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私たちは「老い」とどう向き合えばいい?介護現場×絵本制作のプロが生んだ『はなのちるちる』
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「老い」について考える絵本『はなのちるちる』
誰しもにやってくる「老い」。それは自らにとどまらず、見守る家族や友人にとっても避けることはできないものです。高齢化率28.8%(内閣府『令和3年版高齢社会白書』)という超高齢社会の日本で生きる私たちは、「老い」にどのように向き合えば良いのでしょうか。
「老いていくなかで、自分らしく生きること」について、子どもから大人まで考える機会をつくりたいと、絵本づくりのプロジェクトを立ち上げたのは〈一般社団法人京都市老人福祉施設協議会〉。アートと福祉をつなぐ相談窓口の〈Social Work / Art Conference(以下、SW/AC)〉の協力のもと、2022年3月に『はなのちるちる』を発刊しました。
介護現場と各専門家のコラボで生まれた、温かな眼差しで主人公の思いを描く一冊
“きょうというひを/だいじに おもうのは/としをとったから かしら?”
そんな一節からはじまる絵本『はなのちるちる』。主人公のはなのさんが、猫のちるちるに自身の過去を語りかけながら、物語は進んでいきます。

発行したのは〈京都市老人福祉施設協議会〉。京都市内の全高齢者福祉施設が加盟する協議会で、高齢者とその家族の尊厳ある生き方を実現するため活動しています。
「日々関わっている高齢者や介護にまつわる絵本を制作したい」と考えた〈京都市老人福祉施設協議会〉の相談した先が、〈一般社団法人HAPS〉が運営する相談窓口〈SW/AC〉でした。
〈京都市老人福祉施設協議会〉は2020年にプロジェクトチームを発足。誰に、何を、どのように届けるのかから、一つひとつ話し合い、制作を進めていきました。
また〈SW/AC〉は、世の中に広くメッセージを届けるため、協力者として絵本編集者の筒井大介さん(野分編集室)を招き、作家のコーディネートや制作のディレクションを依頼。さらに筒井さんの紹介から、『へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅⽼所よりあい」の⼈々』(2015年12⽉ナナロク社/2019年3⽉ちくま⽂庫)を執筆された鹿子裕文さんに、原文をお願いしました。画は、京都で漫画家として活動する森田るりさんが担当しています。

「老い」や「死」とともにある「生」について考える
『はなのちるちる』で物語の核になっているのは、帯にも記された“わたしはね/わたしのように いきたいの”(P20〜21)という言葉。これは鹿子さんの義理のお母さまが、病院や施設での介護で傷ついた経験を経て語った言葉として、作家からプロジェクトチームにまず共有された一文でした。
義理のお母さまの言葉を核にして、子ども、そして介護の現場にいる人たちの日々の仕事にもつながる物語を鹿子さんは何度も書き直し、2022年3月、物語は完成しました。

こうした深い問いかけを持つ絵本の内容に対して、プロジェクトメンバーからは「子どもたちに読み聞かせをして、果たして届くだろうか」という疑問も出たそうです。
しかし、絵本編集者の筒井さんが、「子どもたちは全体のうちの一部であっても、そこから楽しむことができる鋭さを持っている」と提言。それが心の中に残って何かの経験と交差するときに、励まされたり、深く考えたりきっかけになるはずとアドバイスしたことで、絵本『はなのちるちる』も何十年先にまで意味を持つ作品を目指すことになりました。
「現在の子どもたちは、本だけでなく多様な刺激や文化に触れています。だからこそ、本プロジェクトを通して、子どもがどのように生き、成長していくのかを改めて考える機会になりました。また、絵本というメディアがさまざまな場所で広がり、長い年月をかけて読まれていくものであることを知ることができました」(〈SW/AC〉アシスタントコーディネーターの小泉朝未さん)

超高齢化社会の日本において、身近な誰かや自分自身の「老い」を避けることはできません。絵本『はなのちるちる』を通して、一人で、家族で、友達と、「老いていくなかで、自分らしく生きること」について考えてみてはどうでしょうか。
information
絵本『はなのちるちる』
作:鹿子裕文
絵:森田るり
編集:筒井大介
装丁:椎名麻美
協力:Social Work / Art Conference(一般社団法人HAPS)
発行者:山岸孝啓
発行所:一般社団法人京都市老人福祉施設協議会
印刷・製本:丸山印刷株式会社
初版第1刷:2022年3月31日
定価:1,800円+税
Webサイト:はなのちるちる特設サイト、一般社団法人京都市老人福祉施設協議会
ご購入はこちら:京都市老人福祉施設協議会 販売ページ
問い合わせ:一般社団法人京都市老人福祉施設協議会 事務局(担当:堀池、内田)
TEL:075-354-8743
FAX:075-343-6270
E-mail:jimukyoku@kyoto-shiroukyo.jp
<制作者プロフィール>
・⿅⼦裕⽂ (かのこ ひろふみ)
1965年福岡県⽣まれ。編集者。早稲⽥⼤学社会学部卒業。ロック雑誌『オンステージ』、『宝島』で編集者として勤務した後、帰郷。タウン情報誌の編集部を経て、1998年からフリーの編集者として活動中。著書に『へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅⽼所よりあい」の⼈々』(2015年12⽉ナナロク社/2019年3⽉ちくま⽂庫)、『ブードゥーラウンジ』(ナナロク社)、『はみだしルンルン』(東京新聞)、共著に『ほんのきもち』(扶桑社)がある。
・森⽥るり(もりた るり)
漫画家。2013年に講談社『アフタヌーン』でデビュー。2017年に森⽥るい名義で『我らコンタクティ』(講談社)を上梓。同作品はマンガ⼤賞2018において2位に⼊賞した。2021年、コミックDAYSにて『⾃転する彼(⼥)』連載開始。
・筒井⼤介(つついだいすけ)
1978年⼤阪府⽣まれ。絵本編集者。野分編集室主宰。『ブラッキンダー』(スズキコージ)、『オオカミがとぶひ』(ミロコマチコ)がそれぞれ第14回、 第18回⽇本絵本賞⼤賞を受賞。『オレときいろ』(ミロコマチコ)が2015年度のブラティスラヴァ世界絵本原画展において第2位にあたる「⾦のりんご賞」を受賞。⽔曜えほん塾、nowaki絵本ワークショップを主宰し、作家の発掘、育成にも⼒を注いでいる。
Profile
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HAPS(東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス)
一般社団法人
若手アーティストが京都市内に居住し、活動し続けることができる環境を整え、彼らの新しい創作の活力をまちの活力につなげていくことを目指して、2011年9月にHAPS実行委員会を設立、2019年4月に事務局を法人化。居住・制作・発表支援、仕事コーディネートなど、アーティストへの包括的な支援活動をおこなう。また、2017年からはこうした取り組みを広げ、文化芸術の力を活用して、多様な背景を持つ人々が共に生きることのできる社会のあり方を探り、その仕組みづくりを目指す事業(「文化芸術による共生社会実現に向けた基盤づくり事業」)を実施している。2022年度は「障害者等による文化芸術活動推進事業」を文化庁より受託し、「公立美術館における障害者等による文化芸術活動を促進させるためのコア人材のコミュニティ形成を軸とした基盤づくり事業」に取り組む。