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歌を通して「個」と出会う。映画『ラジオ下神白』4月27日よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
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©︎KOMORI Haruka + Radio Shimo-Kajiro

福島県復興公営住宅での、音楽を通じた被災地支援活動の模様を追ったドキュメンタリー映画

いわき市にある福島県復興公営住宅の下神白(しもかじろ)団地。この団地を舞台に、文化活動家のアサダワタルさんが中心となり、音楽を通じた少し変わった被災地支援活動プロジェクト「ラジオ下神白」が行われています。
この活動の模様を写したドキュメンタリー映画『ラジオ下神白ーあのとき あのまちの音楽から いまここへ』が、4月27日 (土)より〈ポレポレ東中野〉(東京都中野区)ほか全国で順次公開されます。

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避難住民の多くが65歳以上。歌の記憶を手掛かりに「伴走」を

本作の舞台となるのは、福島県いわき市にある県営復興公営住宅・下神白団地。こちらには2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、浪江・双葉・大熊・富岡町から避難してきた方々が、地域ごとで6棟に分かれて暮らしています。

©︎KOMORI Haruka + Radio Shimo-Kajiro

「ずっと一人で、一ヶ月間だれとも話をしない時もあった」

そう話す住民がいるように、「ラジオ下神白」がスタートした2016年時点では、200世帯ある居住者のほとんどが65歳以上。故郷とは切り離された集合住宅のなかで、一人で暮らす事を余儀なくされた住民が多くいる状況でした。
そんな中、文化活動家のアサダワタルさんが中心になり、下神白団地の各部屋にお邪魔して、まちの思い出と共に、当時馴染み深かった「歌」についてお話を伺い、その対話模様をラジオ番組風のCDとして住民へまた届けていく「ラジオ下神白」が始まっていきます。

©︎KOMORI Haruka + Radio Shimo-Kajiro

その後支援活動は変化をし、2019 年には住⺠の思い出の曲を演奏する 「伴奏型支援バンド」を結成。バンドの生演奏による歌声喫茶の開催や、ミュージックビデオの制作など、音楽を通じたさまざまなかたちへと発展していきます。
その変化する活動の模様を捉えたドキュメンタリー映画が本作です。そこには「被災者」という大きな括りの中には決して収まらない、 一人ひとりの人生の記憶を通した声や歌が写しとられていました。

「被災者」と括ることのできない、それぞれの記憶を通じた「個」の発見

故郷の思い出と、歌にまつわる記憶を手掛かりに、住民からお話を伺う。ある人にとっての「特別な歌」を聞く事によって、かつてのまちの思い出や人の記憶がふっと繋がり合い、話が溢れ出す。記憶のよみがえりと対話が始まっていきます。

©︎KOMORI Haruka + Radio Shimo-Kajiro

歌とはこうも対話の糸口となり、人を活き活きとさせてくれる存在だったこと。登場する人それぞれの表情の柔らかさや豊富なエピソードを通じて、私たちは気づいていきます。そしてたとえ一つの歌であっても、まつわる記憶にはそれぞれ異なりがある、という事にも。
それは一見当たり前のように聞こえますが、多様な人々の、多様な声、表情、エピソードを通じて、「被災者」という大きな括りの中には収まらない「個」を発見していく。「ラジオ下神白」プロジェクトには、そのようなきっかけにもつながっているのです。

©︎KOMORI Haruka + Radio Shimo-Kajiro

「伴奏/伴走」とは。さまざまな支援のかたちを通じた、私たちへの問いかけ

「ラジオ下神白」プロジェクトはその後変化し、2019年には、住⺠の思い出の曲を演奏する 「伴奏型支援バンド」がアサダワタルさんを中心に結成されます。

©︎KOMORI Haruka + Radio Shimo-Kajiro

「カラオケってどこまでも行くでしょ、勝手に。」
「僕らは待てるかどうかっていう……」
「本当に歌に合わせるっていう……」

カラオケとは違い、歌い手それぞれの歌うペースに合わせバックで演奏をしていく。歌うペースは一律に強制しない。その人の歌を待ち、歌へ合わせていく。だから「伴奏型支援バンド」。
バンドのスタジオレッスン時にメンバーへ話す、先程のアサダワタルさんの言葉の中には、「伴奏/伴走」への根本的な問いかけが含まれている事に気づきます。そしてバンドの活動だけに限らず、「ラジオ下神白」で行われてきた、一人ひとりの会話のペースに合わせ、メンバーたちが対話をしていく行為の中にも、同じ問いが含まれていたことにも気づくのです。

©︎KOMORI Haruka + Radio Shimo-Kajiro

ラジオ、歌声喫茶、宅録、ミュージックビデオ……
状況に合わせて次々と変化していく、歌を通じた支援活動の「伴奏」と「伴走」のさまざまなかたちが本ドキュメンタリーには写し出されています。

集い、身近な流行歌を歌い合う。それぞれの違いを超える歌の魅力

本ドキュメンタリーの終盤では、住民の思い出の曲に合わせて演奏を行う「伴奏型支援バンド」による歌声喫茶が企画・開催され、作品内におけるハイライトの役割を果たしています。

©︎KOMORI Haruka + Radio Shimo-Kajiro

歌い出すと急に元気になり、声が大きくなる人。歌う時、目をつぶりじっくり歌い上げる人……。歌声喫茶という一つの場に集い、皆それぞれ歌う風景の中には、時代を風靡した流行歌が持つ魅力、さらに言えば歌の魅力が、映像だからこそこぼれ落ちず、活き活きと写り込んでいるさまを観ることができます。見方によってはそこに音楽映画としての作品の魅力を感じ取ることもできるかもしれません。

©︎KOMORI Haruka + Radio Shimo-Kajiro

「復興」という大きな言葉からはすり抜けてしまう、一人ひとりの活き活きとした記憶や歌声、表情の中にあるもの。また、「歌」や「ラジオ」のような、住民にとって身近なアプローチで実践されたプロジェクトを通じた、新しい支援の在り方の可能性。そんな発見のあるドキュメンタリー映画です。

ぜひ、本作を劇場でご覧ください。