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子どもの貧困とは? 「育ち」「社会」への影響から、サポートする仕組みまで
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こここトピックス。初の全国調査から見る、貧困の今

日本で進む「子どもの貧困」

「子どもの貧困」という言葉を知っているでしょうか? 子どもたちの成長や未来はもちろん、社会の在り方にもかかわることとして、近年大きな問題になっています。

低所得であるという「貧しさ」と「困りごと」を抱えた状態であることの2つの側面がある貧困には、さらに「絶対的貧困」と「相対的貧困」という2つの状態が含まれます。

「絶対的貧困」は、凍えるほど衣類がない、栄養失調になるほど食べるものがない、安心して眠れる家がないなど、生活すべてにおいて低水準で貧しい思いをしている状態にあること。「相対的貧困」は、その国の文化水準や生活水準と比較して困窮した状態を指します。

OECD(経済協力開発機構)の基準では、「相対的貧困」は世帯の手取り分を指す「等価可処分所得」(注1)が中央値の2分の1以下の世帯とされ、日本にはこの「相対的貧困」の世帯で暮らす子どもが、およそ7人に1人いる(注2)ということがわかっています。

注1:「等価可処分所得」=世帯の可処分所得(収入から税金・社会保険料等を除いたいわゆる手取り収入)を、世帯人員の平方根で割って調整した数字

注2:17歳以下の日本の相対的貧困率は13.5%。2018年分の等価可処分所得の中央値の半分は、127万円(2019年の厚生労働省による『国民生活基礎調査』より)

初の全国調査で浮き上がった暮らしの深刻さ

2021年、子どもの貧困に関する初めての全国調査が〈内閣府〉により行われ、相対的貧困の世帯に多くの困難や多様な課題が生じていることがわかりました。

現在の暮らしの状況を見たときに、「相対的貧困」の世帯の57.1%が「苦しい」「大変苦しい」と回答。また、ひとり親世帯の状況も深刻で、ふたり親世帯の21.5%に対し、ひとり親世帯では51.8%が「苦しい」「大変苦しい」と答えています。

【グラフ】等価世帯収入の水準別、および世帯の状況別の、食料が買えなかった経験の回答。等価世帯収入の水準別では、中央値以上、中央値未満かつ中央値の2分の1以上、中央値の2分の1以下の3つにわけて示されている。世帯の状況別では、ひとり親世帯、ふたり親世帯、母子世帯の3つにわけて示されている。
過去1年間に「必要とする食料が買えなかった」経験をもつ家庭は、相対的貧困にある世帯の37.7%。ふたり親世帯の8.5%に対して、ひとり親世帯では30.3%(内閣府『令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書』より作成)
【グラフ】等価世帯収入の水準別、および世帯の状況別の、衣服が買えなかった経験の回答。等価世帯収入の水準別では、中央値以上、中央値未満かつ中央値の2分の1以上、中央値の2分の1以下の3つにわけて示されている。世帯の状況別では、ひとり親世帯、ふたり親世帯、母子世帯の3つにわけて示されている。
同様に、過去1年間に「必要とする衣服が買えなかった」経験のあった割合は、相対的貧困にある世帯の45.8%。ふたり親世帯の13.1%に対して、ひとり親世帯では 38.9%(同上)

2012年に〈厚生労働省〉が行った『ひとり親家庭の現状について』の調査でも、ひとり親世帯の相対的貧困率は54.6%(ふたり親世帯は12.4%)とされていました。昨年の全国調査は、ひとり親世帯が貧困に陥りやすいことを改めて示すとともに、子どもの貧困が身近に起きている実情を明らかにしたと言えるでしょう。

「そもそも、子供の貧困が、保護者の状況と無関係に起こることはない。保護者が豊かなのに子供だけが貧しかったり、保護者が貧しいのに子供が豊かだったりということはありえない。したがって、子供の貧困問題は、保護者の(より広くは世帯の)貧困問題でもある。そのため、この調査データは子供の貧困だけでなく、いわば「大人の貧困」についても多くの知見をもたらすはずである。」

(『令和3年度 子供の生活状況調査の分析』の4.総括「子供の貧困の実情と求められる支援」より引用)

貧困による困りごとの連鎖

相対的貧困の状態にあることは、子どもの育ちにも多大な影響があるとされています。

塾や習い事などに対して「あきらめる経験」が増えてしまうこと、生活習慣が整いづらく、健康面での不利益を受けやすくなること、周囲との関係の悪化や居場所の見つけづらさにつながりやすいこと。また、就学援助制度を知らないなどの「情報ギャップ」の生まれやすさも含め、生活の過程での体験の機会が少なく、得られる文化資本・社会関係資本も減ってしまうことなど、多くの指摘が寄せられています。

先の全国調査でも、それを示すような回答がいくつも見られました。

【グラフ】等価世帯収入の水準別、子どもの進学段階に関する希望・展望。中央値以上、中央値未満かつ中央値の2分の1以上、中央値の2分の1以下の3つにわけて示されている。収入が下がるほど高校までが増え、大学またはそれ以上が減っている
子どもの未来を描いたときの、進学段階についての質問への回答(内閣府『令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書』より)
【グラフ】等価世帯収入の水準別、授業の理解状況。中央値以上、中央値未満かつ中央値の2分の1以上、中央値の2分の1以下の3つにわけて示されている。収入が下がるほど理解度が低くなっている
中学生に対しての、授業の理解状況についての質問への回答(同上)

こうした貧困は、世代をまたいで連鎖しやすいとも言われます(参照:東京都の2018年『「子供の生活実態調査」の詳細分析報告書』)。また、2015年に出されている〈日本財団〉と〈三菱UFJリサーチ&コンサルティング〉による『子どもの貧困の社会的損失推計レポート』によると、子どもの貧困の現状に対策を施さなかった場合、1学年(2013年時点で15歳)の生涯所得が総額で2.9兆円減少する一方、国の税金・社会保障の純負担額(注3)として約1.1兆円の損失を見込む試算も出されています。

注3:「純負担額」=一人の国民が生まれてから死ぬまでに国に対して支払うお金と、国から受け取るお金を貨幣価値に換算して、世代ごとに算出したもの。具体的には、税金や社会保険料、年金保険料などから、年金や医療保険、公共サービスなどで得られる額を差し引いた額

社会や経済への影響はもちろん、今を生きる子どもたち一人ひとりの福祉(幸福)のために、改めて子どもの貧困に向き合い、自分自身ができることを考える必要があるのではないでしょうか。

「子どもの貧困」をサポートする仕組み

政府は、2014年の『子供の貧困対策の推進に関する法律』成立以来、「教育の支援」「保護者の就労の支援」「生活の支援」「経済的な支援」の4項目を柱に、さまざまな子どもの貧困対策を進めています。

2015年には、「子どもたちのために何かしたい」と想う人や企業と、NPOなどの団体をつなぐプロジェクト「子供の未来応援国民運動」も開始。〈内閣府〉〈文部科学省〉〈厚生労働省〉及び〈独立行政法人福祉医療機構〉による共同プロジェクトで、サイト内でさまざまな支援方法や、関連情報を発信しています。

「子供の未来応援国民運動」の公式サイトよりキャプチャ

一方で、個人や企業、NPOによる地域での支援活動も増えています。

2012年に始まった「子ども食堂」は、子どもがひとりで訪れることが可能な無料または低額での食堂で、すでに全国で6000箇所を超えているとされます。食事提供や孤食の解消を目指す場所ですが、最近は多世代での交流や地域活動を目的にするところも多くなっています。また、企業や農家の余剰食品を受け取り、必要としている人の元へ届ける「フードバンク」活動なども増えてきました。

他にも、〈日本財団〉が行う全国に地域子育てコミュニティを作ることを目的とした「子どもの第三の居場所」プロジェクトもあります。このプロジェクトでは、就学している子どもたちが孤立しやすい放課後の時間に、家と学校以外のサードプレイスとして、信頼できる大人や友人たちと安心して過ごせる場所を設置しています。将来の自立に向けて「生き抜く力」を育むことができる場所を目指しています。

あなたの身近なところでも、こうした子どもの貧困に対してサポートする取り組みが行われているかもしれません。まずは知ることからはじめ、自分にできる支援の方法を探ってみてはいかがでしょうか。