みの親と養親が直接的に関わりながら養子縁組の手続きを進めるのが特徴で、産みの親は養子に出した後も子どもと一緒に過ごすこともあります。現在日本では浸透していませんが、これから議論される可能性があります。

「I’ll see you later」は、オープンアダプションを経験した養子、養親、産みの親の言葉を通して養子縁組のあり方を描いた作品です。当事者が養子縁組を前向きに捉えている姿が印象的な本作品は、数々の映画祭で受賞しています。

人の顔が映った、映像の中の場面写真
Film still courtesy of “I'll See You Later”

テーマ2:10代の養子縁組

愛着形成の観点から、養子縁組を考える人の多くは新生児を望みます。一方で、ある程度の年齢を超えるとそのまま施設で過ごし、18歳になると自立せざるを得ない現状があります。

「Take a Chance on Me」は10歳から里親に預けられ、2度の養子縁組に失敗したダリエンが主人公。一緒に暮らしたいと言う若いカップルの元で暮らすのか、それとも養護施設で過ごして18歳になると一人で生きていくのか。決断を迫られるダリエン自身とダリエンの養親へのインタビューを中心に構成されています。(配信権を交渉中)

テーマ3:養子当事者の声

養子縁組をされた子どもたちは何を考えているのか。養子として迎えられた子どもたちの気持ちや葛藤などに目を向けた映像作品もあります。

人の後ろ姿にタイトルが載ったアイキャッチ画像

「Messages for Adoptive Parents from Adopted People」はイギリスで最も大きい養子縁組団体のひとつ「PAC-UK」が提供する映像。10代〜成人した養子当事者たちが過去を振り返り、これから養親になる人たちやすでに養親として子どもを育てている人たちへメッセージを伝える短編作品です。「喪失とトラウマ」「恥じる気持ち」「アイデンティティ」といったテーマから、当事者たちの葛藤も含めた、素直な胸のうちに迫ります。

テーマ4:産みの親の声

産みの親がどんなことを考えているか、考えていたかを知ることが、子どもたちのために必要なケースもあるかもしれません。「Emma’s Adoption Story」は17歳の時に妊娠し、子どもを養子に出した経験が語られたショートインタビュー。妊娠した時の気持ち、養親に託す前の気持ちを話しながら、養子縁組という選択について振り返ります。

映像の翻訳はこれから! 配信のための支援を募っています

このプロジェクトに参加しているメンバーは、ネルソンさんを含め現在8名。今回のクラウドファンディングで集める支援金は、その翻訳費、配信費、配信用ウェブサイトの制作費、初年度の運営費として使われます。

またプロジェクトでは、作品の配信のほか、セミナーも予定しています。セミナーは海外の専門機関の方を招いて、オープンアダプションの取り組みや、当事者に対する継続的な支援の紹介のほか、当事者の体験談など、より具体的で実践的な海外の取り組みについて知ることができそうです。

支援金の受付は2024年7月29日(月)までです。リターンには配信される映像のチケットもあります。特別養子縁組に関心のある方はもちろん、この制度についてまだあまり知らない方も、配信される映像を見ることで、当事者の心のうちを知り、身近に感じるはずです。ぜひ、クラウドファンディングページを覗いてみてください。