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『透明人間 ーInvisible Momー』の著者・山本美里さんの最新作を集めた写真展。3月17日から東京・目黒のギャラリーにて開催
展覧会情報

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星がきらめく夜空に亡くなった瑞樹さんとたくさんの猫がおり、キュウリの馬とナスの牛に連れられて帰ってきてきているようなコラージュ作品

月命日に制作し続けてきたコラージュ作品の展覧会

大切な誰かやなにかを喪ったとき、その悲しさ、辛さ、淋しさは耐えがたいものです。「死は誰にも必ず訪れる」という言葉も、悲しみの渦中では受けとめにくいかもしれません。

そんな苦しみのなかにあっても、残された世界で生き続ける私たちは、死や喪失に対してどのように向き合い、考え、動くでしょうか。

写真家・山本美里さんは、「医療的ケア児」(注)であった息子の瑞樹さんを2025年3月に亡くしました。その後、月命日には生前に撮り溜めていた瑞樹さんの写真や、その後に撮影した写真などを用いて、コラージュ作品を制作し続けています。

今回、それらの作品を中心とした写真展「#BFF – Best Friend Forever -」が、東京都目黒区のギャラリー〈Jam Photo Gallery〉にて、2026年3月17日(火)~3月29日(日)の期間で開催されます。

注:自宅で人工呼吸器や胃ろうなどの医療機器の使用、たんの吸引や経管栄養といった日常的な医療的ケアを必要とする18歳未満の児童のことを指す。

たくさんの瑞樹さんの顔や目の写真がコラージュされ、赤い糸が張り巡らされている作品
2025年8月の月命日作品。「わたしにはあなたの声がちゃんと聞けていたんだろうか」と山本さんが瑞樹さんとの日常を振り返りながら制作した作品

目には見えない「彼」の存在と、山本さんの感情の揺らぎの可視化

息子の瑞樹さんに常に帯同し、人工呼吸器の管理、痰の吸引、経管栄養といった医療行為を日常的に引き受けてきた山本さん。瑞樹さんが特別支援学校へ入学した際も、万が一の急変に備えた「常時校内待機」を10年にわたって続けてきました。

そうした校内待機中に感じたさまざまな思いや問いをポートレート作品にし、2021年11月にはそれらを編集した写真集『透明人間 ーInvisible Momー』を自費出版。大きな反響を呼び、2023年12月には同書を再構成・再編集した写真集が〈タバブックス〉から出版されました。

2025年3月、瑞樹さんは16歳で息を引き取りました。いつも側にいるのが当たり前だった息子さんの不在に、この空虚な感情が一生続くのではという不安と、一方で年月の経過とともに瑞樹さんへの気持ちが薄れていくのではという不安にも苛まれていたという山本さん。

そんななか、東日本大震災で大切な人を亡くした被災者1000人のアンケートに出会い、喪失の感情には揺らぎがあり、悲しみは波のようなリズムでやってくること、年月とともに悲しみの形は変化し、時が経つほど一緒に生きている感覚が強くなる、というデータを目にします。

アンケートの結果を見て、この感情がこの先も長く続いてしまうかもしれない恐怖と、ずっと薄れることはないのだという安堵の気持ちが同時に湧いた。

(作家ステートメントより)

そして山本さんは、過去に撮り溜めた写真と、現在の写真を重ねることで、目には見えない「彼」の存在と、自身の感情の揺らぎを可視化できるのではと、月命日にコラージュ作品の制作を開始します。

彼の死を境にかつて一心同体だった彼と別々に歩み始め、彼との距離や私自身の気持ちがどのように変化するのか。悲しみはどのようなリズムを刻んでいるのか。身体はなくなっても一緒に生きているとはどういうことなのか。私は知りたくなった。そして、もしも彼の月命日に私自身の体験や心の中を作品として吐き出すことができたなら、そういったものを可視化することができないだろうかと考えた。

(作家ステートメントより)

瑞樹さんが生きていたかもしれない「今」と、いない「今」の、ふたつの時空を同時並行に生きているような感覚があるという山本さん。自身の感情の揺らぎや、瑞樹さんの気配など、目には見えなくても、確かに存在しているものを表現したいと取り組んできたコラージュ一連作品を一挙公開します。

右下に山本さんの上半身イラスト、そこから左上に向かってさまざまな人々があふれ出ているコラージュ作品
瑞樹さんが亡くなってから制作するまでに対面した人たちとの写真を使った2025年10月の月命日コラージュ作品。この作品に登場するのは、山本さんのなかにぽっかりと空いた穴を埋めてくれている人々なのだとか
背中に瑞樹さんを乗せた虎が、山本さんを咥えて崖から落とそうとしているコラージュ作品
ことわざ「獅子の子落とし」からインスピレーションを受けて2025年12月の月命日に制作した「子獅子の親落とし」のコラージュ作品。「『普通』って一体なんなんだろう? と考え続けた瑞樹との16年。そして、その後からの今です。今のわたしにとっての『普通』ってなんだろうか」(山本さんのInstagramより)
「謹賀新年」「初詣」や、お正月の縁起物などが切り抜かれたチラシをコラージュし、真ん中に縄で結わえられてぐったりしている山本さんがいる作品
クリスマス、冬休み、正月と、家族団らん行事が続くのが辛かったという、2026年1月の月命日作品。「こんなにしんどかったのは生まれて初めてだったかもしれない。みんなが集まる行事は改めて瑞樹の不在を感じてしまい、とにかく気持ちの沈むことが多かった。こういう角度で悲しみの波ってやってくるんだなぁ。まだまだ油断はできません」(山本さんのInstagramより)

写真展の開催月は、瑞樹さんの一周忌にもあたります。喪失感や空白に揺らぎながらも、瑞樹さんの死に向き合い、自身の内面にも対峙し続けてきた山本さんの表現を、ぜひ会場でご覧ください。