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自分の人生を「選べる」ってどういうこと? グッドデザイン大賞に輝いた僧侶の半生を描く、児童ノンフィクションが登場!
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【画像】書影。お寺の本堂を緑が囲むイラスト
著:井出留美、絵:坂内拓(くもん出版)

生活困窮家庭を支援する「おてらおやつクラブ」誕生までの、一人の僧侶の物語

進学や就職、働き方や暮らし方。私たちは日々、選ぶことと隣り合わせに生きています。けれど、その選択肢は誰にとっても開かれているものなのでしょうか。もしかしたら気づかないうちに、環境や立場、周囲からの期待によって、選べるはずの道が狭められていることがあるかもしれません。

2025年12月に刊行された『おやつのおぼうさん おすそわけで子どもたちを笑顔に!』(くもん出版)は、そうした「選ぶこと」をめぐる問いを、一人の主人公の歩みとともに描いた一冊です。

その人物は、2014年に生活困窮家庭への支援を行う「おてらおやつクラブ」を立ち上げた僧侶・松島靖朗さん。将来が半ば決められていた少年時代から、自らの道を選びなおし、そして社会のなかに新たな仕組みを生み出していくまでの軌跡を、小中学生にも分かりやすい言葉でたどります。

おてらおやつクラブ代表の松島靖朗さん

「おそなえ」を社会へ開く、松島靖朗さんの取り組み

松島さんが2014年に立ち上げた「おてらおやつクラブ」は、全国のお寺に集まる「おそなえ」を、ひとり親家庭をはじめとする生活に困難を抱える家庭へ「おすそわけ」する活動です。仏さまに供えられたお菓子や食品を、各地の支援団体などを通じて約18,000世帯へ届けてきました。

松島さんが「おてらおやつクラブ」を立ち上げた背景には、2つの課題がありました。1つ目はフードロス問題です。松島さんが住職を務める安養寺(あんようじ)をはじめ、お寺は多くの檀家たちから、お菓子や食品など様々なものが供えられます。しかし、そうしたお供え物は、近隣の方々におすそわけしても余ってしまっていました。

2つ目が、子どもの貧困問題です。厚生労働省が2022年に発表した国民生活基礎調査によると、日本の子どもの約9人に1人が相対的貧困の状態にあるとされています。ですが、日常的に学校に通い、一見大きな困難なく生活を送っているように見える子どもたちも多く、周囲が気づきにくいという側面があります。

松島さんはこの2つの問題をつなぎ、希望のあった家庭にお供え物をおすそわけする「おてらおやつクラブ」をスタートさせました。活動は全国に広がり、2018年にはグッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)を受賞。その仕組み自体が、社会における新たなデザインとして評価されました。

また、この取り組みは物資の提供にとどまりません。「誰かが気にかけている」という感覚や、「頼ってもいい」と思える関係性も届けています。日々の暮らしのなかでは見えにくい困りごとに対して、どのように関わることができるのか。「おてらおやつクラブ」は、そのひとつのあり方を示してきました。

迷って、悩んで、回り道をして、納得いく生き方を見つけた

本書『おやつのおぼうさん』の前半では、松島靖朗さんの幼少期からの歩みが描かれています。

奈良県にあるお寺・安養寺に生まれた松島さんは、幼い頃から「将来はお寺を継ぐもの」と周囲から期待されて育ちました。けれど、その役割に対する納得感を持てないまま、息苦しさを抱えていたといいます。進路に迷い、学校になじめなかった時期や、引きこもりの経験など、自身の生き方に葛藤を抱えてきました。

『おやつのおぼうさん』第1章 お寺の子 p13~p14より
『おやつのおぼうさん』第1章 お寺の子 p16~p17より

そうしたなかで身につけていったのが、「自分で考えぬき、自分で決める」という姿勢です。松島さんは家族の勧めで入った高校を中退し、次は自らの意思で高校を選んで勉強に打ち込みます。与えられた道ではなく、自分で選び取るプロセスを通じて、世界を少しずつ広げていきました。

たくさんの選択肢から選ぶという自由は、「おぼうさんになってお寺をつぐ」という選択肢しかなかった松島さんにとって、とてもたいせつなことです。

ところが、自分ですべてを決めるようになってみると、自由というものはめんどうだし、たいへんだということがわかりました。

じつは、「しがらみ」は松島さんをしばりつけるだけのものではなかったのかもしれません。松島さんが安心してくらせるように、守ってくれていたのかもしれないのです。

(第4章 つなぐ p.62)

葛藤のなかで、窮屈だった「しがらみ」の代わりに、自分に合った「つながり」を探し始めた松島さん。その積み重ねが、やがて地元を離れての進学やIT企業への就職、そして再びお寺へ戻るという選択へとつながっていきます。一度は離れたからこそ見えたこと、回り道をしたからこそ気づけたこと。そうした経験が、後の活動の土台になっていきました。

お坊さんとして挑む、社会をつなぐ仕組みづくり

後半では、「おてらおやつクラブ」の立ち上げと広がりが描かれます。活動の原点は、社会のなかにある「見えにくい困りごと」にどう応えるかという問いです。匿名で支援ができる仕組みや、支援を受ける側の心理的な負担を軽減する工夫など、「助けたい」と「助けてほしい」を無理なくつなぐ試行錯誤が重ねられていきます。

『おやつのおぼうさん』もくじページより

本書では、その過程での戸惑いや失敗も正直に綴られています。たとえば、事情を知らないまま荷物を受け取った子どもが、「どうしてこんなものが届くのか」と戸惑い、家庭の状況を知って悲しさを感じてしまったことがありました。

話を聞いた松島さんたちは、おすそわけのあり方を見直します。「ほとけさまからのいただきもの」という言葉を添えたり、活動の背景や意味を丁寧に伝えたり、荷物自体が目立たなくなるように梱包を変えたり。受け取る人の立場に配慮した届け方に変えていきました。

おぼうさんたちにとって、よいおこないをするのは仏教の修行です。おてらおやつクラブの活動も、おぼうさんたちには修行のひとつなのです。

だから、おすそわけしてもらう側は負い目に感じなくていいのです。だって、おぼうさんたちに修行の機会をあたえることになっているのですから。

そもそも、おぼうさんたちは檀家にささえられてくらしています。おてらおやつクラブの活動は、お布施やおそなえものでくらしているおぼうさんたちからの「恩おくり」「恩がえし」でもあるのです。

(第8章 おやつのおぼうさん p.121)

貧困家庭にお菓子を送るなんて……といった指摘も時にはあるそうですが、松島さんは「おやつは心の栄養」だと言います。生活に困ると真っ先に削られるおやつは、子どもにとって楽しみや安心感につながる存在でもある。そうした視点が、活動の根底に据えられています。

身近な「おやつ」という入り口から、食品ロスや貧困といったテーマを分かりやすく、暮らしに引き寄せて考えられるのが本書の特徴です。自分の人生を選ぶこと。そして、誰かが選べる状況を支えること。『おやつのおぼうさん』は、その両方がどのようにつながっていくのかを、ひとつの具体的な実践を通して伝えてくれます。