こここなイッピン
手彫り角盆&角膳〈しょうぶ学園〉
福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。
今回のイッピンは、鹿児島県に所在する〈しょうぶ学園〉の「手彫り角膳&角盆」。表面に施されたユニークな模様は、障害のあるメンバーの“ありのまま”の表現。自由な感性を生かすものづくりのメソッドと、そこに辿り着くまでの紆余曲折の日々を紹介します。
メンバーとスタッフの「協働」から生まれる
唯一無二のクラフト商品
ノコギリや釘を使って大胆な彫りが施された角盆。平ノミによる彫りと木目が相まって、穏やかな波を彷彿とさせるテクスチャの角膳。素朴で味わいのあるトレーの使い道を想像するだけで、なんだかワクワクしてきませんか?
これらの商品を制作しているのは、鹿児島県鹿児島市の〈しょうぶ学園〉。障害のある人たちのやりたいこと、得意なことを尊重した、工芸・アート・音楽活動などを展開する障害者支援センターです。
トレーのほかにも、糸を重ねた刺繍や、土の特性を活かしたオブジェや食器などの陶芸、力強い線や円が描かれた和紙など、魅力的な商品を多く生み出す〈しょうぶ学園〉。その活動は国内外で熱く支持され、ギャラリーやクラフトショップ、レストラン、パン工房を有する同学園に遠方から訪れる人も数知れず。
(現在、新型コロナウイルスの感染予防および拡散防止のため、敷地内の各店舗は休業しています)
そんな〈しょうぶ学園〉のものづくりが現在のかたちになるまでには、長い長い試行錯誤の日々がありました。
〈しょうぶ学園〉の創設は1973年。大島紬の機織り、刺繍、園芸、竹細工などの制作を下請けする、知的障害者援護施設としてスタートしました。1985年には、現施設長である福森伸さん主導のもと〈工房しょうぶ〉を立ち上げ。それまでの下請け作業を廃止し、木工、陶芸、染め、刺繍、織り、和紙、園芸、パンなどの工房を増設。所属するメンバーの個性を発揮できる環境づくりに取り組んでいきます。
工房設立当時のものづくりのゴールは、傷がなく、均整のとれた“ちゃんとしたもの”の制作。ところが、メンバーとものづくりに励むものの、木材を彫りすぎて穴をあけてしまったり、すべて木くずにしてしまったりと、想定した通りにことが運ばないことが多々ありました。「穴をあけてはダメ」と作業を止めると、メンバーは不満気に。
社会で通用する技術や能力を身につけることこそメンバーの幸せにつながると信じ、根気強く指導するも、思い通りにいかない日々。スタッフの苦悩とはうらはらに、木材をひたすらに彫り進め、楽しそうに木くずにしていくメンバー。そんなメンバーの表情をみていると、“ちゃんとしたもの”を無理につくることが、彼ら彼女にとって本当にいいことなのか、疑問や葛藤をいだくようになったといいます。
やがてスタッフが「こうでなければならない」という思いを断ち切ったとき、メンバーが手がけた彫りの味わい深さに魅せられ、商品にふさわしくないと思っていた傷も、魅力的な模様として目に映るようになりました。
メンバーのやりたいことを変えず、その人がその人らしく、ありのままでいられるものづくりに方針転換し始めると、木工だけでなく、刺繍や陶芸などのすべての手仕事品が、唯一無二のおもしろさを放つ作品になっていきました。
現在の〈しょうぶ学園〉のものづくりは、メンバーが自然体でいられる作業から生み出された素材をもとに、スタッフがアイデアや感性を加えて商品化していきます。メンバーもスタッフも同じ「表現者」であり、ものづくりの「協働者」です。
今回紹介するトレーも、メンバーとスタッフの感性の融合から生まれた商品です。木材を削るのが好きなメンバーに、ノミやノコギリを使って自由に彫り進めてもらい、その風合いを生かしながら、スタッフがオリジナル商品へと仕上げています。
工房設立から10年程かけて、現在のスタイルを確立していった〈しょうぶ学園〉。障害のあるなしにかかわらず、一緒にものづくりに取り組む仲間と、それぞれにとって居心地のよい空間を創出することが、〈しょうぶ学園〉の目指す福祉の在り方です。
Information
角盆&角膳
角盆
販売価格:【大】9000円、【小】7500円
サイズ:【大】280×300×15、【小】280×280×15mm
素材:山桜、檜、漆
角膳
販売価格:【大】7800円、【中】6800円、【小】5800円
サイズ:【大】300×300×25、【中】250×250×25、【小】200×200×25mm
素材:山桜、檜、漆
販売:在庫に限りがございますので、詳細は〈しょうぶ学園〉にお問い合わせください。
製造・お問い合わせ先:しょうぶ学園
Profile
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しょうぶ学園
知的障がい者支援施設
1973年に知的障害者援護施設としてスタート。「ささえあうくらし―自立支援事業」「つくりだすくらし―文化創造事業」「つながりあうくらし―地域交流事業」をテーマに、障害のある人たちが地域社会でよりよく暮らしていくための、創造的で刺激的なコミュニティづくりを目指す。針一本で独特の刺繍の世界をつくり上げる〈nui project〉や、心地よい「不揃いな音」を楽しむ民族楽器による音パフォーマンスグループ〈otto & orabu〉など、メンバーの個性が光る表現活動を次々と発信。1985年に〈工房しょうぶ〉、1999年には在宅デイサービスセンター〈Doしょうぶ〉、2019年にはアートホールを備えた子どもたちの支援施設〈アムアの森〉を開設するなど、地域福祉と地域貢献に力を入れている。