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家族をケアする“若者”の記録、『ヤングケアラー 介護する子どもたち』。新聞連載から書籍化
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【画像】『ヤングケアラー 介護する子どもたち』書籍の表紙
『ヤングケアラー 介護する子どもたち』(著者:毎日新聞取材班)

近年明るみになった、ケアを担う“若者”の実態を描いた一冊

「家族のケア」という言葉から、どのようなイメージをするでしょうか。高齢になった両親や、事故や病気によってサポートを必要とする子どもなどを思い浮かべる人も多いかもしれません。さらにそのケアを担うのが、“大人”であるということも。

ですが、家族を介護したりお世話したりする人の中に、じつは“子ども”や“若者”が多くいることが、この数年で明らかになってきました。大人に替わってケアを担う子どもや若者は「ヤングケアラー」と呼ばれています。

2019年からヤングケアラーの実態を取材してきた毎日新聞取材班。新聞の連載をもとに書き下ろした書籍『ヤングケアラー 介護する子どもたち』が、2021年11月27日に発売され、すでに重版が決まるなど、話題を呼んでいます。

ヤングケアラーと、その問題点とは?

ヤングケアラーとは、通学や仕事をしながら、病気や障害がある親、祖父母、きょうだいの世話や介護など、大人が担うようなケアの責任を引き受ける18歳未満の子どもを指します。

「ヤングケアラーはこんな子どもたちです」ヤングケアラーの10例やイメージをイラストで掲載
提供:一般社団法人日本ケアラー連盟

その内容は、料理・洗濯・買い物といった家事から、トイレ・入浴・体ふきなどの家族の介助、幼いきょうだいの保育園送迎や食事の世話、日本語以外の母国語を話す親の通訳やサポートまで、家庭によってさまざま。身体的なケアだけでなく、精神面や感情面のフォローなどが求められる場合もあります。

手伝いの域を超える過度な介護が長時間続くと、子どもの心身に不調をきたしたり、遅刻や欠席が重なって学業がままならなくなったり、部活動に参加できなくなったり、クラスで孤立したりと、学校生活や友人関係にさまざまな影響が出てきます。さらに、進学・就職・結婚など、思い描く未来を変更・断念せざるをえない若者もいます。

一方で、多くの若者が「家族のことだから」とひとりで抱え込んだり、隠していたり、そもそも本人が「自分はケアラーだ」という自覚を持っていない場合も多く、問題が表面化しにくいのが特徴です。

ヤングケアラーは年々増加傾向で、その背景には少子高齢化、核家族化、ひとり親家庭の増加があるといわれます。政府が2020年12月~21年1月に行った調査によると、公立中学2年生の約17人に1人、公立の全日制高校2年生の約24人に1人が「世話をしている家族がいる」と回答。1学級につき1~2人のヤングケアラーがいる可能性がある、と発表されました。

国や自治体が動き出すきっかけとなった、毎日新聞の調査報道

毎日新聞が「ヤングケアラー」に着目し、取材班を結成したのが2019年秋。記者の向畑泰司さんが在宅介護を取材するなかで、たまたま若い介護者と出会っていたことがきっかけでした。

当時、ヤングケアラーという言葉はほとんど認知されておらず、どれだけの若者が家族のケアを担っているかのデータすら存在していませんでした。そこで、総務省のデータをもとに取材班が独自調査を開始。結果、2017年時点で15~19歳の介護者は全国に推計3万7100人おり、うち1万2700人は週4日以上介護を行っているという現実が明らかになりました。この数字には14歳以下が含まれていないため、その数はもっと多いと推測されています。

これまで表に出ることのなかった幼きケアラーの実態を取材し、新聞の連載で社会に開示していくなかで、2020年夏以降、少しずつほかのメディアでの取り上げも増え始めます。政府も調査に乗り出し、2021年3月の参院予算委員会では、菅・元首相がヤングケアラー支援に言及。同年5月には厚生労働省と文部科学省の共同プロジェクトチームが支援策を公表し、救済に向けた具体的な取り組みが動き始めました。

ヤングケアラーの、リアルな「喜怒哀楽」を展開

同著では、取材班の設立から、ヤングケアラーに対しての社会の反応などを時系列で追った内容に加え、毎日新聞で連載してきた元ヤングケアラーへのインタビューに加筆したエピソードを収録。

簡単に他人に明かすことのできない家族の状況について、勇気をもって証言したヤングケアラーたちのリアルなストーリーは、「自分ならどうしただろう?」「何が最善なのか?」と、自分ごととして考えさせてくれる内容になっています。

【画像】『ヤングケアラー 介護する子どもたち』書籍の表紙

さらに、班結成時にデスクを務めた松尾良さんは、ヤングケアラーの「怒」と「哀」ばかりにフォーカスするのではなく、「喜」と「楽」についても描くことを意識したといいます。ケアの有無を問わず、そこには家族というつながりや、人生そのものが抱える“普遍的な何か”が含まれている。それを大切にとらえ、社会に届けていく本として出版されています。

案外あなたの身近にも、ヤングケアラーは存在するかもしれません。まずは同著を手にし、ご自身や身の回りに引きつけながら、読んでみてはいかがでしょうか。