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少子高齢化の本当の問題は? 推移と予測から、人口減少社会の「構造」を読み解く
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こここトピックス。少子化と高齢化を分けて考えよう

人口減少で語られる「少子化」と「高齢化」は、本来別の問題

(2024/8/9:総人口・出生数・出生率を2023年の数字に、参照した『高齢社会白書』を令和6年版に更新しています)

日本の総人口のピークは、2008年の1億2808万人。そこから370万人以上が減り、2023年の総人口は1億2435万人となりました。とはいえその変化はまだ緩やかで、「人口減少社会」と言われながらも、どこか実感の湧きづらい状態が続いているかもしれません。

しかし、国立社会保障・人口問題研究所の『日本の将来推計人口(平成29年推計)』によると、2053年には人口が1億人を割り、2065年には8808万人、ピーク時から4000万人減ると予測(注1)されています。

注1:『日本の将来推計人口(平成29年推計)』では、人口推移の傾きを出生率と死亡率、それぞれに「高位」「中位」「低位」の3パターンで推計しています。今回の数字はそのうちの「中位」での推計を引用

人口減少が進む日本では、「少子化」と「高齢化」が同時に進行しています。どちらも労働市場の不均衡や、社会保障の財源確保の問題を加速させるため、よくまとめて「少子高齢化」と呼ばれますが、本来はそれぞれに別の課題がある現象です。

「高齢化」は医療技術の発達や社会福祉の充実などによる死亡率の低下で長寿化した結果、人口の中で高齢者の割合が増加することを指します。一方、「少子化」はライフスタイルの変化や経済的な負担を含む育てにくさなどによって、出生率が人口を維持するのに必要な水準(人口置き換え水準)を下回った状態が続くことを指します。

「少子化」とは? 出生率の低下と若者人口の低下を知る

2015年まで、10年以上に渡って100万人台(〜110万人)だった出生数は、2016年に90万人台、2019年には80万人台となり、2022年には早くも70万人台となりました(注2)。ひとりの女性が一生の間に産む子どもの人数を統計学的に産出した“合計特殊出生率”は、2005年の1.26からやや上昇したものの、2023年は1.20。厚生労働委員会による、人口維持の目標となる「2.08」には遠く及ばない状態が続いています。

注2:2022年の出生数は77万747人。さらに、2023年の出生数は72万7277人にまで減っている(2024年8月8日情報を更新)

では、「少子化」が問題にされるようになったのは、いつ頃からなのでしょうか。

戦後、戦争出征者が帰還したことや社会情勢の混乱が収束しつつあったことから、1947〜49年に「第1次ベビーブーム」が起きました。合計特殊出生率は4を超え、年間約270万人の新生児が誕生。その後、ベビーブーム世代に生まれた子どもたちが親となり、子どもを産んだ「第2次ベビーブーム」(1971〜74年)などもありながら、おおむね出生率2が続きます。

【画像】1947〜2020年の出生数が棒グラフで、出生率が折れ線グラフで示されている
『令和4年版少子化社会対策白書(概要版)』より、出生数と出生率の変化のグラフを引用。1966年は、ひのえうま(丙午)生まれの女性が日本の伝統的な占星術「七曜」で夫を不幸にするとされ、出生率の低下が発生

しかし、1984年に出生数が150万人を切ると、生まれる子どもの減少は加速。出生数124万人となった1989年には、合計特殊出生率が1.57となり、「1.57ショック」として政府が少子化対策の必要性を講じるきっかけとなりました。以降どのような政策がいいのか常に議題に上がり、一部実施もされてきましたが、未だ大きな成果を生み出すことはできていません。

少子化で問題とされることのひとつが、労働力人口の加速度的な減少です。1990年代には7割弱であった15~64歳の「生産年齢人口」と呼ばれる層は、2021年時点で、全体の59.4%まで落ち込み、2065年には51.4%まで下がると予想されています。

労働力不足解消のための長時間労働の深刻化やワーク・ライフ・バランスが改善されないことにより、育児にかける時間の確保が難しく、少子化がさらに進行していくという悪循環も懸念されています。また、労働力人口の減少によって、若い世代の納税負担が増えていく点も大きな問題です。社会保障の維持が難しくなれば、子育てのハードルが上がり、少子化の改善がより難しくなると指摘されています。

【画像】1950〜2065年までの人口数が、年齢層ごとに色分けされた棒グラフで示されている
『令和4年版少子化社会対策白書(概要版)』より、年少人口(0~14歳)、生産年齢人口(15~64歳)、65歳以上などの人口割合を示すグラフ

一方、税負担増と並行して、1世帯あたりの所得も下がってきているということも見逃せない背景です。平均所得は1994年の664.2万円をピークに減少が続き、2021年の厚生労働省の調査では545.7万円。29歳以下の世帯所得は、377.5万円しかありません。

実際、さまざまな調査で、「経済的負担」を理由に子どもを持たない選択をする人が多くいることが示されています。たとえば明治安田生活福祉研究所の2018年の調査では、予定している子どもの人数が理想より少ない人に理由をたずねたところ、20代後半男性の72.4%、女性の87.6%(30代前半の男性76.6%、女性の78.2%)が、「今以上の生活費や教育にかかる経済的負担に耐えられないから」と回答。少子化の大きな要因となっていることがわかります。

「高齢化」とは? 日本は世界一の超高齢社会

1956年の『国連報告書』を基準に、日本では総人口における65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)が7%以上であれば「高齢化社会」、14%以上を「高齢社会」、21%以上を「超高齢社会」に分類しました。

2000年に17.4%だった高齢化率は、2021年には29.1%と、日本は世界でも類を見ないスピードで超高齢社会になっています。2065年には38.4%、4割近い人が高齢者となる見込みです。

【画像】2001〜2019年の、男女別の寿命のグラフ。右肩上がりになっている
『令和6年版高齢社会白書(全体版)』より、健康寿命と平均寿命の推移のグラフ

高齢化の背景にあるのが、寿命の延伸です。日本での「平均寿命」は、1947年では男女ともに50歳台であったのに関わらず、医療の進歩や公衆衛生の向上、経済成長に伴う生活の質の向上などによって平均寿命は年々延びていき、2019年には女性が87.45歳(世界1位)、男性が81.41歳(世界2位)となりました。同時に「健康寿命」(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)も延びており、それぞれ75.36歳と72.68歳です。

【画像】2011〜2021年の、60〜64歳、65〜70歳、70〜74歳、75歳以上の就業率のグラフ。右肩上がりになっている
『令和6年版高齢社会白書(全体版)』より、年齢階級別就業率の推移

健康寿命の延びに伴い、65歳を過ぎても働く方も増えてきました。就業率の上昇は、本来64歳までを想定されていた生産年齢人口を拡大させることで、労働力の減少を食い止める側面も持っています。

ですが、年金受給額の低下や物価高などから「働かざるを得ない状況」が生まれていることや、一方で労働の可否が働きたい人の「年齢」で一律に決められてしまうなど、雇用に関する制度面の対応がまだまだ追いついていない現状も、あわせて知る必要があるでしょう。

『第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について』を元に作成した、2040年に必要となる介護職員数の予測図

また、高齢化の進む社会における労働力の問題は、高齢者自身だけではなくその周りの人や家族、生産年齢人口とされる世代全体にとっても影響を与えます。厚生労働省の発表によると、高齢者介護に携わる職員の数は2019年で211万人。しかし、2040年には約280万人が必要となり、現在の人数とは約69万人のギャップが生まれてしまうと予測され、大きな課題となっています。

人口減少社会という「構造」の中でできること

「少子化」と「高齢化」は、労働力や社会保障のための税収入の確保など、人口減少社会の中で同じ課題を引き起こし、その深刻さを互いに加速させている側面があります。また、ヤングケアラーの問題のように、背景の要因が重なって、別の形として現れているものもあるでしょう。しかし、本来はそれぞれ別の現象であるため、その解決方法も異なります。

「少子化」はライフスタイルの変化など、個人の意識で解決できる問題とされることもありますが、そもそも生まれたときに診断された性が女性だからといって、出産をしなくてはいけないわけではありません。子どもを産む自由を誰もが持っている、ということを含む「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)の観点を改めて認識していく必要があります。

その上で、貧しさの問題や働き方の問題など、社会の中に“育てにくい状況”が同時に存在していることを意識しなくてはいけません。産むことにも育てることにも、それぞれの選択に多岐にわたる要因があり、阻むものを一つひとつ制度と意識の両面から解決していくことが必要です。

一方の「高齢化」についても、個人がそれぞれの生き方を選択しやすい環境づくりが求められます。生産年齢を過ぎても「働かざるを得ない状況」の人が増えていることは、社会全体として解決しなければいけない問題です。一方で健康寿命の延伸を考えると、かつての「64歳まで」という生産年齢の定義も考え直す時期が来ているとも考えられます。単純に年齢などで区切れない、多様なニーズがあることを理解することが大切です。

人口減少は、2つの現象が構造的に重なって進む難しい問題といえます。アンバランスな比率で社会の維持が難しくなっていることからは目を背けるわけにはいきませんが、解決するためは、現象のさなかにいる人それぞれが、多様な事情や考え方を持っていることを理解しなくてはいけません。個人の選択の「前提」となる部分も合わせて気にかけていくことで、社会は少しずつ変わっていくのではないでしょうか。