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「できなかったことができる」って何だろう? 伊藤亜紗さん新著『体はゆく──できるを科学する〈テクノロジー×身体〉』が発刊
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2022年11月28日、〈文藝春秋〉より発刊になりました

「できるを科学する」、 伊藤亜紗さんの新著が発刊

「できなかったことができる」って何だろう?

そんな問いを紐解いていく新刊が、〈文藝春秋〉より発刊になりました。タイトルは、『体はゆく──できるを科学する〈テクノロジー×身体〉』。著者は、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授の伊藤亜紗さんです。

伊藤さんは、これまでに『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)や『手の倫理』(講談社選書メチエ)などの書籍を執筆。2020年には、『記憶する体』(春秋社)で池田晶子記念「わたくし、つまりNobody賞」、またそれらの業績が認められ、第42回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)を受賞した、身体感覚の研究の第一人者です。

▼以前、「こここスタディ」で伊藤さんご紹介しました
さまざまな側面をもつ「わたし」と「あなた」をそのまま大切にするには? 美学者 伊藤亜紗さんを訪ねて

5人の科学者・エンジニアの先端研究を手がかりに体の可能性を追う

長年研究を積み重ねてきた伊藤さんが、今回テーマにしたのは「テクノロジー×身体」です。一体どのような内容なのでしょうか。

書籍『体はゆく──できるを科学する〈テクノロジー×身体〉』は、プロローグと全5章の本文、そしてエピローグで構成されています。本文では、誰もが身近に感じられるものから有名プロ野球選手の投球フォームまで、とっつきやすい事例で先端研究を紹介しています。

「『できる』は誰かとの比較の問題になってしまいがち。でもそのとき体に何が起こってるかをちゃんと見ていくと、そこにはアメージングな体の冒険が満ち溢れています。(中略)理工系研究者との対話を通じて、『できる』の不思議にせまる文理共創の本です」(伊藤さん / 未来の人類研究センターWebサイトに掲載されたコメントより)

伊藤先生
撮影・橋本篤(文藝春秋)

伊藤さんの対話相手として登場するのは、古屋晋一さん(ソニーコンピュータサイエンス研究所)、柏野牧夫さん(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)、小池英樹さん(東京工業大学)、牛場潤一さん(慶應義塾大学)、暦本純一さん(東京大学大学院)ら、5人の科学者・エンジニアです。

例えば、第1章「『こうすればうまくいく』の外に連れ出すテクノロジー−ピアニストのための外骨格」では、ピアニストであり、ソニーコンピュータサイエンス研究所のリサーチャーである古屋晋一さんの研究を取り上げています。

古屋さんは、体の動きに注目してピアニストの演奏技術を助ける方法を研究する科学者。ピアニストでもある古屋さんにとっての「人生最高の演奏経験」が、遅刻しかけて全力疾走したあとの演奏だったことから、研究を始めたそうです。

本書の中では、イラストを用いながらやさしく、ピアニストの意識の外で演奏ができてしまう領域にテクノロジーを用いて実現する研究成果と可能性を紹介しています。

目次
第1章の目次

第2章「あとは体が解いてくれる-桑田のピッチングフォーム解析」では、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の室長である柏野牧夫さんと対話を重ねます。

日本人の多くが一度は名前を聞いたことがあるであろう名投手、元プロ野球選手の桑田真澄さん。ブレのないフォームで打者を打ち取っていたのかと思いきや、彼のピッチングを映像に撮ると、毎度フォームが異なり、リリースポイントが14センチもズレることもあることがわかったそうです。

本人は同じように投げているつもりでも、なぜ動きのゆらぎが起きるのか。そして、なぜゆらぎがあっても、狙ったところに正確に球が到達しているのか。そうしたことに疑問を持った柏野さんは、「土地勘」があれば迷っても修正可能で、スポーツのプレーで、環境や体調が変動しても柔軟にリカバリーできることを発見します。

身体は、人間が思うほどコントロールできないもののようです。

奔放な体の可能性を追う

「体は、私たちが思うよりずっと奔放です。『え、そんなことしちゃうの!?』と驚くようなことがいっぱい起こる。体は『リアルそのもの』と言えるほど、確固たるものではありません。体はたいてい、私たちが意識的に理解しているよりも、ずっと先に行っています」(伊藤さん/プロローグより)

しかし、「そのユルさこそが体への介入可能性を作り出している」と語る伊藤さん。ぜひ本書を手にとっていただき、5つの研究テーマから「できなかったことができる」とは何かを考えてみませんか。