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ろう者と聴者でつくるプロジェクト「視覚言語がつくる演劇のことば」が、短編作品『夢の男』とアフタートークをオンライン公開
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『夢の男』のワンシーン
短編作品『夢の男』のシーンより。夢の中の抽象的な世界や感覚が描かれている。撮影:加藤甫

ろう者と聴者がつくる演劇プロジェクト

視覚言語に軸を置いた演劇体験をろう者と聴者が共につくるプロジェクト「視覚言語がつくる演劇のことば」。新作の短編作品『夢の男』とアフタートークが、2022年3月31日より〈神奈川芸術劇場(KAAT)〉のYouTubeチャンネルにて配信されています。

「視覚言語がつくる演劇のことば」が目指すのは、ろう者と聴者が共に実験的で質の高い演劇をつくること。演劇に手話や字幕などのアクセシビリティを後からつけるのではなく、あらかじめクリエイティブな要素の一部として組み込んでいるのが特徴です。

企画は、「障害は世界を捉え直す視点」をテーマにさまざまなプロジェクトを手がける田中みゆきさん。〈KAAT〉で2017年度より実施されている、視覚に障害のある人とダンスの見方を探るプロジェクト「音で観るダンス」に続き、視覚言語にフォーカスした演劇体験をろう者と聴者がつくる新たなプロジェクトとして2020年に田中さんが立ち上げたのが「視覚言語がつくる演劇のことば」です。

短編作品『夢の男』

“夢の中で会った、自分と顔が似た男。「身体をなくした」というその男に身体を探すことを頼まれた私は、ビルの屋上に辿り着く。指をさした先に目撃した気配の塊は、やがて私の身体を飲み込んでいくー”(『夢の男』あらすじ)

たいとる

新作短編作品『夢の男』は、昨年制作した短編作品『夢の男』(作:藤原佳奈)のテキストをもとに、再構成する形で作られました。

昨年の『夢の男』は全4幕に分かれ、1幕「音声言語と手話」、2幕「ろう者の俳優 江副悟史による視覚言語」、3幕「聴者の俳優 大石将弘による視覚言語」、4幕「二人の協働による視覚言語」で構成された、36分21秒の映像でした。

一方、今年の『夢の男』は、1幕のみで10分51秒の映像に仕上がっています。作品の中では演者が一部聴者へのガイドとして音声日本語も使用していますが、日本語とも日本手話とも異なる、ろう者と聴者が互いに共有できる視覚言語や身体表現を探りながら、制作されました。

身体性や専門分野の異なるチームが制作

また、昨年の『夢の男』は、ろう者が演者としてのみ携わっていましたが、今年は企画段階から関わり、共通の視覚言語や表現を探りながら作られました。

映像はろう者の映画監督として活躍する今井ミカさんが撮影。また演者として、ろう者の俳優・今井彰人さん、聴者の俳優・大石将弘さん、舞台美術家には聴者の中村知美さんと、身体性や専門分野の異なる4名がチームをつくりました。

ろう者と聴者は身体や言語の違いだけでなく、それらの違いから育まれる、異なる文化を持っています。ろう者と聴者の境界はどこにあり、互いの身体や文化を尊重しながらどのように乗り越えたら良いのか。昨年から始まった探求を、今年はさらに深めています。

『夢の男』の制作風景
『夢の男』の制作風景

「今年は言語の違いを超えて、ろう者も聴者も体感を共有できるような、視覚言語と身体表現によるナラティブのあり方を見つけるべく、試行錯誤してきました。見る人それぞれが言語を受け取り、物語を想像する余白を大きく残した作品となっています」(企画・田中みゆきさん)

アフタートークで発見や気づきを共有

制作過程での発見や気づきを共有するアフタートークも合わせてオンラインにて公開中。映像を担当した今井ミカさんや演者の今井彰人さん、大石将弘さんなどが出演し、音声言語と手話で話しています。

また、1時間20分のアフタートークを記録したグラフィックレコーディングも公開中。動画によるアフタートークとグラフィックレコーディングで見える情報は同じではなく、それぞれの視覚言語の持つ特徴を感じ取ることができます。作品とトーク、そしてグラフィックレコーディングを合わせて見ることで、ろう者と聴者に見えている世界の違いや視覚言語の多様さをより深く考えるきっかけになりそうです。

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グラフィックレコーディング(制作者:デザインリサーチャー・清水淳子さん)

「ろう者と聴者が各々の専門性をもとに役割を分担し、日本手話と日本語という異なる二つの言語と文化が交じり合った会話の中で、視覚言語×身体表現を丁寧に時間をかけてつくり上げました。とりわけ、ろう者と聴者の文化の間の情景の想像をどう掻き立てるかに力を入れ、男二人の目の動きといった点などにもこだわりながら、これまでにない世界観をつくることに挑戦しました。夢の世界と現実との境界にあるモノを、観る人それぞれの多様な視点で体感いただきたいと思います」(映像・今井ミカさん)

二人の演者によって展開されていく『夢の男』は物語を想像する余白たっぷりの作品です。演者の視線や手の動きに注目しながら、ろう者と聴者の境界線を問う新しい視覚言語による演劇作品を体感してみませんか。