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子どもの不安・悩みをカードで“とかす”。里親家庭を支える『TOKETA』販売開始
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『TOKETA』のキットの中身を並べたイメージ画像
「子どもとの関係が打ちとけた! 疑問や不安がとけた!」を合言葉にするフォスタリングカードキット『TOKETA』

里親と里子・実子の“関係性”を支えるフォスタリングカードキット『TOKETA』

日本には、さまざまな事情で親と離れて暮らす子どもが、約42000人いるといわれています。

多くは児童養護施設や乳児院で暮らしていますが、近年はそうした子どもたちの養育の仕組みとして「里親制度」が注目されるようになってきました。子どもがより家庭に近い環境で育つことができるよう、法律の改正が進み、里親委託率も上昇しています。

しかしその裏側では、委託途中で養育不調となり、里親家庭を離れなくてはならない子どもも少なからずいます。その理由のひとつに、子どもを受け入れる里親と、里親のもとで暮らす子どもとの“関係性”が指摘されています。

そんな課題解決に役立つためのツールとして、九州大学専任講師・社会福祉士の田北雅裕さんとデザインスタジオ〈UMA / design farm〉は、〈日本財団〉および〈子どもの家庭養育推進官民協議会〉からの依頼により、フォスタリングカードキット『TOKETA』を開発。田北さんが理事を務める〈一般社団法人福祉とデザイン〉が2022年9月より販売を開始しました。

施設から家庭へ。期待される「里親制度」

日本で社会的養護(虐待や経済的理由などで保護者と暮らせなくなった子どもを公的に育てること)のもとで暮らしている42000人のうち、約80パーセントの子どもは「乳児院」や「児童養護施設」などで生活しています(参照:厚生労働省)。

親もとを離れざるをえなかった子どもたちにとって、それらの施設はなくてはならない存在です。しかし、長期に渡って施設で過ごした場合に、「家庭」という場所での暮らしの経験や、特定の大人との間に深い愛着関係を築く機会が乏しくなり、その後の人生にさまざまな影響を及ぼす可能性も指摘されています。

日本では2016年の児童福祉法改正で、家庭養育優先の理念が規定されました。これは、実親による養育が困難な場合、里親や特別養子縁組などで養育することを推進するものです。

現在、「里親家庭」あるいは「ファミリーホーム(5~6人の子どもを養育している里親家庭等)」で暮らしているのは、社会的養護の子どものわずか20%ほど。諸外国よりかなり低いこの割合を高め、家庭に近い環境で子どもの豊かな人間性、社会性、自立性を育むことが目指されています。

里親家庭の当事者の声から生まれたコミュニケーションツール

注目される里親制度ですが、今後里親家庭が増加するなかで、肝心な当事者である子どもたちに向けた里親制度を理解するためのツールが存在していませんでした。そこで制作されたのが、里親制度の普及や里親家庭を支える社会の創出を目指す「フォスタリングマーク・プロジェクト」から誕生した、“子どものため”のカードキット『TOKETA』です。

これから里親家庭に迎えられる子ども、すでに里親家庭で暮らす里子、里親と血縁関係にある実子(じっし)が、里親と打ちとけたり、子ども自身が抱いている気持ち、思い、疑問、不安などを安心して発せられたりできるように開発されました。

『TOKETA』を楽しそうにプレーする子どもたちの写真
『TOKETA』の名前は、子どもの悩みや疑問が「とけた」、関係が「うちとけた」に由来しています

これまでにも、里親制度にまつわるパンフレットやWEBサイトは、さまざまな自治体や団体でつくられてきました。ですが、それは子どもに向けた内容ではなく、里親になろうとする“大人のため”の情報であることがほとんどです。

また、里親家庭には実子がいる場合が多く、里子と実子それぞれに困りごとを抱えています。里子のケアに重きを置かれ、実子のケアが行き届かなくなるケースも。

そこで、子ども向けのパンフレットを制作しようとプロジェクトチームが当事者にヒアリングを行ったところ、子どもの頃に児童相談所の職員や里親などの支援者を信用できなかったと回答した人が複数名いました

里子・実子が、里親家庭で安心して過ごすために必要なのは、情報よりも「大人との信頼関係」なのではないか。

当事者たちの話からそう感じたプロジェクトチームは、情報を一方的に伝えるパンフレットではなく、子どもと大人の“関係性”が打ちとけ、子どもの内なる声が垣間見えるツールを模索。必要なコミュニケーションを生むためのカードキット『TOKETA』の制作に至りました。

里親家庭を知るためのカードキット『TOKETA』の中身とは?

カードで遊びながらコミュニケーションを図る『TOKETA』は、「子どもが大人に合わせる」のではなく「大人が子どもになる」ことを意識してデザインされています。そして、遊びのなかで以下のプロセスを実践できるのが『TOKETA』の大きな特徴です。

『TOKETA』の特徴

  • 打ちとける
  • 悩みを相談する、疑問を質問する
  • 社会資源を確認する

キットは、「こんにちはカード」「しつもんカード」「おうえんカード」の3種類のカードと、子ども向けの「TOKETAサポートブック」、大人向けの「支援者の手引き」で構成されています。

『TOKETA』のキット内容一覧
ポップかつやわらかなカラー展開と、力の抜けたキャラクターたちが不思議な安心感をもたらす『TOKETA』。イラストはイラストレーター・makomoさんが担当しています

オレンジの「こんにちはカード」は、子どもと大人の関係が打ちとけることを目的としたカードです。用意されているのは、「楽しい」「ワクワクする」などの言葉とイラストが描かれた「きもちカード」と、「あそび」「時間」などの言葉だけが記された「ものことカード」が全部で32枚。

ばばぬき遊びなどの手法を用いながら、絵や言葉を揃え、出てきたお題について皆で語り合います。言葉合わせの連想ゲームのように遊べるので、日常のなかで誰もが一緒にプレーすることが可能です。

そして、相互の関係がとけていくなかで、子どもがなにか不安や疑問を持っているのでは……と気になったら、青の「しつもんカード」を用います。

「しつもんカード」には、里親家庭によくある悩みや質問が書かれています。その中から子どもがカードを選び、不思議に思っていること、心配ごと、聞いていいのか迷っていることなど、心の声を引き出していきます。

「学校はどうなるの?」「今、つらいことがあるので相談したいです」「自分の家族とはいつ会えるの?」などが書かれた「しつもんカード」を並べた画像
「しつもんカード」に書かれている言葉の一例。聞きたいけど聞けない、というよりも、聞いていいのかわからない、という迷いを持っている子どももいるといいます

カード開発のなかで出会ったさまざまな背景を抱える子どもたちは、「家のカーテンを開けることに驚いた」「夜にトイレの水を流していいのか」など、大人が想像できない不安や戸惑いを持つことも多々。また、大人が思っている以上に気を遣っている場合も多く、子どもが素直に言葉を発するには大きな勇気がいるといわれています。

そこでお互いが、外在的な言葉として「しつもんカード」の内容に向き合ってみたり、一緒に考えたりするなかで、これから解決していく課題を共有し、相互の関係がさらに深まっていくことを目的としています。

「わたし」「里親の●●さん」「実子の●●さん」「児童相談所の●●さん」などが書かれたカードを、付録のシートに並べてマップを制作しているイメージ画像
「おうえんカード」のイメージ

付録シートと一緒に使う「おうえんカード」は、子どもが周りの応援者の存在に気づくことを目的としたものです。子どもと一緒にマップを作成するなかで、子ども自身が悩みや不安を相談できる人を発見するだけでなく、里親自身も社会資源(頼れる制度や場所など)を把握することができます。

また、子ども向けの「TOKETAサポートブック」には、カードの使い方、自由に記録したり書き込んだりできるメモ欄、もしもの時の相談窓口の一覧などが記載。大人向けの「支援者の手引き」には、子どもの声に耳を澄ましながら、より深いコミニュケーションに発展させるための「ファシリテーション10のポイント」が記されています。

「こんにちはカード」で遊ぶ様子

『TOKETA』の利用者からは、「お互い思ってもいなかったようなことが導き出されることがすごく楽しかった」「子ども側も、一緒に生活する大人の人間性やその思いを理解しやすくなるのでは」という声が寄せられています。

現在里子と暮らす家庭はもちろん、今後里子を迎えたいという方、制度に関心のある方は『TOKETA』を使って、ぜひ子どもの不安や疑問の声、聞き逃してしまいそうな些細な言葉にも耳を澄ましてみてください。子どもとの信頼や相互理解が深まり、長期的で良好な関係性の構築に役立つはずです。