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アートチーム〈SIDE CORE〉の展覧会が金沢21世紀美術館で開催中。 テーマは「異なる場所をつなぐ表現」
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SIDE CORE《new land》2024 © SIDE CORE

「危機に対してアートは何ができるのか」という問いに挑む

2024年の元日に能登半島地震が発生し、同年9月には記録的な大雨である奥能登豪雨が観測されました。震災の発生から1年半以上経ち、復旧が進められていますが、2026年に予定されていた〈奥能登国際芸術祭〉の開催が中止になるなど、今もなお、災害の大きな爪あとが残ります。

このような災害が起こった際に考えることは、別の場所にいる私たちが、その場所や、そこにいる人たちに対して何ができるかということです。

アートチーム〈SIDE CORE〉は、「個人がいかに都市や公共空間のなかでメッセージを発するか」という問いのもと、ストリートカルチャーを切り口として「都市空間における表現の拡張」をテーマに作品の制作を行なっています。

2023年の〈奥能登国際芸術祭〉に出展するなど、震災が起こる前から能登に関わり、2024年の震災以降、奥能登豪雨にも見舞われた能登半島に、ボランティアやリサーチ活動で何度も足を運んできました。

そんな〈SIDE CORE〉が、金沢21世紀美術館(石川県)にて、「異なる場所をつなぐ表現」をテーマにした展覧会「SIDE CORE Living road, Living space / 生きている道、生きるための場所」を開催します。会期は、2025年10月18日(土)から2026年3月15日(日)まで。本展をきっかけに、来館者が実際に能登を訪れる機会となるような関連イベントも予定されています。

〈SIDE CORE〉と匿名アーティスト集団〈EVERYDAY HOLIDAY SQUAD〉によって制作された《rode work ver. tokyo》。夜間工事現場の機材を用いた立体作品と映像作品から構成されています。
SIDE CORE / EVERYDAY HOLIDAY SQUAD 《rode work ver. tokyo》2018 / 2022 photo:KIOKU Keizo

美術館という空間に「別の道」を開いていく

2012年に活動をスタートした〈SIDE CORE〉(メンバー:高須咲恵さん、松下徹さん、西広太志さん)は、これまで東京を中心に日本各地でプロジェクトを展開してきました。それらの実践の背景には、2011年の東日本大震災を契機に実感した「都市はあらゆる側面で他の地域に依存して成り立っている」という気づきがありました。以降〈SIDE CORE〉は、ストリートカルチャーを「都市の公共空間における表現」にとどめるのではなく「道=異なる場所や価値観を媒介するもの」と再定義して、都市の路上に閉じた表現ではなく、地域と地域をつなぎ、移動や文化の連鎖反応に基づく表現運動として捉え直すことを試みています。

〈SIDE CORE〉のメンバー(左から松下徹さん、高須咲恵さん、西広太志さん)photo:HAMADA Shin

「SIDE CORE Living road, Living space / 生きている道、生きるための場所」では、2024年度に〈SIDE CORE〉が参加した金沢21世紀美術館のアーティスト・イン・レジデンスプログラムにて行った、金沢市内および能登半島におけるリサーチや作品制作の成果を展示します。特に、能登半島でのリサーチは震災がもたらした土地の変化への理解を深めることを目的として行われましたが、これまでの地域リサーチなども踏まえて、「危機に対してアートは何ができるのか」という問いに挑戦。芸術がどのように社会に対して新たなバイパス(抜け道)としての可能性をもたらすのかを紹介していきます。

この展覧会では「道路」や「移動」という視点から「異なる場所をつなぐ表現」をテーマとしていますが、「道や移動」をテーマにした作品展示に加えて、展覧会ゾーンに期間限定で開設される無料のスペースなどを通して、美術館という空間に「別の道」を開いていきます。

また、本展には〈SIDE CORE〉だけでなく、プロスケーター・映像作家でスケート映像レーベル〈FESN〉を主宰する森田貴宏さん、ニューヨークと東京を拠点として作品制作やギャラリー運営を行うアーティスト、スティーブン・ESPO・パワーズさん、アートスペース「HAITSU」ディレクターの細野晃太朗さんがゲストアーティストとして出展します。スケートボードやグラフィティ、音楽イベントなどを通じて、今回の展覧会のテーマである「異なる場所をつなぐ表現」を実践。制度に拠らない生きる術を日常のなかに編み出して、グローバルなコミュニティで共有していく表現運動にフォーカスを当てます。

森田貴宏《フリーハンド(free hand)》2018
photo :Yoshiro Higai

展覧会オープンに先がけて8月4日(土)には、プレイベント「PRESEN TATION – VOL.0」が開催。「PRESEN TATION」は、美術館を「展示するだけの場所」ではなく、「何かが生まれる場所」として捉え直すプロジェクトで、さまざまな表現や気配が交差し、美術館に集まり、やがて拡散していくような時間を作り出します。当日は、アーティストによるパフォーマンスのほか、1日限りのアートショップやフード、バーの出店も行われました。

〈奥能登国際芸術祭〉の舞台となる珠洲市に設置された風見鶏。
SIDE CORE《blowin' in the wind》2023 © SIDE CORE photo: Kichiro Okamura
Courtesy of Oku-Noto Triennale 2023

異なる目的や背景を持つ人びとが、それぞれの考えや価値観を交換する

今回の展覧会の「Living road, Living space(生きている道、生きるための場所)」というタイトルには、〈SIDE CORE〉が考えるストリートカルチャーのあり方が込められています。それは、異なる目的や背景を持つ人びとが、一つの力や目的に縛られず、それぞれの考えや価値観を交換する営為そのもので、美術館の中だけにとどまらず、館外へ、路上へ、そして私たちの暮らす街のなかへと広がっていくものです。この展覧会は、そうした多様な場面で「生きるための場所」を発見/再発見するための契機となることをめざしているのだと言います。

「私たちに何ができるのか」という問いに対して答えを出すことは容易ではありません。それでも、異なる場所や価値観に続く「道」をなぞることは、自分にできることを見つける一歩となるのではないでしょうか。この展覧会を通して、異なる場所へと「移動」を試みるのもいいかも知れません。

SIDE COREの珠洲市でのリサーチの様子