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東日本大震災の黒い海から生まれたカラフルな世界。本田正さんの初個展が5月12日~21日、東京都渋谷区にて開催
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「Viva! Agri-Culture! えだまめとラディッシュ」と書かれた題字
本田正さん本人による展覧会題字

「Culture=耕す、文化」をテーマにした本田正さんの初個展が開催

福島県須賀川市に生まれ、現在も同市にて「農業」「アート」「サーフィン」の3つをライフワークとする作家・本田正さんの初となる個展「Viva! Agri-Culture! えだまめとラディッシュ」が、東京都渋谷区の〈(PLACE) by method〉にて、2023年5⽉12⽇(⾦)〜5⽉21⽇(⽇)の期間で開催されます。

約4メートルにもなる新作屏風を公開!

本田さんは、洋酒輸入販売会社〈MHD モエ ヘネシー ディアジオ〉が行うアーティスト奨学金プログラム「MHD Artists Scholarship Program」のスカラシップを受賞した作家。

これまでにもさまざまな公募展に作品が出展され、2017年の「ポコラート全国公募vol.7」では藤浩志賞、2018年の「第2回福島県障がい者芸術作品展 きになる⇆ひょうげん2019」では県知事賞を受賞しています。

本展では、芸術人類学を専門とするキュレーター・嘉納礼奈さんを迎え、本田さんのライフワークのひとつである「農業(カルチャー=耕す)」が「文化(カルチャー)」の語源であることをテーマに、作家が日々のなかで感じる四季や、1日の時間の移ろいをテーマにした作品を展示していきます。

そして、今回の展示のために制作された、「えだまめ」と「ラディッシュ」を色鮮やかに描いた約4メートルの四曲一双の屏風を初公開。

この作品は、本田さんが全国4か所(宮城、東京、奈良、福岡)の人々にえだまめとラディッシュの種を送り、育成記録の写真や動画などからインスピレーションを得て制作したもの。会場では、各地でレポートしてもらった記録写真や映像も公開される予定です。

ラディッシュなどがカラフルに描かれた屏風の写真
展示作品、本田正《えだまめとラディッシュ(春夏)》の一部、〈ラディッシュうさぎ〉

東日本大震災をきっかけに、見つかったもの

17才でサーフィン、26才で絵画に目覚めた本田さん。彼の作品は、野菜や果物の一か所を切り抜いたような図形と、モコモコとした波のような形状とを、カラフルなアクリル絵の具で大胆に描くのが特徴です。また、同じモチーフの連作や、紙のコースターを積み重ねた独自の造形表現なども展開しています。

このような作風が表れ始めたのは、2011年3月の東日本大震災から半年ほど経った頃。

本田さんは大震災時の大津波を目にし、そのショックでうつ病を発症。そして、病院を受診した際に、発達障害であることも判明しました。

サーファーとして心地いい波に戯れた海と、あの日の海。さまざまな海の側面を知った本田さんは半年後、新しい表現スタイルで「波とニンニク」という作品を描きます。それは、ブルー、オレンジ、イエローの鮮やかな色調で彩られたアクリル画でした。

その後も極彩色を用い、野菜、果物、土、太陽、月の光、水、波などを描き続ける本田さんは、作品への思いをこのように述べています。

「最初は無意識のレベルだったが、一度壊れた後のあの暗い海を再生させるべく、明るい絵を描いている気配がある」

(本田正さん)

あの日をきっかけに病気や障害が見つかり、新しい職場で農業に従事し、新たな境地のアート制作にも取り組んできた本田さん。この言葉には、作品に対する思いだけでなく、自分自身の姿も重ねているのかもしれません。

ラディッシュを収穫する本田さん
福島でラディッシュを収穫する作家、本田正さん

対話を重ね、作家の主体性を大切にした展覧会

本展のキュレーターである嘉納礼奈さんはかつて、東京都千代田区に所在していた〈アーツ千代田 3331〉(※2023年3月15日閉館)のポコラート事業に携わっていました。2021年に開催された展覧会「ポコラート世界展『偶然と、必然と、』」ではメインキュレーターを務めています。

ふたりの交流は、2016年の「ポコラート全国公募」へ本田さんが応募したことからスタート。以降、7年にわたって親睦を深めてきたといいます。

そんなふたりが関わる本展では、企画側が一方的に展示のコンセプトなどを決めるのではなく、「作家の主体性を大切にした、新しいかたちの障害のある人の展覧会」として、本田さんと嘉納さんのコミュニケーションに大きな時間を費やし、企画や展示内容を決定してきました。

嘉納さんが本展のキュレーターとして大切にしたもの、それは「作家が作品を見せるうえでの“こだわり”を外してはならない」ということ。

「キュレーション側の都合にならないように、作家が置いてきぼりにならないように注意をしました。どのような展示にしたいか、個展を通してどのようなことを伝えたいかとコンセプトを考え、テーマ、タイトルを考えるところから、新作を発表すると言うこと、新作の主題、大きさ、形状、素材、展示方法、会場構成などを作家と議論しながら進めました。作家が気を使わずに『ノー』と言える関係を築くことが大切かもしれません」

(嘉納礼奈さん)

8か月間もの対話を重ね、最終的には本田さんの“こだわり”のツボが大方わかるようになったという嘉納さん。作家の“こだわり”がたっぷり詰まった展示に仕上がりました。

本田さん自身も、今回の個展の準備について、このように述べています。

「通常は、展覧会の企画に乗っかり、既存の作品を展示に貸し出します。意見はなんとなく言いづらかったです。今回は、こだわったことが言えて企画に反映されてとてもよかったです。また、展覧会のために新作を作って発表すると言うことは初めてでした。目的なく作るのもいいですが、目的があって作るのもいいなと思いました」

(本田正さん)

「一度壊れた」と語られた海から生まれた本田さんのカラフルな作品や物語を、ぜひ会場でご覧ください。