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知的障害や発達障害がある俳優たちによる劇団〈バック・トゥ・バック・シアター〉新作公演、10月4・5日京都にて
公演情報

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【画像】舞台写真
Photo by Ferne Millen

〈バック・トゥ・バック・シアター〉最新作『いくつもの悪いこと』が、京都で上演

働く場や日常の人間関係において、「多様性」「平等」といった言葉を耳にする機会が増えてきました。障害のある人や、異なる背景のある人と肩を並べて仕事をする光景も少しずつ広がっています。けれど、互いに気を配り合うなかで余裕が失われたとき、「多様性」や「平等」は本当に守られるでしょうか。

そんな問いを観客に突きつけるのが、知的障害のある俳優やニューロダイバーシティ(神経多様性)を自認する俳優を中心とした劇団〈バック・トゥ・バック・シアター〉の最新作『いくつもの悪いこと』です。時に挑発的で、現実を鋭く突きつける彼らが、今回も「見て見ぬふりをしているかもしれない現実」を舞台上にあらわにします。本作は10月4日(土)〜5日(日)の2日間、京都国際舞台芸術祭「KYOTO EXPERIMENT 2025」のプログラムとして、〈ロームシアター京都〉にて上演されます。

「現実」と「演劇」の境界を揺さぶられる作品

〈バック・トゥ・バック・シアター〉は、オーストラリア・ビクトリア州ジーロングを拠点に、知的障害のある俳優たちが中心となって活動している劇団です。30年以上にわたり、演劇・映像・書籍といった様々な作品で、観客に深い問いを投げかけてきました。

2024年には、ヴェネチア・ビエンナーレ演劇部門で金獅子生涯功労賞を受賞。世界各地のコミュニティとコラボレーションも展開し、障害のある人々の社会包摂の向上を目指した取り組みや、優れた芸術性に焦点を当てた活動は、国際的にも高く評価されています。

劇団の特徴は、障害のある俳優が創作の核を担い、作品をともに作り上げていくこと。知的障害のある俳優たちが舞台上で演じる存在感そのものが、既存の「演劇」の枠組みや観客の固定観念を揺さぶります。

【画像】本作のメインヴィジュアル。俳優が1人立っている
Photo by Jeff Busby

2023年には『影の獲物になる狩人』を「KYOTO EXPERIMENT」で上演し、大きな話題を呼びました。本作品は障害のある3人の活動家が周辺住民を集め、ミーティングを開くところから始まります。「AIの、人類に対する脅威」をテーマにした3人の会話にAIが入り、やがて差別の歴史や性をめぐる権力構造へも言及します。

本作のレビューの中で、神戸市外国語大学英米学科教授として教鞭をとるエグリントンみかさんは、「バック・トゥ・バック・シアターの芸は、虚実皮膜の間にある」と語りました。

リアルとフィクション、ライブと再現芸術、舞台上と舞台裏、役者と観客、見る者と見られる者、障害者と健常者、人間と人間以外は、常に既に「背中合わせ」でもあることを暴くドキュメンタリー風メタシアターは、個人的な体験を、政治問題、さらには人間中心主義を超えた天文学的現象へと繋げ、既成概念に揺さぶりをかける。
生労苦にまつわる、容易には答えの出ない難題が矢継ぎ早に発せられるが、「正しい」回答や解決に至ることは、まずない。むしろ正解のない問いこそが、次の作品を生み出す原動力となっている。
(引用:バック・トゥ・バック・シアター: 「背中合わせで」、「次から次へ」生成変化/老化/進化する演劇 文・エグリントンみか

今回上演する『いくつもの悪いこと』でも、観客は「現実」と「演劇」の境界を揺さぶられる体験をすることになるはずです。

新作『いくつもの悪いこと』その“職場”は、現実か?フィクションか?

新作『いくつもの悪いこと(Multiple Bad Things)』(2024年初演)の舞台となるのは、“世界の果て”にある倉庫。薄暗いなかで、登場人物である3人の労働者が奇妙にねじれた建造物を組み立てています。

【画像】舞台写真
Photo by Jeff Busby

舞台の端には、その様子をじっと監視する1人の男の存在。

【画像】舞台写真
Photo by Ferne Millen

一見すると、どのような特性があろうと3人が自由に働ける「多様性がある職場」が広がりますが、労働者たちの余裕がなくなっていくにつれ、状況は一変します。

やがて個の尊重が失われ、互いの偏見や差別、支配欲が露わになる。「自分は悪くない」という自己正当化がエスカレートし、ついには誰かを犠牲にしようとする緊張が走ります。

観客の目の前で繰り広げられるのは、不安と暴力に満ちた“職場”の縮図です。「これは演劇です。現実ではありません」と登場人物が口にする言葉が「これはすでに現実で起きていることかもしれない」と観客の不安を助長させるでしょう。

【画像】舞台写真
Photo by Ferne Millen

公演は、多様な背景のある観客が安心して来場できるよう、鑑賞サポートも充実しています。会場となる〈ロームシアター京都〉 サウスホールでは、託児サービスを予約することができ、字幕が見やすい座席の案内、ヒアリングループ席の設置、車椅子席や専用駐車場の利用、さらに耳栓やヘッドホン、アイマスクの貸し出しなども行われます。

さらに、アートとケアを掛け合わせたプロジェクトを行う市民団体〈一般財団法人たんぽぽの家〉が運営する「障害とアートの相談室」が主催となり、鑑賞ツアープログラムも実施。

『いくつもの悪いこと』は、一つの演劇体験を超えて、現実の暮らしや働き方をも見直すきっかけになるかもしれません。2023年に上演された『影の獲物になる狩人』から2年ぶりとなる期待の新作公演に、ぜひ足を運んでみてください。