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学校での介助の実態に迫る。ハンドブック『公立高校での介助って、実際どうなの?』が公開
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ハンドブックの表紙

制度を利用して介助を受けながら、通いたい学校を諦めないために

地域の普通学校に通う、介助が必要な身体障害がある児童生徒のなかには、「特別⽀援教育⽀援員」という制度を利用して、派遣された介助者とともに学校生活を送る人がいます。

車椅子を押してもらうことや、食事補助、テストの代筆、担任教員やクラスメイトとの通訳など、介助のかたちは人によってさまざま。ですが、介助される側は、介助する側の価値観や都合に左右されがちで、必要なことをしてもらえなかったり、逆に望まないことをされてしまったりと、他の児童生徒と同じような学校社会への参加が困難になる恐れがあります。

ハンドブック『公立高校での介助って、実際どうなの? ~特別支援教育支援員って、どんな制度?~』が、2024年3月に〈一般社団法人わをん〉より公開されました。制度を利用し介助を受ける高校生の視点で、学校生活を送る上で直面した困りごとや印象的なエピソードなどを紹介しながら、当事者や保護者、教育関係者などに制度の存在とその実態を届けるための一冊です。

「特別支援教育支援員」制度とは

「特別支援教育支援員」制度とは、障害のある児童生徒が、自治体より派遣された特別支援教育支援員とともに、普通学校で学校生活を送るための制度です。2007年度より公立小・中学校を対象に制度が始まり、続いて2009年度からは公立幼稚園、2011年度から公立高校も対象に加えられました。

特別支援教育支援員(以下、介助員)の具体的な職務内容は、

  • 基本的生活習慣確立のための日常生活上の介助(食事、着替え、トイレなど)
  • 発達障害の児童生徒に対する学習支援(黒板の読み上げ、テストの代筆、安全・居場所の確保など)
  • 学習活動、教室間移動等における介助(車いすを押す、車いすの乗り降り、制作や調理などの補助)
  • 児童生徒の健康・安全確保関係(てんかん発作のある児童の把握、他害・自傷などの危険な行動の防止)
  • 運動会(体育大会)、学習発表会、修学旅行等の学校行事における介助(事故の防止、屋外での移動や乗り物への乗降)
  • 周囲の児童生徒の障害理解促進(障害のある児童への友達としての接し方を伝える)

(参考:文部科学省 「特別支援教育支援員」を活用するために )

などが定められていて、障害のある児童生徒や保護者の要望を踏まえ、学校関係者と連携しながら介助を行います。

ハンドブックでも、従来不明瞭だった同制度の利用方法やポイントを当事者視点でまとめた

この制度を利用して介助員をつけるためには、児童生徒本人やその家族が、学校や教育委員会にサービスを希望する旨を申し出ることが必要です。その申し出を受けた各自治体が介助員を募集・調整し、支援内容の確認を経てサービスが始まります。しかし、制度そのものの認知度が低いことや、相談窓口や利用手順などが明確に示されていないことから、学校関係者、児童生徒や保護者が手探りで制度を利用している実状があります。

また、授業などの時間は制度の対象ですが、正課外にあたる部活動や登下校の時間は対象ではなく、人によっては部活動への参加を断念したり、家族に送り迎えを頼まねばならなかったり、有償のヘルパーを雇ったりしなくてはなりません。

さらに介助員は、自治体によって募集条件が異なっています。任期付き職員として教員免許状の保有や、児童生徒支援の経験などが応募資格として定められている場合もありますが、その多くが有償ボランティアやアルバイトで、障害者支援や介助の経験がない人が介助員になることも。また、就いたあとの研修制度といったフォローアップも乏しい状況です。そのため、介助員の専門性にばらつきが生まれ、児童生徒と介助者との間でのトラブルが起きてしまうこともあるようです。

介助が必要な子どもたちが、普通学校でも青春を謳歌できるように

こうした課題を抱える特別支援教育支援員制度を、ハンドブックのかたちで周知しようと取り組むのが〈一般社団法人わをん〉です。重度の障害があり介助を必要とする人たちが、地域で自立した暮らしを送るために「重度障害者の困りごとをサポートする」をミッションに掲げる、当事者と介助者の団体です。

〈わをん〉のハンドブック作成プロジェクトメンバー。前列左から油田優衣さん、小暮理佳さん、登り口倫子さん。後列中央が嶋田拓郎さん。(写真:一般社団法人わをん 提供)

今回のハンドブックも、同制度を利用する当事者の“生”の声を交えて冊子を編むことで今後「介助が必要な⼦どもたちが、介助のことで悩まされることなく、普通学校で⻘春を謳歌できるようにする。当事者が持っているニーズを伝えるとともに、この制度をこれから利⽤する予定の当事者の背中を押すものをつくりたい」という思いが込められています。

ハンドブックの目次ページ

ハンドブックでは、特別支援教育支援員制度の成り立ちや、具体的な利用までの流れを紹介。そのほかにも、公立高校で介助を受けながら学校生活を送ってきた当事者の意見をまとめたコーナーでは、そこから見えてきた「制度の運用」や「介助員との関係性」といった課題についても言及します。

また「放課後座談会~学校での介助のあり方を問う」では、脳性まひの当事者でライターの川端舞さんをゲストに、プロジェクトメンバーの小暮さん、油田さんの3名が各自の高校時代を振り返りながら、「社会とつながっていくための手段の一つ」である「介助」を手がかりに、今後の制度の改善点などについて考えます。

ハンドブックは〈わをん〉のWebサイトより無料でダウンロードすることができます。制度を利用してみたい方やそのご家族、ケアや教育に関わる仕事をしている方など、ぜひこの機会に一度、ハンドブックを開いてみてはいかがでしょうか。