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〈認定NPO法人Homedoor〉によるホームレス状態の人たちが撮影した写真集がライツ社より発売。撮影者のインタビューと併せて一人ひとりの視点を知れる一冊
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ホームレス状態の人たちが自分たちの街をフィルムカメラで撮影した写真集

ホームレス状態にある人や過去にホームレスの経験を持つ人たちが「写ルンです」を使って撮影した日常写真をまとめた写真集『アイム Snapshots taken by homeless people.』が2022年4月28日に〈ライツ社〉より発刊されました。

本書は、2010年からホームレス支援を行う〈認定NPO法人Homedoor〉の事務局長・松本浩美さんが発起人となり、2021年3月からさまざまなホームレス状態の方にフィルムカメラで日常を撮影してもらった写真を収めています。

撮影するのは、路上で生活して30年になる中田さん、正社員をしながら浜田省吾さんや尾崎豊さんのアルバムをイメージして撮影する江川さん、教会に通う元引きこもりのMさんなど、13名。撮影者ごとにパートに分かれて、それぞれの撮影した写真が掲載されています。

巻末には撮影者一人ひとりへのインタビューも収録され、写真の背景にある思いや価値観、撮影に至った経緯などを知れるほか、発起人の松本浩美さんのあとがきや、フォトジャーナリストで『あなたのルーツを教えて下さい』の著者である安田菜津紀さんの解説も収録されています。

肉親の手術代を借金したことなどがきっかけで野宿生活を経験し、今は家を借りて生活している前田さんによる大阪市立美術館(大阪府天王寺)の写真。自分の子どもの作品が展示された時に家族で訪れた場所であったため「カメラを渡された時にすぐあそこに行こうと思った」とのこと。©︎認定NPO法人Homedoor

「ホームレス」というひとつの人格は無い

写真集のタイトル『アイム』は、“わたしは~である”を意味する英語“I am”をカタカナで表したものです。「ホームレス」というひとつの人格があるのではなく、ホームレス状態にある一人ひとりが独立した人格をもった存在であるという想いが込められています。

撮影者ごとにそれぞれの価値観に沿って切り取られた写真は、意志をもって生きる一人ひとりが現状と向き合いながら「今ここにいる」ことを感じさせます。

“スズメがね、6月、梅雨時期はパンをやるんですよ。ちょうど子スズメが生まれる時期なんで。やる前はね、何羽か死によったんです、梅雨の時期に。それで夕方やるようになって。夕方になると集まってきよるんです。”(p. 216 A Voice of Yoshidaより)©︎認定NPO法人Homedoor
「彼らは街をよく知っている。ヘリコプターで見下ろしたような風景が見える場所、スズメの子どもたちが生まれる季節、ひっそりとキツネが暮らしている茂み、猫が顔を出す小窓。私が普段は黙って通りすぎてしまうであろう瞬間を、カメラでそっと、拾い上げてくれていた」(p.222安田菜津紀さんによる巻末解説より)
“おうちがないせいかつをずっとしていたものですから、きっとおうちに憧れているんです”(p.198 A Voice of M (Anonymous)より)©︎認定NPO法人Homedoor

写真を現像したタイミングで行われたインタビューを通して、ホームレス状態にある人たちの普段と違う表情を見たり、過去についてのコアな話が聞けただけでなく、今回の企画をきっかけに来所や相談に至ったケースもあるとのこと。さらに、「何を撮ろうか」と考えることにより、“写真撮影をきっかけにもう一度思い出に浸れる時間が提供できたのではないか”とも松本さんは語ります。

本書の制作や写真撮影のプロジェクトが〈Homedoor〉とホームレス状態にある人との関係をさらに深めている一方、夜回りの活動中に通行人の視線や言葉が突き刺さり、居心地の悪さを感じることもあるとのこと。そして、その居心地の悪さの背景には現代の日本社会にある「失敗」への不寛容さがあり、「ホームレスになるのは自分の責任だ」と捉えられ、敬遠されてしまうこともあるのではないかと、松本さんは指摘します。

安田菜津紀さんが解説で“「ホームレス」という大きな主語でくくられがちだが、その一人ひとりの息遣いが聞こえてくるようだ”と感想を寄せているように、本書はホームレス状態にある人たち一人ひとりの視点や声に触れることのできる一冊です。

ホームレス状態を生み出さない日本の社会を目指す〈Homedoor〉

〈Homedoor〉は「ホームレス状態を生み出さない日本の社会構造をつくる」ことを目指し、2010年に大阪で設立されました。ホームレス状態から脱出したいと思ったら誰もが脱出できるための「出口づくり」と、ホームレスになりたくない人がならずに済むためのホームレス状態への「入口封じ」、そして、偏見の多いホームレス問題の「啓発活動」の3本柱で運営を行っています。具体的には、個室型シェルターの運営、シェアサイクル事業での就労支援等などを行い、年間約1000名の新規相談に対応している認定NPO法人です。

〈認定NPO法人Homedoor〉公式サイトより

松本さんは12歳より貧困問題やホームレス状態のある人に興味を持ち始め、大学生時代に〈Homedoor〉の活動に参加し、2012年に事務局長に就任しました。

本書の前身となるホームレス状態の方による写真を使ったポスター制作のプロジェクトやホームレス状態の人たちが自由に撮影した写真をウェブ上で販売する〈Snapshot taken by Homeless〉にも携わり、プロジェクトの一貫した核は「ホームレス問題について、まず、知ってもらいたい」のだと言います。

ホームレス状態になることを選択せざるを得ない理由は人の数だけあり、複数の要因が複雑に絡み合うことで住居を失うに至っているのだそう。その要因の一つひとつは突然の病や失業、介護離職による困窮、人間関係の悪化など、誰にでも起こりうる出来事の積み重ねでもあります。

松本さんは「特定の人だけではなくどんな人でもやり直したいと思ったときに再起を図れる社会のほうが、誰にとっても生きやすいのではないか」と考え、本書が新たな視点を持つ人を増やし、ホームレス問題に対する考え方に広がりを生むことを願っています。

本書の売上は〈Homedoor〉から、ホームレス状態の人たちへの支援にも役立てられます。ホームレス問題に触れるきっかけとして、まずは手に取ってみるのはいかがでしょうか。そこには「ホームレス」と一括りにはできない、個として生きている人々の存在が残されています。