福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

こここ文庫

死と愛【新版】――ロゴセラピー入門 ヴィクトール・E・フランクル (著)、 河原理子(解説)、霜山徳爾 (翻訳)

本を入り口に「個と個で一緒にできること」のヒントをたずねる「こここ文庫」。今回は、インディペンデント・キュレーターの青木彬さんに「“創造性”を考える一冊」を教えていただきました。

青木さんが推薦されたのは、精神医学者・フランクル氏による『死と愛』。強制収容所に送られた体験を記した『夜と霧』でも知られる著者が、独自の療法として提唱する「ロゴセラピー」。その考え方が収められたこの一冊に、青木さんはアートの仕事とのつながりを感じたそうです。

【画像】ヴィクトール・E・フランクル しとあい 書籍表紙
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人々の生きる意味に寄り添い、その意味の世話をする

外科医が外科医としては手を拱(こまぬ)いてしまうときにはじめて、医師による魂の癒しの仕事は始まる。たとえば外科医が彼の外科的な仕事をなしてしまったときに、あるいは手術不能な場合に面して外科医的処置が行えないときに、それは始まるのである。
それは単に肩を叩いたり、安直で粗野な格言をいったりすることによっては行われない。重要なのは正しい時に正しい言葉を用いることであって、この正しい言葉は決して大言壮語の中には存しないのであり、大げさな哲学的議論の中に「退化」する必要は少しもないのである。しかしそれは感銘を与え、相手の胸にふれるものでなくてはならない。

『死と愛【新版】――ロゴセラピー入門』「第三章 心理的告白から魂の癒やしへ」P.261


ナチスの強制収容所で数年間を過ごしたフランクルが、まるで自らを苦悩から救うように従来の心理療法を補うものとして提唱したロゴセラピー。その理念をまとめたものが『死と愛』です。本書の中で、医師は精神に寄り添い患者自身で未来を決断することが出来る力を与えること、それが「魂の癒し」になると語ります。

読書中に印象的だったことは、熱を持って発せられる言葉と共にフランクル自身の苦悩が伝わってくることでした。旧来の心理療法への信頼と、そこから踏み出す勇気。強制収容所の中で生きる意味を求めた自身の体験と、多くの人々が抱える葛藤を同時に見るまなざし。行きつ戻りつするように、少しずつ前進していく文章からは、力強さと優しさが伝わってきます。

ギリシャ語のクラーレ(=世話をする)に由来するという「キュレーター」。私にとっての「キュレーター」像は、“アーティスト”や“作品”との関係においてのみ成立する専門的な振る舞いに留まることなく、『死と愛』で語られているように人々の生きる意味に寄り添い、その意味の世話ができるような存在なのです。

100号の絵画から一通のラブレター、お弁当のおにぎりまで、かけがえのない創造力は“アート”の中だけにあるのでは無いことに気が付いた時、「キュレーター」は外科医のように人を救えなくとも、苦悩の中でも未来をつくることができるはず。本書はそんな背中を押してくれる一冊です。