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音と振動でつながる体験を。「金箱淳一展 たたく・つながる・ひびきあう」〈長野県立美術館アートラボ〉にて2024年5月14日まで開催中
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触って、聞いて、感じて。視覚だけでない鑑賞体験を

〈長野県立美術館〉では「アートラボ2023第Ⅳ期 金箱淳一展 たたく・つながる・ひびきあう」を開催しています。この展示は、同美術館が取り組む、視覚以外の感覚で鑑賞できる作品や活動を紹介する「アートラボ」の一環で実施されており、2023年第Ⅳ期は、楽器インタフェース研究者である金箱淳一さんによる「音」と「振動」に焦点を当てた作品が登場します。

展示のメインは自分で座って演奏できる作品

同展示を代表する作品《Vibracion Banco》(2021)は、1台に大人3名が同時に座れるベンチ型の打楽器です。座った状態で演奏するペルー発祥の打楽器カホンのように、叩くことで音が鳴り、その振動が自分の体や隣に座っている人、もう一対の作品に座っている人にも伝わります。材質の異なる9つの打面は、叩く場所によって音色が変わり、振動も変化するそうです。

金箱淳一《Vibracion Banco》2021年

この作品は、ふるさと納税の仕組みを活用し、美術館に展示するオリジナル作品を新たに制作するプロジェクト「新美術館みんなのアートプロジェクト」として、触れる美術作品として2021年に制作されました。作者の金箱淳一さんは作品について、こうコメントしています。

設置場所となる美術館という空間は「作品は静かに鑑賞しなければならない」という見えないルールによって縛られていると考えました。そのルールを、打楽器の音色で緩やかに崩していくことができないかという挑戦でもあります。

作者HPより引用)
金箱淳一さん(撮影:守屋友樹)

1984年長野県浅科村(現:佐久市)生まれの金箱さんは、楽器インタフェース研究者であり、触覚(Haptic)のデザインを通じて人やモノとの身体を通じた関係性をデザインするハプティック・デザイナー(Haptic Designer)でもあります。筑波大学大学院人間総合科学研究科で博士(感性科学)を取得後、障害や年齢に関係なく、共に音楽を楽しめる「共遊楽器」について研究し、音楽を視覚・触覚で楽しむアプローチを中心に作品制作やワークショップを実施しています。

これまでの美術館の体験を問い直す〈長野県立美術館〉の試み

同展示を開催する〈長野県立美術館〉は、1966年に〈信濃美術館〉として開館(1969年に長野県へ移管)。その後、全面改築を経て2021年4月に現在の名称になりました。以来「鑑賞」「学び」「交流」「研究」の4つを軸に、郷土作家の作品・「自然」や「自然と人間」をテーマとした近現代美術の収集やコレクション展の開催だけでなく、障害の有無に関わらずさまざまな人がアートに親しめる機会を創出する「インクルーシブ・プロジェクト」を展開しています。

そのうちのひとつが「感覚をひらく」プログラム。これまでの、視覚による作品鑑賞を中心としてきた美術館での体験を問い直すことがねらいです。今回紹介した「アートラボ」もまた、視覚以外の感覚を使った鑑賞が可能な「ラボラトリー(実験室)」として、誰でも立ち寄れ、新たな発見が生まれる場となることを目指しています。過去の展示では、嗅覚をテーマにしたアートプロジェクトの紹介や、触覚に重点を置いた「さわる絵画」の展示・ワークショップなどを実施してきました。

また「ひらくツール」として、美術館の各施設や機能について見たり触れたりできる館内設置型の触地図「ふれる小さな長野県立美術館」や、作品や技法にちなんだ素材に触れて楽しむ「ふれるアートカード」、美術館を代表するコレクションについて目の見えない人と見える人が一緒に作品鑑賞を楽しむためのリーフレット「ふれるコレクション」など、アーティストやクリエイターと協業したアクセシビリティにまつわるツール開発も盛んに行われています。

金箱淳一《Vibracion Banco》2021年

展示会や「ひらくツール」など、実際に触れたり、聞いたり、感じたりしながら、自分の身体のさまざまな感覚を使って美術を鑑賞できる刺激的な時間になりそうです。観覧料は無料で、各種ツールは貸出可能なものも。ぜひこの機会に美術館を訪れてみてはいかがでしょうか。