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“公”と“私”が交わるとき、どんな居場所が生まれる? ローカル実践者たちとの対話集『準公共をデザインする』出版
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【画像】書影。カフェのような場所にたくさんの人がいるイラスト
編著:矢島進二、著:吉田田タカシ・石田慶子・坂本大祐・アリソン理恵・ヴォーン・戸所信貴・左京泰明・中野瑞子・上野雅佐和・色部正俊・村上豪英・日下田伸・平賀達也・入江智子・大島芳彦・小笠原康則・岡崎正信・浅沼尚

「準公共」という新領域から、“公”と“私”のあいだをリデザインする

多様な課題が次々と起こる現代社会。行政などのパブリックセクターだけで、あるいは企業などの民間セクターだけで問題を解決していく限界も見えるなか、両者が重なり合う領域を捉える「準公共(セミパブリック)」という概念が、注目されつつあります。

公民連携や市民連携といった取り組みはその一例です。とはいえまだ歴史の浅い言葉である「準公共」の輪郭を明らかにするために、担い手となるプロジェクトを運営する実践者たちのナラティブを収録した書籍『準公共をデザインする――〈公〉と〈私〉が溶けあう居場所の実践』(学芸出版社)が、2026年4月10日に刊行されました。

“公”と“私”が交わるためにどのようなデザインが築かれているのか、そして「準公共」とは何か。そのヒントが本書に記されています。

【画像】ローカルコモンズの10の実践を、全国の地図にマッピングしたもの

グッドデザイン賞から捉え直す、新しいまちのつくり方

『準公共をデザインする』の出発点は、本書の編著を担当する〈公益財団法人日本デザイン振興会〉常務理事の矢島進二さんです。デザインの社会的価値を高めることを活動の中核に据える〈日本デザイン振興会〉では、グッドデザイン賞をはじめとするデザインプロモーションに取り組んでおり、〈こここ〉でも創刊初年度から連載『デザインのまなざし』を共にしています。

​​これまで矢島さんは、社会的にまだ十分に浸透していなかった「サービスデザイン」や「ソーシャルデザイン」などの領域にいち早く着目し、先導的な事例を発掘・発信してきました。そうした活動を続けるなかで、近年とりわけ注目してきたのが、本書で扱う「準公共」です。

人口減少や財政の圧迫に伴い、地方自治体の職員数は1994年から2025年にかけて約50万人減少しています。さらに、社会課題も多様化し、公共の現場では対応が追いついていないのが実情です。こうした状況のもと、矢島さんは“公”と“私(民間)”が重なり合う領域である「準公共という考え方に注目し、そこにデザインの可能性を見出せないか着目していました。

とはいえ、「準公共」という概念はまだ生まれたばかりで、デザイン領域においてもまだ体系化されていません。2021年に発足したデジタル庁の資料でこの言葉を目にした矢島さんは、実践者に話を聞く企画を考え、マガジンハウスの運営するウェブメディア〈コロカル〉でグッドデザイン賞受賞プロジェクトをたずねる連載をスタートさせました。

“公”と“私”を交わらせるには? 実践者のナラティブから学ぶ

本書では、連載で紹介してきた8件の事例に加え、2022年度グッドデザイン大賞に選ばれた「まほうのだがしや チロル堂」(奈良県生駒市)と、デジタル庁の前デジタル監・浅沼尚さんのインタビュー記事を新たに収録しています。

【画像】「まほうのだがしや チロル堂」の導入ページ。3人の話者がいることがわかる

Chapter1で紹介されている「まほうのだがしや チロル堂」は、大人の寄付や飲食代金の一部が、子どもたちの食事や駄菓子に還元される店舗です。18歳以下の子どもは、100円でガチャを回して「チロル札(地域通貨)」をゲットし、通常500円相当のカレーや駄菓子とチロル札を交換することができます。

誰もが来店しやすい「駄菓子屋」として場を開くことで、孤独や貧困に悩む子どもたちや、育児や家事などに悩む人たちの憩いの場となっているチロル堂。共同代表の一人で、福祉施設を運営する石田慶子さんは、本書で「準公共」を通じ地域とつながり直す重要性について語っています。

チロル堂によって、福祉の中では見えなかった「本当の福祉の本質」、つまり「地域の中に福祉がある」という発見をしたのです。福祉制度とかサービスとか、みんなが福祉だと思っているものが福祉ではなく、福祉はそもそも関わりの中にあるし、地域の中にあるのです。

「まほうのだがしや チロル堂(奈良県生駒市)――資本主義を減速させる“まほう”の発明」p39

また、Chapter8で紹介されている「morineki(モリネキ)」は、大阪府大東市で進められた、市営住宅の再整備プロジェクトです。民間資金やノウハウを活用し、公共サービスの向上と行政コストの削減を図るPPP(Public Private Partnership)手法が採用されています。

【画像】「morineki(モリネキ)」の導入ページ。2人の話者が紹介されている

約1ヘクタールのエリアに、民間賃貸住宅やオフィス、商業施設などを整備するにあたり、単なるハードの建て替えにとどまらず、ビジョンやグランドデザインをもとに市長へ提案するかたちで進められた同プロジェクト。一方で、それを市民に対してもトップダウンで押し付けるのではなく、多様な人々が関われる状況をいかに設計し、日常的な化学反応を生み出していくことも重視されました。その鍵として、本書では〈株式会社ブルースタジオ〉の大島芳彦さんが「曖昧な境界」という考え方を紹介しています。

解釈の幅、余白を持たせておくと、同じ目的を共有しながらも参加する人々は自分なりにそのビジョンを発展させられるので、当事者性や能動性を生むのです。クリアなビジョンで、やわらかさを持ったグランドデザインを発展させていってもらうために。

「morineki(大阪府大東市)――市営住宅に公共と民間の“曖昧な境界”をデザインする」p183-184

「東京ミッドタウン・デザインハブ」でトークも

最終章のChapter10では、デジタル庁の前デジタル監・浅沼尚さんに「なぜ、準公共に注力するか」というストレートな問いが展開されています。

そもそもデジタル庁は、行政官と民間出身者が融合したハイブリッドな組織。その発足により、互いの強みへの理解が進んだといいます。そうした次世代型の行政組織を掲げるデジタル庁が「準公共」を推進するのは、ある意味で必然なのかもしれません。

「デジタル庁デザインシステム」は、2024年度グッドデザイン賞ベスト100も受賞し、「誰一人取り残さない」設計が評価されました。こうした評価を受けるなかで、浅沼さんは、デザイナーの役割が変わろうとしていると指摘します。

デザイナーの役割は「最終的なアウトプットづくり」から、場づくりや関係づくりなど「アウトプットを生みだす仕組みづくり」へとシフトしていくと考えています。 まずは、アウトプットに必要となる前段の構想や、関わる人たちと新たな関係をつくることに興味や関心、喜びややりがいを感じることができるかが大事だと思います。

「デジタル庁(東京都千代田区)――なぜ、準公共に注力するのか」p222
【画像】『準公共をデザインする〈公〉と〈私〉が溶けあう居場所の実践』の書評

企業の経営者や福祉事業に携わる人、行政組織にいる人、もちろんデザイナーとして働く人にとっても、発見のある『準公共をデザインする』。本書の刊行にあわせて、「東京ミッドタウン・デザインハブ」で記念トークイベントが予定されています。

2026年5月28日(木)に開催されるのは、「グッドデザイン賞受賞のローカルコモンズ集『準公共をデザインする』発刊記念トーク」。表紙にもなった東長崎のコーヒーショップ「MIA MIA」のアリソン理恵さんと、元八百屋を活用した地域福祉拠点「笹塚十号のいえ」の左京泰明さんを迎え、特別トークが行われます。会場は「インターナショナル・デザイン・リエゾンセンター」で、6月25日(木)にも別のトークが開かれる予定です。

公共とは何か、民間とは何か。その境界線をあえて曖昧にするデザインによって、何が生まれるのか。ぜひ、本書を手に取って、準公共の実践者から学んでみてください。