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精神医療から生まれた“1日だけの美術館”が、11月16日にオープン! 「袋田病院」13年目のアートフェスタ
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作品と思われる、人の後ろ姿が描かれた絵画の上に、タイトルと日時が掲載された、イベントのチラシ

20年以上にわたる「精神科医療における表現」に出会う展覧会

精神科医療の分野で、20年以上にわたり病棟やデイケアで造形活動を行う〈袋田病院〉。その活動成果を公開する展覧会「Artfesta2025 袋田病院美術館」が、2025年11月16日(日)に実施されます。

当日は施設を美術館に見立て、屋内外にアート作品が展示されるほか、野外ステージでは〈袋田病院〉が実践するセラピーの一部の体験会が行われます。また、オランダから招聘され、病棟でアーティスト・イン・レジデンスを行うエリック・ファン・リースハウトさんの滞在制作の一部も公開されます。

病院の建物の外側にたくさんの人。建物には「袋田病院美術館」と書かれた、恐竜の絵がくり抜かれた大きなポスターが飾られている
「アートフェスタ2023」のオープニングの様子。地域の人々、法人関係者、医療福祉やアート関係者などが集まって演奏を聞いている

〈袋田病院〉と造形活動

〈袋田病院〉は1977年に開設された、茨城県久慈郡大子町にある精神科病院です。「新しい時代に要請される精神医療を創造的に実践していくこと」という理念を掲げ、既存の精神科医療にとどまらず、「森林セラピー」や、栄養の観点から治療・改善を行う「オーソモレキュラー栄養療法」なども取り入れています。

そんな〈袋田病院〉が表現活動を始めたのは2001年。きっかけとなったのは、2代目理事長/院長に就任した的場政樹さんが、さまざまな精神科病棟で造形活動を行ってきた安彦講平さん主催の展覧会を見に行ったことです。“心の杖として鏡として”人が生み出す表現に大きな感銘を受けた的場さんが、〈袋田病院〉でもアート活動を取り入れようと動き、安彦さんが講師として関わることになりました。

現在は、アート活動を治療・リハビリだけではない、患者や利用者の自己表現のための重要な手段と捉え、アトリエ「ホロス」を中心に、絵画、版画、ステンドグラス、革細工、集合制作などを行っています。出来上がった作品は病院の待合室へ展示するほか、作品展への出展も実施。そうした日頃のアート活動の集大成として行われているのが、今回開催されるアートフェスタです。

非常口の看板と似た色合いの緑色を背景に、白色の病院の絵、ドアを示している人、駆け込む人が描かれている
毎年アートフェスタを告知する為に、国道沿いに設置される看板。アートを通して精神科病棟で二つの「非日常」(袋田病院には「ハレ」の日として/地域の方には「精神科」という普段立ち入らない施設として)が交錯することを意味している

「Artfesta」の歩み

前回、2023年に開催された「Artfesta」は、2013年より年に一度、2019年からは隔年で開催されてきました。〈袋田病院〉のアート事業と造形活動全般に広く関わる、現代美術家の上原耕生さんが実行委員長として企画・運営を行っています。

これまでなかなか地域に開かれることがなかった病棟や外来の待合室や展示室を、あえて展示空間として開くことで、病院を文化的なプラットフォームとしながら、患者や利用者の社会参画を促していく実験的な試みでもあります。利用者が日々制作した作品の展示のほか、ワークショップや作品販売を行い、来場者と交流することで、立場を超えてアートや精神医療について語り合う場にもなっています。

ピンク色の壁に絵が飾られ、歩きながら見ている人がいる
〈袋田病院〉を運営する医療法人直志会法人のデイケア施設を、通所者や入院中の患者のアトリエとして使用。アートフェスタではアトリエ「ホロス」も会場の一部として、通所者の作品を展示している
色とりどりの折った紙で作られた小さな造形物が固まって、球体になったり、紐のようになったり、積み重なったりしている
アトリエ「ホロス」に長年通うメンバーの作品。新聞の折り込み広告を折り紙にするルーティンワークが、気持ちを落ち着かせる拠り所にもなっている。日々の積み重ねを、作業療法士と一緒にインスタレーションとして展示した

2014年からは患者や利用者の作品だけではなく、看護師や精神保健福祉士、精神科医といった職員の作品も展示。普段は支援する側も自身の作品を通して、精神科医療の現場における課題や問題意識を、地域や社会へ向けて問題提起しています。

毎年、活動の多様化とともに会場も拡大し、2018年からは5会場で作品を展示。2019年には、オランダの精神科病院で活動する〈フィフス・シーズン〉との協働プログラムとして、病棟内で患者、利用者、スタッフと文化交流を行うアーティスト・イン・レジデンスをスタートしました。

白い部屋に、ステンドグラスなどの作品が展示されている
普段診察室として使用している部屋も期間限定のホワイトキューブになり、「ホロス」に通所しているメンバーや入院患者の個展を行う

9回目の開催となる、2025年のアートフェスタ

今年度も、例年と同じく病院全体を展示空間として活用。〈袋田病院〉で行われる、多様なアート活動の展示が行われます。野外ステージでは、森林セラピーやエクササイズ、タンゴセラピーなど、実際に取り入れているプログラムの一部を来場者も体験できるそう。

さらに、2022年から〈袋田病院〉とのオンライン交流や滞在制作を継続しているアーティスト・あべさやかさんによる、藍茶提供も。来場者は、藍染した布が風に揺れるインスタレーションとともにお茶を楽しむことができます。

〈フィフス・シーズン〉との協働プログラムでは、エリック・ファン・リースハウトさんをオランダから招聘。アーティスト・イン・レジデンスとして〈袋田病院〉に滞在し、病棟で行われている滞在制作の一部を公開します。

青緑色の壁に、顔や椅子に腰掛ける人の姿が黒い線で描かれている
エリックさんが書いた、患者や施設利用者の似顔絵。英語やオランダ語の通じない人々と、絵を通して積極的にコミュニケーションをとっている

展覧会終幕後、同日の18:30〜20:30には、振り返りと交流会を兼ねた「アフタートーク」が〈大子町研修センター内 食堂「DAIGO HALL」〉にて開催されます。参加費は無料、申込みは不要で、お飲み物やお食事は各自持ち込み自由です。会場では、出展者や職員たちのビデオメッセージも上映予定です。

アフタートークの開催日時や場所などが書かれた、ピンク色のチラシ

10年以上にわたり〈袋田病院〉のアート活動に関わり続けてきた実行委員長の上原さんは、“表現活動による作品の「差異」は私たちが本来持っているであろう、人間的で豊かな「多様性」を育み、コミュニティー(病院)を和やかにしてくれている実感がある。私たちが今日まで続けてきた「精神科医療における表現」は、そういったマイノリティーへの差別や偏見を横断する、ささやかな提案として、袋田病院の中で四半世紀に渡り続けられてきた”とコメントを寄せています。

アートフェスタは、精神科医療における表現の先駆的な実践や、可能性に触れられるチャンスです。ぜひ医療施設が丸ごと美術館になった空間を訪れ、〈袋田病院〉からの提案を受け取ってみませんか。