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食を通して福島の「いま」を知る。映画『ロッコク・キッチン』が2月14日よりポレポレ東中野ほか、全国順次公開
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『ロッコク・キッチン』のポスターイメージ

キッチンを軸に「いま」の福島を映すドキュメンタリーが公開

今日は、なにを食べようか。その選択には、その人の暮らしやこれまでの記憶が紐づいています。また、生きることをつなぐための食は「希望の証」だとも言えます。その営みは世界のどこでも変わりはなく、それはもちろん、東日本大震災、そして原発事故を体験した福島も例外ではありません。

震災からもうすぐ15年。かつて福島の被災地だった場所には、慣れ親しんだ場所に戻ることを決めた人、震災後に移住してきた人、仕事や復興のために訪れる人など、多様な背景をもつ人々が混じり合いながら日々の生活を送っています。

そんな、福島で暮らす人々の日常を、“食卓”という視点から見つめるドキュメンタリー映画『ロッコク・キッチン』が2026年2月14日(土)よりポレポレ東中野、3月6日(金)よりシモキタ – エキマエ – シネマ『K2』ほか全国で順次公開されます。

ノンフィクション作家・川内有緒さんと、映画監督・三好大輔さんが共同監督をつとめ、福島に暮らす3人の食卓を通して、日常の営み、喜びや悲しみといった感情の動き、変わりゆく人々の生活やその土地の記憶が湯気のように立ち上がってきます。

祖父とのチャイにまつわる詩を朗読するスワスティカ・ハルシュ・ジャジュさん

食事を通して、それぞれの人生や記憶をたどる

『ロッコク・キッチン』は、ふたりの映画監督が東京と福島を結ぶ国道6号線(通称「ロッコク」)を車で旅して、福島で暮らす3人の人物のキッチンを軸とした日常を描き出すドキュメンタリー。撮影は、震災から13年目となる2024年から約1年にわたって行われ、福島県内の大熊町、双葉町、浪江町、南相馬市小高区を中心に、人々の暮らしと食卓を描きながら、震災から年月を経た土地の“いま”を映します。

登場するのは、原発被災地でツアーを企画するインド人女性のスワスティカ・ハルシュ・ジャジュさん、震災の記憶を伝えるアートミュージアム「おれたちの伝承館」を運営する写真家・中筋純さん、夜だけオープンする本屋「読書屋 息つぎ」を営む武内優さんの3名。チャイや中華丼、クラムチャウダーといった料理が作品を彩り、食事を通した、3人の人生や日常、さまざまな記憶が語られていきます。

中筋純さん(写真から左2番目)と鍋を囲む「おれたちの伝承館」の仲間たち。メニューは羽付き餃子と鱈の湯豆腐
震災前のホームムービーに映る浪江町のイチゴのかき氷 撮影:高橋洋充

作品内では、地元住民からの協力のもと、かつての住民の姿や町の風景が残る震災以前のホームムービーが時折挿入され、失われた過去と“いま”とがオーバーラップします。これらの映像は、在りし日への郷愁を誘うだけでなく、震災後の再開発や解体により消えつつある「暮らしの記憶」を未来へ受け渡すアーカイブとしての側面も持ち合わせています。

双葉郡大熊町で、武内優さんが店主となり18時〜21時の間だけオープンする本屋「読書屋 息つぎ」。読書会や演奏会なども行われます

人の営みに寄り添うふたりの監督が再びタッグを組む

左から『ロッコク・キッチン』で監督をつとめる三好大輔さん、川内有緒さん

この作品の監督をつとめる川内有緒さんと三好大輔さんは、2022年公開の全盲の美術鑑賞者/写真家・白鳥建二さんを追ったドキュメンタリー映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』に続いて、『ロッコク・キッチン』が二度目の共同監督となります。

川内有緒さん著『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(集英社インターナショナル、2021年)は、2022年に「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」を受賞。

川内監督はノンフィクション作家としても活躍し、『空をゆく巨人』(集英社)『パリの国連で夢を食う。』(幻冬舎文庫)といった作品で知られています。映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』の共同監督のほか、ギャラリー「山小屋」(東京・恵比寿)の運営など、多様な表現媒体を横断して活動を続けています。三好監督は、ドキュメンタリー映像作家として活動するほか、地域に眠るホームムービーを地元住民と映画に仕立てる地域映画を全国で展開しています。川内監督との共作である『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』が、日本のみならず海外でも称賛を集めるなど、人の営みに寄り添う視点を持ち続ける監督だと評されています。

―再び明かりを灯し、忘れないために

中国出身、大熊町在住の女性が中華丼をつくるための下ごしらえをしている様子

公開決定を受けて、コメントを寄せたふたりの監督。川内監督は避難指示が解除されたばかりの頃、一軒だけ明かりが灯る家を見て「あの家の人はいま夜ご飯を食べているのだろうか」と頭によぎったという時のことを振り返ります。

人と人が出会い、一緒に温かいスープを飲む。それは、当たり前に見えて当たり前ではありません。一度全ての光を失ったこの地に来るたびに、人とのつながりの儚さを思い、それでも人生の中で出会えた喜びで胸がいっぱいになります。

と記し、再び灯った光に対する心情を綴ります。

一方、三好監督は、震災後に東京を離れて長野に移住した自身の経験から、人生を変えるほどの大きな災害でも忘れてしまうことの容易さを語り、

訪れるたびに変化する町で、そこに暮らしている人たちと出会い話をし、ご飯を食べながらカメラをまわし続けた。想像を遥かに超える生き方に心が震えた。あぁ、この人たちのあるがままを伝えたい。共に過ごした時間を忘れないために。

と、忘れないためにも、変化し続ける福島で出会った人々の“あるがまま”を映したいという強い思いを述べています。

また、『ロッコク・キッチン』はドキュメンタリー映画だけでなく、川内監督によってノンフィクションエッセイとしても展開されています。2025年11月に発行された書籍版『ロッコク・キッチン』は、第35回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞するなど大きな話題となりました。

食事という「光」から、生きることについて考える

記事の冒頭で、食は「希望の証」であると触れましたが、『ロッコク・キッチン』は、誰かの食事のような小さな「光」に焦点を置いた作品だとも言えるのではないでしょうか。震災という「暗闇」の記憶があるからこそ、小さな「光」がとても大切に、愛おしく思えてくるような気がします。

福島の現在についてや、震災の記憶、そして「食べて生きる」ことの意味について考えたい人は、劇場に足を運んで、「いま」の福島に暮らす人たちの食卓をのぞいてみてはいかがでしょうか。