気づくと、日々の暮らしは過ぎていきます。ふとした瞬間にその暮らしを思い出したくなったとして、実際に思い出すことはできるのでしょうか。それにまつわる人やモノや場など、手繰り寄せるきっかけとなるものがないと結構むずかしい気がします。過ぎゆく暮らしの中で少しでも「読点」を打てたらいいのに。
この連載では世田谷区上町にある集いの場「ハーモニー」を行き交う人たちが、「記録部」として、それぞれの暮らしをどう残していくのか、考えたり考えなかったりしていきます。(こここ編集部)
※ハーモニーとは?
ふしぎな声が聞こえたり、譲れない確信があったり、気持ちがふさぎ込んだり。様々な心の不調や日々の生活に苦労している人たちの集いの場。制度の上では就労継続支援B型事業所。
2025年10月21日(火)の記録
10月21日(火)の午後1時です。ハーモニーから一番近い練馬の観測所のデータだと天気は曇り、気温16.3℃、東の風1.5m。同時刻で比較すると前日は18.5℃、前々日は21.0℃あったことを考えれば、肌寒い一日でした。曇っているの室内は少し暗い感じです。前日の夜、わずかばかり雨が降ったので傘を持ってくる人もいました。でも21日には、降水はありませんでした。
新澤:それでは「記録部」の始まりです。この時間は、わたしから3つの質問を皆さんにします。2問は毎回同じことを尋ねます。「今日の気分を天気で例えると」「理想の一日のスケジュールはなんですか」の2つ。そして、最後の一つは、その時の参加者の気分で準備した者の中から一つ選びます。
今日のメンバー紹介です。このんさん、戸島さん、酒井さん、kagesanと新澤です。
それでは始めましょう。
今日の気分を天気にたとえると
このん:曇りです。雨が降りそうな曇り空なのに傘を持ってくるのを忘れました。迷いました。今日、羽織ってくるコートにも迷いました。
戸島:今日の気分を天気にたとえること、あんまりないからなあ。ま……でも曇りです。このんさんとおんなじです。
新澤:おんなじっていうのはつまんないです(笑)
戸島:あははは。基本的には気分はわりとずっと快晴なんです。だけど、ちょっとここに来る前に、ああ、ちょっと来るの疲れたなと思って、眠くてどんよりしてるんで、ちょっと曇ってます。でも、基本的には快晴です。
酒井:ああ、鬱です。
新澤:酒井さん、天気です。喩えると。
酒井:土砂降りになりそうな曇り
新澤:なんと土砂降りになりそう……そんな大変な日なんだ、きょうは。
酒井:はい、土砂降りになっちゃうと……何もやる気がなくなる
新澤:酒井天気予報……その根拠は?
酒井:金がない(笑)
新澤:金がないと、鬱が来る。来月の支払いが滞る?
酒井:はい。それは心配。
kagesan:外は曇りなんですけど、ぼくは、今の気分は、ポツリポツリと雨が降ってきそうな天気です。急に寒くなってきたし。うーん。今年は秋がないというか、急に夏から冬になった気がして。この雨は3~4日続きそうですね。秋の心地いい風が欲しいんですよ。
新澤:なるほどねえ。1問目の今日の気分を天気に喩えると質問は、期せずして3人とも、「曇り」ないしは、「ポツポツ雨が降ってきそうな曇り」でした。
理想的な一日のスケジュールはなんですか
新澤:理想的な一日ってなんだろうね。
kagesan:朝すっきりと目覚めて、しっかり朝ご飯を食べて、気分がよかったらハーモニーに来る。ハーモニーに来ない日は、シャワー浴びたり、洗濯したり、そっちに専念する。昨日は今日ほど寒くなかったんで、サミット(スーパー)まで歩いて行ってきた。買い物したんです。みかんを買いました。最近、栄養を摂ることにしていて、卵も1パック買ってきたんです。そういうの食べて一日を過ごしてるんです。それがいい感じの一日です。
このん:私の場合は、朝起きて、温かいコーヒーを飲んで、一日を始める。仕事に行くなら仕事に行く支度をして、あとはお天気が良ければいいと思います。朝、物がなかったりするとよくないですね。
戸島:私は家族と一緒に住んでいるんですけどね。夫と子どもと犬がいて、夫も子どももサクッと仕事や学校に行っていなくなってもらう。それがいい状態。サッと犬も散歩に行ってくれる。犬ですが、外が嫌いなもんで、なかなか散歩に行ってくれないんですよ。怖がってるから。それでもサクッと散歩に行ってくれると、自分のやることができるというか。
新澤:なるほど。今までのお二人と同じように「予定通り」「滞りがない」ことがが大事なんだ。
戸島:そうそう。それで帰って、まあ、滞りなく寝ると(笑)
新澤:家族は別々に帰ってくる?
戸島:それが不思議と同じような時間で帰ってくる。
新澤:うちは別々に帰ってくるんだよね。3人分の皿を別々に洗うの場、かったるいんだよ。
戸島:自分でやらしちゃえばいいですよ。
新澤:そうねえ、自立してくれればいいんだが。でもそれじゃ、家族のいない毎日がいいってことになっちゃうか。
kagesan:いやあ、それは寂しいよ。やっぱり家族はいた方がいいよ。
新澤・戸島:うーん。
新澤:確かにいないと寂しいよね。一日に一回ぐらいは顔を合わせたいね。
戸島:適度にいなくなる(笑)
kagesan:一人の時間は大切ですけれど……両方あるといいよね。
戸島:滞るのが困るというのも家族がいるからこそですよねぇ。
新澤:一人だと滞ってもさほど困らないとも言える?
このん:ひとりになって、いろいろやらないようにしてみたことがあるんです。そうしたら、滞ったあとに、ゴミ屋敷みたいになった
新澤:人に左右されず自由にできると思ったのに、何もやらないで散らかることありますね。
このん:だから、経験から言うと、一つずつでもできることから片づける。
酒井:朝起きて……なんていうのかなあ。新聞読んで、朝ごはん食べて、毎日変わらないんで、その日のスケジュールを、今日は洗濯をしようとか、部屋干しなんで天気関係ないんで、この時期は冬支度しないといけないなあと思いついて、布団をちょっとおろしたり、電気毛布とか用意したり、暖房器具を用意するとか、それで一日終われば、よかったなああってことになるんです。でも、滞りなくいけばいいんですけど、あ、これがないとか、あれがないとか、なっちゃうと困る。必ずそういうことが起きるので、探したいものがみつかるといいんですよねえ。
kagesan:そういえば、僕、サイコロ持ってたんですけれど、大きめのサイコロだったんですけど、廊下でどこかに飛んでいっちゃって、それ以来、一個見つからないんですよ。ずっと、探してる。
新澤:いつ頃のこと?
kagesan:もう4、5年前です
新澤:それはずいぶん前だ。何か探しても見つからないものがあると、ずっとそのことが気にかかるよね。
みんな:うんうん。
新澤:この質問も面白かったですね。どういう1日が理想かというより、どうして理想の1日にならないかという話題が多かったですね。「滞る」って言葉が、あちこちに出てきたのが印象的です。理想の一日は思いえがいていた通りに「予想通り」に進むことで、「滞らない」こと。でも「滞っても」家族にはそれなりの良さもある。
選択質問は「万博の思い出」
新澤:さて、選択質問になりました。
「お守りにしている言葉はありますか?」
「幼い頃によくやった遊びはなんですか?」
「気付けば毎日やっていることは?」
「落ち着くにおいがする場所は?」
「やってみたいのに、ずっとできていないことは?」
「“万博”というものへの思い出」
新澤:酒井さんはどれがやりたいですか?
酒井:万博
このん:私、行ってない。
戸島:私も。
このん:でも、それが思い出なんじゃない。行ってないという思い出。
kagesan:あれ、ミャクミャクだっけ。あのぬいぐるみが欲しい。東京のショップで買えるそうです。
みんな:あああ
kagesan:ちっちゃいの
DRG57:(場外から)ミャクミャクは、気持ち悪いよ。
新澤:気持ち悪いのがいいのかもよ。Kagesanはミャクミャクに興味があると?
kagesan:はい。僕も最初はなんだこれは!と思ったんですけど、ずっと見ているうちに愛着がわいてきて、なんか愛おしいなあとか、ちっちゃいぬいぐるみだったほしいなあとか。置物として置いておこうかなあ。
新澤:なるほど、もう万博でいきましょう。場外にいる雨宮さんにも聞いてみましょう。どうですか。
雨宮:(場外から)私も最初は抵抗あったんですけど、繰り返し目の当たりにしていると、いいかも知れないなと。
新澤:先ほどから場外で「あれは東京の陰謀」という声がかかっています。マッサン、あれは東京の陰謀なんですか。
マッサン:(場外から)あれは東京の悪い奴が、張本人は誰か分かりませんけど、大阪をおとしめるために派遣した陰謀なんです。
新澤:なるほど。東京の組織が大阪万博の評判を下げるために派遣したんですね。
kagesan:でも、ミャクミャク効果ってすごいんですって、800億円だったけかな。
戸島:ああ、じゃ、大阪を貶めるという東京の陰謀は裏目に出たんだ。
新澤:ミャクミャクが気持ち悪いっていうけど、そもそも1970年の太陽の塔も違和感あったよ。1970年の大阪万博に行った人はいらっしゃいます?
酒井:修学旅行
みんな:ええ?
戸島:小学校?
酒井:はい。6年生。
新澤:僕も4年生で家族といった。太陽の塔! 不思議な形の物だと思いました。
酒井:混んでましたね。パビリオンっていうのかな。アポロ宇宙船が地球に持って帰ったという「月の石」が見たかったんだけど、展示している「アメリカ館」には混んでて入れなくて、ソ連館に行きました。
新澤:どこに行っても人ばっかりでしたね
酒井:はい。修学旅行だから、どこにいっても迷子にならないようにと目立つ帽子やTシャツを着たりしました。遊園地に行くわけじゃないし、展示物を見るだけだから、そんな楽しいって感じでもなかったなあ。
新澤:そうか、修学旅行だとね。
酒井:今回もあんな混んでるんなら、行かないやってなりましたよね。
このん:何か今年の万博は、遊園地のような気がしました。待ち合わせして、乗り物乗って、楽しむみたいな。
酒井:わざわざ、大阪まで行くお金もないし。そもそも、東京の我々は箱根より向こうは関係ないでしょ。関西人だって、きっと名古屋よりこっちは関係ないって思ってるんですよ。
新澤:それ、どっちにも入ってない静岡の人に怒られますよ(笑)
酒井:だから万博は、大阪の人がやりたくてやってるだけで、東京は関係ないんですよ。
みんな:そうなのか。
新澤:そういえば、オリンピックは2回とも東京だけど、東京は万博ないのはなぜでしょう
DRG57:(場外から)土地がないんですよ。そういえば、私は1985年の「つくば万博」には行きました。
みんな:おお!
新澤:何か印象に残ったことはありましたか?
DRG57:薄型テレビですね
戸島:すごい、実現してる!
新澤:液晶テレビ?
DRG57:そうかな。
kagesan:新澤さん、後でネットで、ミャクミャクのぬいぐるみがいくらで買えるか、見てくださいよ。ちょっと、欲しくなった。
というわけで、ミャクミャクのぬいぐるみについて、ピンクよりオーソドックスな赤と青が可愛いとか、すいぶん高いねとか、話の尽きないハーモニーのみなさんでした。
(記録部 第1回目終わり)
Profile
Profile
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新澤克憲
就労継続支援B型事業所ハーモニー施設長
大学院中退後、デイサービスの職員、塾講師、木工修行を経て、共同作業所ハーモニー施設長(1995~2011)就労継続支援B型事業所ハーモニー施設長(2011~2022)。現在は特定非営利活動法人やっとこ理事長。基本的に人見知り、ひきこもり気質に加え体重増加中のため、あまり動かない。記憶と記録、語りと言葉、そして人びとの居場所について関心がある。休日はパンクバンド「ラブ・エロ・ピース」のノイジーなギタリストとして活動する。2024年4月には、30年の間にハーモニーで出会った人たちとの日々の出来事を記録した『同じ月を見あげて ハーモニーで出会った人々』を道和書院より刊行した。他にも共著書『超・幻聴妄想かるた』(2018年、やっとこ)。写真撮影:田中ハル

