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看取りによって生と死のつながりに出会う。映画『あなたのおみとり』9月14日より全国順次公開
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© EIGA no MURA

家での最期を希望した父と、看取りを決意した母との、最後の日々を見つめたドキュメンタリー映画

「うちに帰りたい」。
末期癌で入退院を繰り返しながら、家での最期を希望した父と、看取りを決意した母。介護ベッドを置き、訪問看護師とヘルパーが毎日出入りする自宅で始まった、父と母との新しい生活。
その40日余りにわたる最後の日々を見つめたドキュメンタリー映画『あなたのおみとり』が、 9月14日より〈ポレポレ東中野〉(東京都中野区)ほか全国で順次公開されます。

© EIGA no MURA

作品を通じて浮かび上がる、高齢者を取り巻く社会問題と、人の生と死とのつながりあい

本作品の村上浩康監督の父は、2019年に胆管がんを患い、以後入退院を繰り返していました。しかしやがて病院での治療も難しくなり自宅、あるいは緩和ケア病棟への入院のいずれかの「看取り」をすすめられます。
自宅での最期を希望した父と、看取りを決意した母。そこから始まる新しい生活の中で、ベッドから動けない父は世話を焼く母に「ありがとう」と口にするようになり、母は父の足をさすり続け、できる限り父の近くで時間を過ごすようになっていきます。

介護ベッドの側を離れることなく日常生活を送る母 © EIGA no MURA

一方、訪問看護師やヘルパーが毎日出入りし、父への丁寧なケアを行いながらも時には母の相談相手にもなってくれる。そんな新たな出会いも生活に生まれていきます。徐々に衰弱し、閉じようとする父の命の前で広がっていく人と人とのつながり。持病の悪化の不安を抱えながらも、逆に生を実感し活力を得ていく母の姿も映し出されています。

この40日余りにわたる、父と母との最後の日々を見つめたドキュメンタリー映画『あなたのおみとり』。本作では、人が死に向かう姿を正面から取り扱う中で、高齢者を取り巻く社会問題に触れつつ、生と死の自然なつながりあいを静かな視点で写し出しています。

看取りを通じて見えてくる、今の日本社会が抱える介護にまつわる諸問題

持病の悪化で自身の健康への不安を抱えながらも、睡眠時間を削り、できる限りベッドから動けない父の近くで時間を過ごそうとする母の姿。
そこには「老老介護」と呼ばれる、高齢化が進み続ける今の日本社会が抱える問題の一つが写し出されている事に気づきます。

少しでも楽になるよう、父の足を絶えずさすり続ける母 © EIGA no MURA

一方、「看取り難⺠」という言葉が生まれているように、十分な終末期ケアが受けられない要介護者も全国で発生しており、2030年にはその数が約47万人にものぼると懸念されています。父を看取った後、今度もし母が父と同じような状況になったとしたら。父に寄り添う母の姿を見ながら、その想像も同様に働いてしまう現状があるのです。

献身的に日々父のケアを行い続ける訪問看護師 © EIGA no MURA

さらに、そのような高齢者をめぐる社会問題と同時に写し出されるのは、毎日父を訪問し献身的にケアを行い続ける訪問看護師とヘルパーの働く姿です。例えば移動入浴車で訪問し、部屋内で浴槽を組み立て、入浴の援助をしてくれるサービスや、トイレの援助、肌のケアなどの身体介護のサービス。
私たちは本作を通じて、それぞれのサービスの具体的な内容について知る機会を持つのと同時に、一日何件も掛け持ち、支援し続ける介護士や看護師の姿を目にすることで、いかに看取りが多くの人々によって支えられているかも知ることができます。

「看取る」ことは「生きること」。生と死のつながりあいの自然さと不思議さ

そしてもう一つ本作で写し出されているのは、「看取る」ことが「生きる」ことの活力へつながる、不思議な爽快感です。
例えば、父の食欲が普段より少しでもみられたときや、おやつのシュークリームを食べられた時の、父を見る母のうれしそうな姿。命を看取る立場のはずが、父の生きる姿や周囲の看護師やヘルパーの存在によって、母が励まされていくような姿も映し出されています。

父に飲み物を飲ませる母 © EIGA no MURA

さらに、これから閉じようとする命の過程のなかで、作中にふと挟み込まれる、自宅の庭の花々や虫などの様々な命。私たちは、自然との結びつきのなかで生きている。そんな実感についても本ドキュメンタリーからは感じ取ることができます。

自宅の庭に咲く花々と虫たち © EIGA no MURA

そして父の容態が急変し、今日明日の命かもしれない、という状況へ。

「何をしてほしい?」

父に言葉を掛け、父の手を取り、唱歌を歌う母の姿。小学校の教員をしていた父に向けて、『一年生になったら』や『さくら』など、懐かしい童謡や唱歌を耳元で歌い続けます。
その後、あっけないほど自然に訪れる、閉じられた父の命。

そして葬儀を行い、焼かれた父の骨を海へ撒き、映画は閉じられていきます。

父の遺骨は海へと © EIGA no MURA

人の死を正面から取り扱いながらも爽快感に包まれる、貴重なドキュメンタリーの魅力

現在の日本では、医療機関で最期を迎える人の割合が8割を超えており、特にコロナ禍以降は病院や施設での面会が難しくなったことからも、たとえ身内であっても人の死を間近で見る機会がさらに限られてしまっています。

看取りをテーマに、人の死を正面から取り扱う本作を通して、いかに私たちが死の存在から離れて生きているかに気づきます。現在の在宅ケアの実際についてを知りながらも、生と死との自然なつながりあいを感じ、不思議な爽快感に包まれていく、貴重なドキュメンタリー映画です。
ぜひ、劇場でご覧ください。