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全寮制高校の対話と音楽を描くドキュメンタリー『聴く隣人のいるところ』ポレポレ東中野ほかで6月6日から公開
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「みなさん、自由であってください。そうして真実であってください」
夏休みの校舎、人のいない教室には、学校の創立者である高橋三郎さんの言葉が掲げられています。島根県江津市、浅利富士の中腹に佇む男女共学の全寮制普通科高校〈キリスト教愛真高校〉では、生徒たちは親元を離れ、食事づくりや生活の当番を担いながら、仲間や教職員と寝食をともにします。
テレビやスマートフォン、インターネットのない環境のなかで行われるのは、対話や音楽、そして日々の生活にまつわる言葉のやりとりです。生活のルールとなる「決まり・心得」もまた、生徒と教職員が顔を合わせて話し合いを重ねながら更新されてきました。
答えがないことを考え続ける、孤独を受け入れる、自分の言葉で他者と向き合う。「自由」であることには、責任が伴います。この学校では、他者と生活をともにして誰かの声に耳を傾け続けることが求められます。誰かの話を聞くこと、自分の言葉を発すること。その往復のなかで何が起きているのか。
映画『聴く隣人のいるところ』は、国内外から集まった生徒と教職員がともに暮らすこの学校の1年間を記録したドキュメンタリーです。2026年6月6日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国で順次公開が予定されています。
生徒と教師がともに暮らすキリスト教愛真高校の1年間の記録
この作品の監督で、キリスト教愛真高校の卒業生でもある早川嗣さんは、この学校の特徴を3つ挙げています。
1つ目は、「生活を作り上げる責任」。生徒たちは、食事当番や洗濯、身の回りのことをこなしながら勉学に励みます。協調の目的が「生活そのもの」にあるので、正しさを主張するだけでなく、相手の考えに耳を傾ける姿勢が求められます。2つ目は、「メディアが介在しない関係性」。テレビやスマートフォン、インターネットが制限された環境では、自分の言葉で考え、伝えることが日常になります。3つ目が「独白を聴く時間」。夕方に行われる「夕会」では、一人ひとりが語る時間が設けられ、普段の生活だけでは気づけない隣人の「本音」を聴く機会が生まれます。
朝の食事づくりや礼拝、授業、寮での生活といった日常のなかで、生徒たちは多くの場面で言葉を交わします。特にユニークなのは、「全体会」と呼ばれる話し合いの場です。ここでは生活に関わるさまざまなテーマが議題となり、生徒と教職員が顔を合わせて意見を出し合います。たとえば、寮で使用する器具の導入や生活のルールについて。意見が一致しない場面もあり、それぞれの立場から言葉が投げかけられていく様子が映し出されています。
また、クラス単位での話し合いや文化祭の準備、寮でのやりとりなど、より小さな単位での関係性も描かれます。文化祭に向けたクラス劇の議論では、「何を伝えたいのか」という問いをめぐって意見がぶつかり、議論の進め方そのものが問われる場面もあります。
そうしたやりとりは、必ずしも結論に収束するわけではなく、途中で立ち止まったり、別の方向に進んだりすることもあります。さらに「夕会」は、詩を読む人、歌を歌う人、個人的な思いを話す人などその内容はさまざまですが、こうした時間もまた、日常のなかで共有される一つの場として存在しています。ドキュメンタリーは、これらの出来事を通して、生徒同士や教職員との関係がどのように変化しながら続いていくのかを記録しています。
「多様な選択肢があっていい」監督の作品にかける思いとは。
「美化する必要は全くなくて、日常のこの教育があったんだという事実を残したかった」と、早川監督はこの作品について語ります。自身が過ごした場所に再びカメラを向けることは、かつて自分が過ごした時間と、いま目の前にある現実をあらためて見つめ直す機会でもあったのかもしれません。
早川監督は、写真家でドキュメンタリー作家の故・本橋成一さんのもとで制作に携わりながら、自身の企画を温めてきました。そのなかで、本橋さんの後押しを受けて母校での撮影をスタートし、約1年にわたって「キリスト教愛真高校」の記録を行ってきました。こうして完成した本作は、早川監督にとって初の長編作品であると同時に、本橋さんが最後に関わった作品でもあります。
私はこの映画で、母校の教育やキリスト教こそが正しいと言いたいわけではありません。学内への持ち込みが禁止されているスマートフォンやインターネットが、悪だとも思っていません。ただ、多様な学校が存在することは豊かなことであり、その選択肢の一つとして「こんな学校があっても良い」というのが正直な気持ちです。卒業から 20 年を経て、私は母校の教育の特異性を、一歩離れた場所から見つめ直すことができました。本校の教育の肝は、徹底した「集団性」にあります。「自分とは異なる他者と共に暮らしていくにはどうすれば良いか」。生徒たちは生活の中で、この現実的な問いに直面していくことになります。
「キリスト教愛真高校」では過去に、全体会が教員への糾弾に終始したり、対話の場が学校側への不満を吐露する時間になってしまったりと、生徒たちに調和のない年もあったのだといいます。早川監督は、この作品を通じて特定の価値観や教育のあり方を提示する意図はないと言い、
卒業から 20 年が経った今振り返っても、人間関係の摩擦や孤独に立ち向かわなければならない母校での生活は、厳しい場所であると感じます。誰もがそのままで受け入れられる場所ではなく、責任を果たしながらメンバーになろうとする意志が必要な場所です。卒業時に「何を学んだのかわからない」と強みを見出せずに去る学生もいます。私もその一人でした。しかし、私に子どもができ、教育への視点が息子に向いた今、他者との交わりによって相互作用が起こる母校のような存在に、期待している自分がいます。
と語ります。さらに、何かいざこざがあっても顔を合わせ続け、ともに歌い、お互いを確認するような人間関係に今もなお惹かれていると言います。
調和も不協和音も、ありのままを見せる
劇中では、生徒たちが歌い、演奏する場面が繰り返し映し出されます。合唱やラップ、ひとりで歌う声など、さまざまな音楽が、この場所の日常に溶け込んでいます。声を重ねる時間もあれば、それぞれのリズムがずれる瞬間もあり、それらの揺れはそのまま映し出されています。
人間関係もまた、調和するばかりではありません。意見がぶつかり合う場面や、うまく言葉にできない時間、すれ違いが生まれても、関係は途切れることなく続いていきます。本作は、その過程を整えすぎることなく、ありのまま伝えます。
そこから見えてくるのは、誰かとともにあることの難しさと、それでも関わり続けるあり方です。音楽のように重なり合いながら、ときにずれながら続いていく関係を、それぞれの経験と重ねながら受け取ることができそうです。
インフォメーション
ドキュメンタリー『聴く隣人のいるところ』
公開表記:2026年6 月 6 日(土)よりポレポレ東中野 ほか全国順次公開
配給:ポレポレタイムス社
公式サイト:www.kikurinjin.com
公式 SNS:X:@kikurinjin、Instagram:@kikurinjin
出演:キリスト教愛真高校 2024 年度在籍者
監督・撮影・編集:早川嗣
共同プロデューサー:本橋成一 大槻貴宏
整音:石川雄三
宣伝美術:ROTA
宣伝:アギィ
配給協力:ポレポレ東中野
製作・配給:ポレポレタイムス社
2026 年/111 分/D C P/カラー/ステレオ
Information
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