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3年間の不調のなかで見つけた手ごたえ。青山ゆみこさん著『元気じゃないけど、悪くない』(ミシマ社)
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50代に差し掛かった著者の心と身体の変化をめぐるエッセイ
私たちの心と身体は、私たちが思う以上に、水面下でさまざまなことから影響を受けています。そのことに気づくきっかけのひとつに、痛みや違和感などの「不調」が挙げられます。
その日の気候やホルモンバランス、置かれた環境や過去の出来事など、心と身体の要因が複雑に重なり合って不調をきたしているときほど、自分の“ままならなさ”を感じずにはいられません。しかし、その一つひとつが自分をかたちづくっていることも事実。不調と向き合うなかから、自分との付き合い方のヒントが見つかるかもしれません。
「自分をコントロールすること」。この難しさに焦点をあてて養生の日々をまとめた『元気じゃないけど、悪くない』が、ミシマ社より2024年3月に発売されました。著者の青山ゆみこさんが、自身に起こるさまざまな不調に対して、ときに「手放し」、ときに小さな行動を積み重ね、向き合ってきた約3年を記録したエッセイです。
うまくいかないことはやめてみる。悪くなさそうなことをやってみる
著者の青山ゆみこさんは1971年神戸市生まれの編集者・ライターです。著作に、自身の人生のエピソードから、児童虐待や性暴力、看取りなどの社会課題について考えてみるエッセイ『ほんのちょっと当事者』(ミシマ社、2019年)などがあります。
本書では、50代に差し掛かりさまざまなライフイベントを乗り越えてきた青山さんの心と身体が調子を崩し、そして少しずつ持ち直していく約3年のことが綴られています。青山さんは、その日々を本書のまえがきでこう振り返っています。
土砂降りの日もあれば、どんより漂う雲が落っこちてきそうに曇った日もあり、真っ青の空がどこまでも抜けるように澄み切った日もあった。 うまくいかないことはやめてみる。悪くなさそうなことをやってみる。 そんな「たったいまの瞬間」の連続が、紛れもないわたしだけの人生をつくっている。(本書 p.02)
自分のままならなさに戸惑いながら、ケアの手法に学んだり、環境を変えてみたり、仲間に出会ったり。全編を通して、多角的に自分の心や体を見つめなおし、ゆっくりと立て直しを図っていく青山さんの姿が印象的です。
不調の心と身体が教えてくれたこと
本書は、8つの章で構成されています。愛猫との離別や幼少時代に飼っていた愛犬との思い出、そして家族のなかで女性として無条件に犬を世話しなくてはならなかった当時の違和感を描いた第1章。50代を目前に老いを意識してパーソナルトレーニングを始め、自分の体をつくる食事や、愛飲してきたお酒との関係を考える第2章。
そして第3章以降、ある日突然訪れた「ぐらぐらと揺れている感触」や家族に関するフラッシュバックが起こり、青山さんは不安障害と診断を受け、心と身体の不調と向き合う日々が始まります。
そのなかで青山さんが「これがなかなかの難問だった」と語るのが、家事や仕事を「手放すこと」。第4章では大きな葛藤を抱えながらも、休む体制を整えていく姿が描かれます。
それでも「しない」という選択ができたのは、身体がしんどくて「できない」からだった。身体が諦めさせてくれたのだ。元気で「できた」なら、わたしは「~すべき」と思い込んだことをし続けていたと思う。いまも変わらず。(p.104)
「自分が案外コントロールできないもの」だという手ごたえを得た青山さん。その後も漫画家の細川貂々さんとの定期連絡から始まったオープンダイアローグや、自身を悩ますめまいについて、さまざまな病院を訪ねてまわる「冒険」など、青山さんが自分の心にしたがって多くの人や作品に触れ、自分の身体について知識をつけ、自分のことを再度書き表せるまでになっていく過程を追っていきます。第8章で青山さんは、こうした自身の回復に、他者の“言葉”が必要だったと述べています。
「自分でわからない」ことは「自分だけ」では言葉にできないことなのかもしれない。だから本を開けば届いてくる言葉にも耳を傾けて、自分の言葉を探すのだと思う。これからもわたしは誰かの話、その人だけの声を聞き、こうしてとりとめのない話をしていこう。(p.233)
各章の最後には、当時の青山さんがあたった参考文献が【この章に登場した本】として紹介されています。本書を、青山さんと同じように「わけのわからない不調」に悩んでいる人の側に寄り添う「ケアの実践書」として読むこともできるかもしれません。ぜひこの本を手に取って、自分の心と身体について考える時間を設けてみませんか。
Information
元気じゃないけど、悪くない
著:青山ゆみこ
定価:1,900円+税
判型:四六判並製
頁数:248 ページ
出版社:ミシマ社
発刊:2024年03月20日
ISBN:9784911226025
装丁:名久井直子
装画・挿画・題字:細川貂々
校正:牟田都子
目次:
まえがき
第一章「わたし」をつくってきたもの
はじめての猫/実家の犬/家族のなかの「序列」/愛に対する条件/はじめて得た「フラットな関係性」/特別に大切な存在
第二章 「食と酒」の生活改善
切実に迫る「老い」/パーソナルトレーニングという選択/わたしという身体資源の有効活用/なにを食べたらいいですか?/三十年来の悪友、お酒/「のんだくれゆみこ」と「ノンアルコールゆみこ」/「飲まない自分」への違和感
第三章 ある日心が振り切れた
親は子どもに呪いをかけてしまう/「躁」っぽい思考の暴走/わたしを引き留めた回顧録『エデュケーション』/大震災と母の看取りのフラッシュバック/これがパニック障害? 不安障害?
第四章 ほんの小さな第一歩
身体は動きたがっている/病院に行くのも「行動」/家事を諦めるという難問/「保留」にできた仕事/書くを手放す/自分はコントロールできない/メンタル本で学んだセルフケア/心にやさしい物語の世界
第五章 自分の居場所をつくる
「わたしの部屋」が必要だ/窓を見上げて歩く/心が動くと身体も動く/窓の大きな小さな部屋/自分の「好き」だけの空間/オープンダイアローグという「対話の手法」/安心して関われる人
第六章 誰かと関わるための小さな部屋
踊るくらいさせろや!/気を楽にするって超難問なわけで/しょぼいコーピングを増やす/小さな部屋に芽吹くもの/仲間との出会い/はじめてのオープンダイアローグ/自分を突き動かした一冊の本/「わたしは変わった」という事実/映画『プリズン・サークル』の衝撃
第七章 めまいを巡る冒険
ふわふわの正体は「浮動性めまい」/病院行脚、再び/めまい専門医との出会い/ついに可視化されためまい/ケンケンから始めた運動療法/だいたい血行/のらりくらりと有酸素運動/禁酒とも異なる「酒離れ」
第八章 自分のこともわからない
フライト前の「遺言」/誰のこともわからない/婦人科での三度目の正直?/キックボクシング事始め/わたしの身体は頭がいい/窓の大きな小さな部屋、ありがとう/わたしは書き始めた/手放す
あとがき
Information
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