福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【イラスト】銭湯の浴槽。壁には富士山のイラストが描かれている【イラスト】銭湯の浴槽。壁には富士山のイラストが描かれている

落ち着くにおいのする場所は? 暮らしの読点|世田谷区上町「ハーモニー」に集う人々 vol.03

  1. トップ
  2. 暮らしの読点|世田谷区上町「ハーモニー」に集う人々
  3. 落ち着くにおいのする場所は?

気づくと、日々の暮らしは過ぎていきます。ふとした瞬間にその暮らしを思い出したくなったとして、実際に思い出すことはできるのでしょうか。それにまつわる人やモノや場など、手繰り寄せるきっかけとなるものがないと結構むずかしい気がします。過ぎゆく暮らしの中で少しでも「読点」を打てたらいいのに。

この連載では世田谷区上町にある集いの場「ハーモニー」を行き交う人たちが、「記録部」として、それぞれの暮らしをどう残していくのか、考えたり考えなかったりしていきます。(こここ編集部)

※ハーモニーとは?
ふしぎな声が聞こえたり、譲れない確信があったり、気持ちがふさぎ込んだり。様々な心の不調や日々の生活に苦労している人たちの集いの場。制度の上では就労継続支援B型事業所。

2026年2月19日(木)の記録

2026年最初の記録部。2月19日(木)15時です。快晴ですが、練馬の観測所の記録では、気温が8.7℃。北の風4.5m。ちょっと外は寒いけれど、木曜日の午後は毎週、公園の清掃があります。

今日は、公園清掃から帰ってきた超ベテランの「まさるさん」と、自宅から来てくれた「kagesan」、それからスタッフでハーモニーのサービス管理責任者として活躍している「あさん」の三人をお招きしました。

今の気分を天気にたとえると

新澤:この時間は、わたしから3つの質問を皆さんにします。2問は毎回同じことを尋ねます。「今日の気分を天気で例えると」「理想の一日のスケジュールはなんですか」の2つ。そして、最後の一つは、その時の参加者の気分で準備したものの中から一つ選びます。

kagesan:くもりのちはれです。最初は家の中で曇ってたんですよ。ハーモニーに来てから晴れてきたんです。一人でいると考え事したりしてよくないんです。

新澤:考え事するのは、楽しいことじゃないんですね。

kagesan:楽しいこともありますけれど、楽しくないことが多いですね。たとえば家の固定資産税がこれ以上、あがんないようにお願いします。

新澤:固定資産税のことを考えると気が重くなってしまう?

kagesan:上がると困るんですよ。

新澤:そうですねえ。子どもには収入がなくても、親から住む家を引き継いだというだけで、税金がかかり続けるのは、不合理だと思うこともありますよね。家の管理だってお金かかるのに。かげさん、楽しいのはどんな時ですか。

kagesan:今ならオリンピックですよ。日本勢活躍してます。楽しいのはまず、リュージュ。後は女子のカーリングと、スノボー。ハーフパイプかな。日本の選手が金メダルとりました。

新澤:まさるさん、オリンピックみた?

まさる:ぼちぼちね。

あ:わたし、引退しちゃったけれど、スケートの小平奈緒選手が好きでした。

kagesan:ああ!

あ:かっこいいとおもった。

kagesan:それから、あさん、カーリングは?

新澤:あの……その辺の話は本題ではないので。天気。天気ね。

kagesan:あはははは。

新澤:では、かげさん、ハーモニーにきて晴れた気分になるのはなぜ?

kagesan:それはAさんと話したり、Bさんと話したり、Cさんと話したり。

新澤:女子の名前しか出てこないよ。

一同:あはは。

まさる:私は、気持ちが晴れないことがあって、今の天気は曇りです。

一同:あれ? なんででしょう?

まさる:いやあ。ちょっと言い難いことで……。

新澤:そうか。言い難いこともありますよ。まさるさんは、ハーモニーに来て気持ちが晴れたりしますか。

まさる:晴れたりしますねえ(笑)

新澤:それはうれしいですね。じゃあ、少しだけでも楽しくなるといいですね。それでは、あさんにも聞いてみましょう。今の気分を天気に例えるとどうでしょう。

あ:今朝はですね。風が吹いている気がしました。

新澤:風が吹いている?

あ:はい、朝の準備をしようとすると阻まれるんです。

新澤:なになに。闇の組織とか?

あ:朝の支度をしようとして、床をみると毛が落ちているとか……。それをとっていると支度が遅くなる。

新澤:毛が落ちていると?

あ:阻まれる。ンンンンってなる。

新澤:邪魔される感じが風が吹いているという表現なんですね。

あ:そう。でも、今はみなさんのお話を聞いていて晴れた気分になりました。

一同:ほほう

新澤:「今の気分を天気をたとえると」三者三様でしたね。この調子で第二問です。「理想的な一日のスケジュール」です。

理想的の一日のスケジュールは?

一同:うううううん~。

kagesan:じゃあ、ハーモニーに行かないときの日課でいうと、昼の2時ぐらいまでに、スーパーのオオゼキかサミットに行って。そのあと夕方風呂入って……疲れをとることですね。

新澤:ほほう。

kagesan:年寄りみたいですね。

新澤:サミットに早くいくといいのですか。

kagesan:ここからだとちょっと距離があるんで、大変だし、品ぞろえが豊富なので、つい買っちゃうんですよ。

新澤:はい。

kagesan:それから、サミットに行く途中に「まいばすけっと」があって、そこでもたくさん買っちゃうんです。

新澤:それで、たくさん買い物してお風呂に入ると。

kagesan:そう。日中に風呂入ることが多いんです。それで、夜は11時には寝たいんですけど、テレビを観て、寝るのは夜12時になっちゃいますね。

新澤:ちょっとした夜更かしもたのしそうですね。それでは、まさるさんに聞いてみましょう。

まさる:朝起きる。朝ご飯を食べる。近所の松屋に行って朝定食を食べる。

新澤:豪華ですね。

まさる:580円(微笑)。で、うちで新聞を読む。新聞とってるから。それで、ハーモニーに出てきて公園清掃に行く。

新澤:お昼ご飯もハーモニーで食べる?

まさる:そう。お昼の予約を忘れずにしておかないと人生が暗くなる。それで、卓球。

新澤:卓球来た!

まさる:それで銭湯。

kagesan:昼間からお風呂って、俺と似ているね。

まさる:それでうちに帰る。

kagesan:この辺、銭湯ないからなあ。

あ:銭湯、三軒茶屋あたりまでないからねえ。

まさる:若林になかったっけ?

kagesan:あれ、つぶれた。ボロ市通りも今はないし。

新澤:というわけで、まさるさんはお風呂が楽しみということですね。

あ:あれ、お酒が入ってない。

新澤:そういえば。風呂屋の後にちょいと一杯が……。

まさる:いやいやいやいや。

一同:いやいやいやいや。

まさる:お酒は飲んだり飲まなかったり。

新澤:それは、理想とは関係ないんだ(笑)。日課?

まさる:いやいやいやいや(笑)

新澤:ありがとうございました。それでは、あさんの理想的な一日、聞いていいですか?

あ:お休みの日は午後2時ぐらいに起きたいです。

新澤:ああ、ゆっくり寝てたい人ですね。

あ:最近は全然、長く眠れなくなってきまして。朝の5時とかに起きてしまったら悔しくてたまらない。朝寝をたのしみたい。

新澤:ご飯はどんなのだとうれしいですか。

あ:誰かが作ってくれたご飯。

一同:(笑)

kagesan:誰だってそうですよ。

新澤:ヘルパーさんに来てもらう?

あ:出てきたものを見て、「ああ、○○かあ!」って言いながら食べたい。

新澤:ゆっくり眠れて、ひとが作ってくれるご飯。ちょっと、旅行行ってる感じですかね。

あ:ああ、いいですねえ。

選択質問「落ち着くにおいのする場所は」

「お守りにしている言葉はありますか?」
「幼い頃によくやった遊びはなんですか?」
「気付けば毎日やっていることは?」
「落ち着くにおいがする場所は?」
「やってみたいのに、ずっとできていないことは?」
「“万博”というものへの思い出」

新澤:さて、最後の選択テーマは何にしようか。今日は筑波万博に行った人もいるけど。

kagesan:僕行ってないからなあ。落ち着くにおいはだめ?

新澤:いままでやってないからこれにしようか? 「落ち着くにおいのする場所は」にしようか。そういうkagesanは何か思いつくことがあったのでしょうか。

kagesan:亡くなった母親の持っていた巾着のにおい。ちっちゃいんですけど(と言って手で7~8センチの大きさを作る)。中には何も入ってないんですど、そのにおいを嗅ぐと、なんかお香みたいなにおいがするんですよ。

あ:におい袋? でも中に何も入ってないのだとすると、小物入れなのかしら。

kagesan:それが母のにおいというわけでもないけれど、その袋のにおいがいいんです。そういえば、食べ物だとイチゴの香りがいいですね。

新澤:ありがとう。あさんはどうですか? 落ち着くにおい。あさんは朝来ると、ハーモニーの排水管から上ってくる下水の臭気に敏感ですが。

あ:それは、落ち着かないです! そうだなあ。コーヒーの香りとか誰かがご飯作っているにおいは好きかも。ああ、ご飯の話ばっかりだ(笑)

kagesan:あはは。犬みたい(笑)

あ:本当に犬みたい(笑)。誰かのご飯の話が多いみたい。落ち着くというかホ​ッとしますね。

新澤:そういえば、僕は実家に行って、もう実家の主も飼っていた犬も死んじゃっていないんですけど、残された犬のゲージのにおいとか好きでしたよ。

一同:ああああ。

新澤:それでは、最後にまさるさん。

まさる:うん……。

新澤:相撲好きのまさるさんだから、鬢付け油(びんつけあぶら)のにおいとか?

まさる:それはないなあ。

新澤:食べ物に限定すると考えやすいかな。

まさる:中華丼(笑)

新澤:それじゃあ。逆にこのにおいは嫌だなあ、嫌いだなあというのでもいいか。

まさる:布団のにおい。

あ:(爆笑)

新澤:わかるわかる。自分の布団のにおいって歳とってくると、いやじゃありませんか? 自分のベッドのそばにいくとゴミ屋敷のにおいするんですよ。

kagesan:嗅いだことないからなあ。わからないなあ……ただ、自分の枕が嫌で、三軒茶屋の無印良品で枕と枕カバーを新品の買いたいんですけど、高さとか自分に合うかなあって思うんです。

新澤:今のはどんなふうになってます?

kagesan:ひどいもんですよ。もう焦げたお餅みたい(笑)

新澤:自分の寝具が嫌いだということで意見が一致してきましたね。あさんは嫌いなにおいありますか。

あ:自分の靴(笑)

一同:わあ!

新澤:時間になったのでおわりにしましょう。

(記録部 第3回目終わり)

【イラスト】銭湯の浴槽。壁には富士山のイラストが描かれている

Series

連載:暮らしの読点|世田谷区上町「ハーモニー」に集う人々