ニュース&トピックス
家族という他者と対話し共に生きる20年の記録。映画『どうすればよかったか?』12月7日より全国順次公開
上映・配信情報
- トップ
- ニュース&トピックス
- 家族という他者と対話し共に生きる20年の記録。映画『どうすればよかったか?』12月7日より全国順次公開
20年にわたりカメラを通じ家族との対話を重ね、社会から隔たれた姉の姿を記録した迫真のセルフドキュメンタリー映画
面倒見がよく、絵がうまくて優秀な8歳ちがいの姉。
医師で研究者でもある両親の影響から医学部に進学した彼女にある日、統合失調症の疑いのある症状が現れます。
しかしその疑いを認めず、精神科の受診から姉を遠ざけてしまう両親。
その判断に疑問を感じた弟である監督自身は、帰省ごとに家族の姿を記録し、対話をはじめていきます。しかし姉の状況はより悪化し、両親は玄関に鎖と南京錠をかけて姉を閉じ込めるように……。
「どうすればよかったか?」
観る者へ正解のない問いを突きつける、家族という他者と対話し生きる20年が記録された迫真のセルフドキュメンタリー映画『どうすればよかったか?』が、12月7日より〈ポレポレ東中野〉(東京都中野区)ほか全国で順次公開されます。
約100人に1人がかかると言われる病気が、統合失調症
統合失調症とは、考えや気持ちがまとまりづらくなる状態が続く精神疾患のひとつで、幻覚や妄想、感情表現の減少や意欲の低下などさまざまな症状が現れます。
その原因は、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れなどが関係していると考えられており、また大きなストレスなども関係あると言われています。そのため約100人に1人がかかるというデータもあるように、珍しい病ではありません。
また統合失調症は、時間が経過すれば改善される病気ではなく、自然に治ることはありません。治療により症状の軽減や回復することもあり、早めに治療するほど症状が重くなりにくいと言われていることから、早期発見とその人に合った治療が大切とされています。
カメラを通じ問いかける、私たちが他者へ寄せる一方的な期待の存在
自宅内の研究室を、母が誇らしく紹介していく当時の映像。
父と母は医学者でした。
その両親の姿を見て育った長女である姉は、影響を受け医師を志し、苦労しながら医学部へと進学。その後、統合失調症の症状が現れていきます。
本ドキュメンタリーの目的は冒頭で伝えられる通り、姉が総合失調症を発症した理由を究明することではありません。
しかしながら当時学生だった姉の、認められたい/認められなければ、という想いに伴うエピソードや、のちに母が話す「お父さんは医学から解放してあげればいいのに」といった言葉にみられるように、医学者の両親をもつ姉の当時のプレッシャーや苦しみについて私たちはまず想像させられます。
同時に統合失調症の疑いを認めず、精神科の受診から姉を遠ざけてしまった両親の姿も含め、「私たちが他者へ無自覚に寄せてしまう、一方的な期待」の存在へと思考が促されていきます。
私たちは、時に友人やパートナー、上司や部下といった他者に対して、または最も近い他者である家族という存在に対しても、一方的な期待や幻想を相手へ抱き求めてしまうときがあります。
本作は、姉の発症と家族との対話の記録を通じ、他者とどう向き合い、生きていくのか?という問いを投げかけているのです。
「家族」という最も身近で逃れられない他者。対話と共に生きることの難しさ
そして本作が映し出すのは、家族という最も近い他者と対話し、共に生きていくことの難しさです。
例えば、症状が悪化する姉に対し、両親が玄関に鎖と南京錠をかけ閉じ込めてしまうことについて監督と母とが話し合うシーン。
監督は、姉の症状が改善されない現状を母に訴えますが、家族同士となった途端、理性的な話し合いをすることが難しくなってしまう。これは多くの家庭で日常的に見られる、対話の難しさを表す一つの象徴でしょう。
そして医学者でありながら、なぜ両親は姉を精神科から遠ざけてしまったのか?
そこには医学者である前に親として「家族内で問題解決しなければならない」という当時の、そして今も存在する日本社会における家意識への囚われがあったのではないだろうか。そのような想像もできるのです。
最も身近な他者とのわかりあえなさ。それでも共に生きていかなければならない家族という存在。その逃れられなさが持つ苦しさや歪みについて、回答もなく美化もされない記録映像の状態で受け取ることで、私たちは家族という難しい存在について改めて向き合うのです。
20年の家族記録という、時の蓄積が持つ痛ましさと重み
映画はその後病気の発症時から約25年を経て、ようやく家族内での対話が結びつき、姉は医療機関へ入院。その後退院していきます。
その退院後のシーンへ切り替わった途端私たちが目にするのは、食事の洗い物をし、身支度し、会話しながら笑顔でピースマークする姉の急変した回復の姿です。
その姉の姿を見ることで、もちろん私たちはまずほっと安堵をすることでしょう。
しかし同時にこれまで両親が病気を認められず、姉を家の中へ閉じ込めてきた年月の長さについて、そして人生の多くの時間を家族以外の他者と関わることができなかった姉の人生へのやるせなさについて、「時間の積み重ね」という痛ましさを突きつけられるのです。
20年という記録映像とは、家族皆が一様に歳を取り、老い、静かに衰えていく姿を見ていくことでもあります。
年月の経過による老いと衰え。それを経ても認めることの出来ない過去の誤った姉への判断。母は父へ、父は母へ、その原因をすり替え「自分自身、どうすればよかったか?」への問いに向き合えない両親の姿。それもそのまま映し出されているのです。
わかりあえなさと共に生きる全ての人へ。
誰にとっても当てはまる、にも関わらず人には話しづらいテーマが「家族」という存在です。
そして本作はタイトルが示す通り「どうすれば良かったか?」というその正解のない問いが観る私たちの中へも横たわり続けます。
統合失調症について、他者と対話することの難しさについて、家族のままならさなさについて……。
本作は、正解がないゆえ、自分で感じ、考え、同じく観た人同士で話し、またさらに考えて、といったように一人で鑑賞するだけでなく、他者と共有することでさらに気づきや思考の機会が生まれていくような作品でもあります。
そしてだからこそ、わかりあえなさと共に生きる全ての人へ向けた問いを持った作品と言うこともできるでしょう。
ぜひ劇場でご覧ください。
Information
映画『どうすればよかったか?』
- 公開情報:12/7(土)より[東京]ポレポレ東中野ほか全国順次公開
- 監督・撮影・編集:藤野知明
- 制作・撮影・編集:淺野由美子
- 編集協力:秦岳志
- 整音:川上拓也
- 製作:動画工房ぞうしま
- 配給:東風
- 2024 年/101 分/日本/DCP/ドキュメンタリー
- ©2024 動画工房ぞうしま
Information
〈こここ〉公式LINE、友達募集中!
毎週水曜日に編集部おすすめの新着記事を厳選してお届けしています。
・新着記事を確認するのは大変!
・記事のおすすめはある?
・SNSでは、追いかけきれない!
・プッシュで通知がほしい!
という方におすすめです。
友達追加はこちらから!