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母のセルフネグレクトをめぐる2年間を綴りながら、見えてきたことを語りひらく。座談会イベント「リー・アンダーツのオルタナティブ福祉 vol.1」11月25日開催
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生活の先にある介護や福祉について、ゆったりと皆で考えてみる

親世代の介護のこと・福祉のこと・身近にある困ったことなどを語り合う座談会イベント「リー・アンダーツのオルタナティブ福祉 vol.1」が、東京都調布市の〈仙川TINY CAFE〉で11月25日(金)19時30分から開催されます。

開催のきっかけは母親が亡くなるまでの2年を綴ったエッセイ

このイベントを主催するのはリー・アンダーツさん。関西で生まれ育ち、現在は関東で暮らすリーさんには、借金・ゴミ屋敷・セルフネグレクトといった「ちょっとした癖(リーさん談)」をもつ母親がいました。

リーさんは、その母親が亡くなるまで一緒に過ごした2年間の、けして平坦ではない体験を、エッセイ形式で綴ってnoteで発信しながら、同じような体験をしている人との連帯の仕方を考えてきたそうです。

母の生前、わたしは色々と彼女の起こした迷惑の処理をしながらふと、「世の中にはわたしのようなことで苦労している人が数え切れないほどいて、その中のまた数え切れない人は誰かに相談することもしなかったりできなかったりしながら、抱え込んで生きているのだろうなぁ」と思いました。

そして、そんな方たちの支えになりたいと思い、どうにか自分自身が会社組織として世の中のお役に立てないものかと考えました。

実際わたし自身、何かがあった時に今すぐこの話を誰かに聞いてもらうだけでいいから聞いてもらいたいと思ったことが何度もありました。

(中略)

わたしにあるのは経験だけだったため、「ではその経験を世の中に発信し、先ずは共感してくれる人を集めるということがあなたが今すぐ出来ることなのではないか」とある人に言われたことをキッカケに、わたしはこうしてnoteに書き綴ることにしました。
(「第五話 / ちょっと休憩。」より)

リーさんはnoteでの発信を始めるまで、NPO法人を設立して「介護や身近にいる人の世話で頭を抱えている人を助ける活動をしたい」と思っていたそうです。しかし、エッセイを書き進めていくうちに、読んだ人からの予想外の反響もあり、こうした問題に関心がある人が多いことを知ります。その上で、「まずは問題を話し合う機会をつくり、その中でそこに合うものをつくっていけば良いのではないか」と考えるようになったといいます。

そうした経緯で開催されるこのイベントでは、リーさんが自身の経験やエッセイ執筆を通して考えたことなどを含め、ゲストや来場者の意見をまじえて語り合います。食事と音楽を楽しみながら、一緒に介護や福祉についてゆったりと考え、参加者やリーさん自身が、ものごとの道筋を立てるためのキッカケ作りとなる場をひらきます。

リー・アンダーツさんによる座談会イベント開催に向けた言葉

「困った家族を持ったことにより困っている人」を支えるために

ここからは、リー・アンダーツさんのnoteを引用しながら、リーさんが母親と過ごしてきた2年間の経験やその中で感じたことをご紹介します。

※以下、リーさんの母親の死に関する記述や、ゴミ屋敷の写真が含まれます。

困った家族を持つその家族は、大変だ。
その家、その家で問題や困ったことの内容も様々で、
皆それぞれに、確実に、困っている。 (「第八十話 / 無題」より)

エッセイは、リーさんの母親が、リーさんが住むまちへ引っ越してくるところから始まります。幼少期のリーさんは母親との二人暮らしで、いわゆる「ゴミ屋敷」と呼ばれるような環境のもとで育ちました。長年親元を離れていたリーさんは、再び家族で暮らせる日がやって来たことを喜ぶものの、生活スタイルの違いから近所に母親のアパートを借りて別居することに。その後、母親が複数の人から多額のお金を借りていたことや、旧居の退去にゴミ処理の膨大な費用がかかっていたこと、そして新居へもゴミを溜め込みはじめていることなどが次々と明らかになっていきます。

母親の旧宅の大家からリーさんに送られてきたゴミ捨て場の写真。ゴミ屋敷化したその部屋から大家と行政でゴミを出し切った直後の写真だそう。「このしっぺ返しは、どういうわけか母ではなくわたしに襲いかかった。(リー・アンダーツ)」

母親は、潔癖症のためゴミに触れることが出来ず、食事もすべて外食。入浴も清潔で広いホテルやスーパー銭湯で入りたいがために、アパートに備え付けられた風呂では難しい。こうした「セルフネグレクト」と呼ばれるような強いこだわりの対処法として、母親自身は、ゴミ問題をのぞいたすべてを、これまで借金による金銭で解決してきました。そんな母親に対し、リーさんは強い戸惑いと苛立ちを抱きながらも、母親の生活の再起に奔走します。

わたしは一時期、心身共にくたびれ果てていた。 自分がどれだけ無理して昼夜問わず駆けつけようと、 自分がどれだけ無理して母の生活を立て直そうと、 自分がどれだけ無理して母のために母が迷惑をかけた人に謝罪しようと、

母はなにも変わらなかった。

「いつでも使える借りた金」という、彼女にとって最大の魅力且つ生き甲斐を取り上げたことで、母はいっきに老け込んだ。
(「第四十話 / ちょっと休憩『殺したくはないけど死んでほしい』」より)

母親の旧宅の大家からリーさんに送られてきた、汚れの取れない部屋の写真

そうして母親が亡くなったのは、リーさんが母親の年金から月々の出費をなんとかやりくりをし始めて、しばらく経ったあとだったそうです。

母は2022年2月16日の早朝、自宅で突然逝きました。

詳しくは今後書いていこうと思うのですが、密室で独り亡くなったため、解剖されることになりました。

解剖結果は「低栄養からくる低体温症」。

ひと言で言うと「凍死」でした。

(「第五話 / ちょっと休憩。」より)

当時はソーシャルワーカーの人員不足や、介護認定に伴い、管轄のエリア外で親しくしてくれていたスタッフの支援が急に受けられなくなってしまう状況も重なり、母親の支援を福祉制度に全面的に委ねず、血縁のあるリーさんが主体的にならざるをえなかった日々が続いていました。そうした生活をnoteで振り返りながら、リーさんはこう続けています。

「他人に迷惑をかけずに人間らしい生活を、地に足付けて送ってほしい」 

これは当然の考えであるとは思うのだけれど、本人からすれば迷惑でしか無い。

このバランスは非常に難しく、方法次第では母はまだ生きていたのかもしれない。

母の死後、わたしはとにかく自分を責めた。

(中略)

今後わたしはこのnoteを書き始めた時から考えているように、何かしらの形で、

「困った家族を持ったことにより困っている人」を支える組織をつくりたいと思っています。

(「第七十七話 / 最後の、ちょっと休憩」より)

その人らしく生きること。そしてその人の側にいる家族も、その人らしくいつづけること。リーさんの綴る文章からは、その難しさが滲み出ていると同時に、自分と同じような状況で悩む人々に手を差し伸べたいという、今回のイベントに通じる言葉が随所に見られます。

座談会イベントやエッセイを通して、福祉について一緒に考えてみませんか?

イベントを開催するにあたって、リーさんはこのように語っています。

物事は、簡単にしてしまおうと思えばいくらでも簡単にできます。
複雑なことはまずそのもつれた糸をほどいてから、その次を考えなければならないと思います。
そのもつれた糸をほどく行為が、対話だと思っています。
これまでのnoteでの記事は、わたしとわたしの対話だったのかもしれません。
(「noteを通じて」より)

自分の中にもこうした困りごとがあると感じた方や、生活の悩みを共有したいと思った方、肩肘張らずに身近にある「福祉」を考えてみたい方は、ぜひ本イベントに参加してみたりエッセイを読んでみたりしてはいかがでしょうか?

イベント当日は、リー・アンダーツさんが自身の経験や執筆を通して考えたことをメインに話すパートと、ゲストの精神保健福祉士のタカハシさん、ミュージシャンの田渕徹さんをまじえた来場者も参加するオープンダイアローグの二部構成で行われます。

会場は、エッセイにも度々登場する『小さな喫茶店』こと〈仙川TINY CAFE〉です。今後も、この課題に縁の深いNPOの代表や、精神に関わる専門家などを招き、対話の輪を広げていく予定です。