ニュース&トピックス

100周年を迎えた新聞「点字毎日」の人気連載が書籍に。『世界を手で見る、耳で見る』
書籍・アーカイブ紹介

  1. トップ
  2. ニュース&トピックス
  3. 100周年を迎えた新聞「点字毎日」の人気連載が書籍に。『世界を手で見る、耳で見る』

書影
〈毎日新聞出版〉から書籍『世界を手で見る、耳で見る』が発売中です

創刊100年を誇る点字新聞の人気連載から生まれた『世界を手で見る、耳で見る』

日本にある、世界的に珍しい「点字新聞」をご存じでしょうか?

〈毎日新聞社〉が発行する「点字毎日」は、点字版と活字版を持つ、1922年創刊の週刊点字新聞です。戦時中も一度の休刊もなく発行され、2020年夏には通巻5000号に到達、2022年に創刊100年を迎えました。国内で唯一、独自の取材と編集で新聞社が発行する点字新聞で、これまでに「菊池寛賞」「日本記者クラブ賞特別賞」などを受賞した実績があります。

そんな歴史ある「点字毎日」で、2011年から8年にわたり連載されたエッセイ『堀越喜晴のちょいと指触り』が、〈毎日新聞出版〉から待望の書籍化。言語学者の堀越喜晴(よしはる)さんが、視覚に限らず、触覚や嗅覚など五感を使って世の中を「見る」グラデーションの世界へと読者を誘います。

「目で見ない族」って?——ユーモア溢れる語り口が魅力の随筆集

書籍『世界を手で見る、耳で見る』。その副題には、『目で見ない族からのメッセージ』と記されています。「目で見ない族」とは一体どのようなものでしょうか。そして、呼び名にはどのような思いが込められているのでしょうか。

2歳の時に網膜芽細胞腫の手術により視力を失った著者の堀越さんは、本書の「はじめに」でこう話します。

“『目で見る族』と『目で見ない族』という言葉を使った。(中略)このように呼んでみると、目が見える人たちの中でも、目で見る以外の感覚に興味を持つ人、持たない人、それから目が見えない人たちの中でも、目で見える感覚に興味を持つ人、持たない人、またいろいろな見え方、『見えない』方、という具合に、『見る』ということが様々なグラデーションをなして立ち現れてこないだろうか”(p7〜8)

書影

著書の堀越さんがエッセイのなかで綴るのは、過去の思い出や日常生活での気づきです。言語学者ならではの知識の深さと、「目で見ない族」だからこそのユニークな視点で世界を見つめ、ユーモアたっぷりの語り口で社会を語っています。

例えば、第2章「たかが言葉、されど言葉」に収録されているエッセイ「5 言わずもがな」で取り扱うのは、上から目線の言葉。生まれつき「目で見ない族」の堀越さんがこれまで言われてきたなかで、ふとした瞬間に「興ざめした」言葉についてのエピソードが紹介されています。

“「何だか私たちが『かえって』教えてもらっているみたいですね」。「私たちの方が『よっぽど』へたですね」。そのほか、声の調子や文末の上げ下げ、また息の吸い方、吐き方一つにも、それは巧妙に隠れていて、その人の全人格までも一瞬にして上から目線に見せてしまう。そしてこれには障害者割引などはない。「私たちの実情も知らんくせに」、そんな思いがやはり言わずもがなの逆・上から目線言葉となって、私たちの口をついて出てしまっている”(p51)

また、第4章「点字は文字だ!」の「点字の生一本」では、大学の先生として教壇にも立つ堀越さんと学生の会話から、点字の可能性が紹介されていきます。

“彼ら、彼女らから、よくこんな感想をもらう。「点字を学んで、例えば『というのは』と書くべきか、それとも『ということは』と書くべきかなど、これまでは全く気にしていなかった言葉の選び方に意識が向くようになった」。「これまでは、言葉の順序などにはあまり気を留めなかったが、今では墨字を書く時でも、どういう順に単語を並べるかに注意を払うようになった」。とてもうれしい!”(p121)

「点字毎日」100回の連載から半数を収録

時事性や社会性、そこに堀越さんの視点が加わった文章は、時にクスッと笑え、時に真面目に考えるきっかけをくれます。

2011年1月から2019年4月までの月一連載で掲載されたエッセイは、100本。本書には、そのうちの57本を加筆・修正して収録しています。

堀越さんのエッセイは、堀越さんが入力したものを「点字毎日」の編集部が点字に変換していました。動画は、毎日新聞大阪本社で行われる編集や印刷・製本の様子を紹介したもの

近年、点字の「文字」としての可能性に着目し、言語・コミュニケーション系の科目として一般学生向けに開講する大学が出てきました。こうした動きに対して、堀越さんは、「日本語に対するより豊かな感性を養い、日本語に新鮮な息吹を吹き込み、ともどもに一層美しい日本語をはぐくんでいく」可能性を本書で熱く語ります。

「目で見ない族」である堀越さんが水先案内人として、今の社会を照らしてくれる『世界を手で見る、耳で見る』。堀越さんの視点を辿ることで、自分の見ている世界が一部であることに気づき、これまでとは異なるかたちがありありと浮かび上がってくるはずです。