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ニュース、戦争、日常。「出来事との距離」を考える企画展、7月17日まで〈町田市立国際版画美術館〉にて開催中
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【画像】企画展のチラシ

ニュース、戦争、日常。遠い?近い?

ニュースで報じられる出来事を、ある時は遠く、ある時はとても近く感じることはないでしょうか。どう受け止めたらよいか分からなくなったり、距離の取り方に戸惑ったりすることもあるかもしれません。

過去や現代のアーティストたちが描いた作品を通して、ニュースや戦争、そして日々の出来事がどのように捉えられてきたかを探る企画展「出来事との距離 -描かれたニュース・戦争・日常」が、〈町田市立国際版画美術館〉(東京都町田市)で開かれています。会期は2023年6月3日(土)から7月17日(祝・月)まで。

本展では時代を横断した作品を通じて、個人や社会が世の中で起きている「出来事との距離」にどう向き合ってきたかについて考えていきます。

時代背景、視点、時間の経過。さまざまな要素で変わる表現

【絵画】9人の男女や子どもたちがうなだれ、抱き合っている
フランシスコ・ゴヤ『戦争の惨禍』より「見るにたえない」1810-20年、エッチング、ラヴィ、ドライポイント、ビュラン、町田市立国際版画美術館蔵

本展は「ゴヤが描いた戦争」、「戦地との距離」、「浮世絵と『報道』」、「ニュースに向き合うアイロニー」、「若手アーティストの作品から」の5章構成。19世紀から現代まで、当美術館の収蔵作品を中心に、約150点の作品が展示されています。たどっていくと、戦争や出来事への向き合い方は、国や時代背景、そしてアーティスト個人の視点によって大きく違うのだと分かります。

たとえば、同時代の事件を描けなかった江戸期の浮世絵は、故事や古典になぞらえて時事を伝えようとしました。

【絵画】腕や手から血を流し、険しい表情をしている男性の浮世絵
月岡芳年『魁題百撰相』より「森蘭丸」明治元年(1868)、大判錦絵、町田市立国際版画美術館蔵

通算5年の過酷な従軍生活を送った浜田知明(はまだ・ちめい)さんは、自身の経験を落とし込んだ版画を制作。心の傷、自身の加害性、社会や人間の風刺…時が経つにつれ、作品は戦争の構造そのものに迫っていきました。時間の経過が、当事者としての表現に大きな変化をもたらしている様子が浮かび上がってきます。

ニュースの現場に足を運ぶ版画家・松元悠さんを特集

現代の若手アーティストの作品も紹介する本展。中でも特集されているのが、1993年生まれの版画家・美術家の松元悠(まつもと・はるか)さんの作品です。

松元さんは、メディアやSNSが伝えるニュースの現場に自ら足を運び、作品の制作にあたっています。

【絵画】ピンク色のパーカーを着た女性がしゃがみ込み、こちらを見ている。後ろには工具を持った男性らしき姿が見える
松元悠《蛇口泥棒(長浜市、東近江市、砺波市)》2022年、リトグラフ、個人蔵

疲れた表情でしゃがみ込み、こちらを見つめる女性。後ろには、道具を持った男性らしき姿が。タイトル「蛇口泥棒」からは、一時話題になった蛇口の連続窃盗事件が思い出されます。

【絵画】向き合い、耳をつかみ合う女性たち
松元悠《悪い神様の耳を食べる(佐野市)》2020年、リトグラフ、個人蔵

こちらは、取っ組み合い、互いの耳を引っ張ろうとする女性たち。背景には、学校のような建物が見えます。

実は、これらの作品に登場する「当事者」たちは、すべて松元さんの自画像です。ニュースと自身の「距離」を徹底的に掘り下げ、想像力を働かせて描かれた作品たちは、日常と地続きにある「事件と人間の不可解さ」に迫っています。

町田市立国際版画美術館について

本展を主催する〈町田市立国際版画美術館〉は、国内外の版画作品と、それに付随する美術資料を収集保存・展示する、版画作品に特化した美術館です。

収蔵作品の常設展示や企画展示を行うほか、版画を「見る」だけではなく「作る」楽しみを経験するための、本格的な設備が整った版画工房とアトリエが備えられています。版画の各種制作技法を学ぶ実技講座や作家を招いての公開制作なども実施。さまざまな角度から「版画」に触れ、楽しむことができます。

【写真】茶色い建物と木
〈町田市立国際版画美術館〉外観

6月17日にアーティスト・トーク開催!

会期中は、松元悠さんによるアーティスト・トークが、6月17日(土)の14時から開かれます。会場は、町田市立国際版画美術館の講堂。制作の背景や思いがご本人から語られます。参加ご希望の方は、本展の当日観覧券を持参して会場までお越しください。

翌6月18日(日)14時、そして7月1日(土)の14時からは、本展を担当した学芸員・町村悠香さんによるギャラリートークを企画展示室にて開催予定。こちらも当日観覧券が必要です。

テレビ、インターネット、新聞……私たちは日々、めまぐるしいほどの情報量に触れています。あまりのスピード感に疲れてしまったり、情報を受け流したりすることもしばしば。でも、いまだに世界で争いが絶えない今こそ、一度立ち止まってみても良いかもしれません。本展を通じて、画面の向こう側で起きていることと自身の「距離」について、じっくり考えてみませんか。