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〈公共とデザイン〉主催の「産まみ(む)めも」展、3月18日から。“産む”への向き合い方を、対話と表現で考える
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【画像】グレーの背景に、青色の字で展覧会タイトルがあしらわれている
展覧会「産まみ(む)めも」が、2023年3月18日(土)〜23(木)の期間開催されます

「産む」への向き合い方を問い直す展覧会

ライフスタイル、価値観などがより多様化してきた現代。「家族」にもさまざまな形があらわれる一方で、妊娠・出産・育児に関しては、まだまだ“こうあるべき”とされるものが社会の中に強く残っているようにも感じます。

でも本当は、産むと決めた人にも、産まないことを選択した人にも、一人ひとりの葛藤や決断があるはず。今まさに産もうか迷っている人もいれば、周りの重圧に苦しむ人、産みたいと思っても不妊や同性同士などの理由で産めない人など、多様な当事者がいるのが現実ではないでしょうか。

こうした「産む」への向き合い方を問い直す展覧会「産まみ(む)めも」が、2023年3月18日(土)から23日(木)まで「​​OZ studio 渋谷」(東京都渋谷区)で開催されます。

主催するのは〈一般社団法人公共とデザイン〉。リサーチとワークショップを通した「産む」をめぐる当事者・プレ当事者との協働プロセスを、5組の作家による作品として展示します。

〈公共とデザイン〉と「産む」プロジェクト

本展を主催する〈公共とデザイン〉は、石塚理華さん、川地真史さん、富樫重太さんが共同代表を務めるソーシャルイノベーション・スタジオ。「多様なわたしたちによる公共」を目指し、社会課題の当事者との協働やリサーチ、実験などから、デザインを通じてさまざまなプロジェクトの創出に取り組んできました。企業や行政と手を組みながら、事業の創出、場づくり、組織の開発なども行っています。

そんな3人は、全員が30歳を迎え、パートナーもいて、子どもを持つことを検討していました。どこかで持っていた「30歳前後で結婚して子どもを産む」という自らのイメージに向き合ううち、そのイメージの中には、不妊治療や特別養子縁組などの可能性が含まれていないどころか、本当に自分自身が願った家族像なのかもわからないことに気が付きます。

「子どもを産むこと」や「子どもを育てること」について、自分なりの価値観を形成できる環境がないーーそのことへの強い課題意識が、産むにまつわる物語を問い直すプロジェクトにつながっています。

「産む」は個人的であると同時に、とても公共的なことがらです。
「産む」を考えるとは、未来を担う子どもたちを考えること。子どもなしに社会は未来に残らない。産み育てるひとの自己責任ではなく、だれもがすでに「産む」に関わっています。 しかし日々の中で「産む」について話しあう機会もなく、タブー視すらされている。
―――だからこそ、わたしなりの「産む」に向きあいはじめる場が必要です。

(展覧会「産まみ(む)めも」ステートメントより)

当事者、プレ当事者、クリエイターの3者によるワークショップを実施

本プロジェクトのスタートは、2022年4月。「産む」をめぐるさまざまな当事者へのリサーチとして、不妊治療や特別養子縁組の当事者及び当事者支援団体・NPO、不妊治療専門クリニックなどへヒアリングを行いました。

【写真】ワークショップで、シートを広げ、付箋に書き込んでいる手元がうつっている

そしてヒアリング内容をもとに、2022年9月から11月にかけて全4回のワークショップが開催されます。不妊治療・特別養子縁組の当事者の方、将来子どもを持つことを考えている方、アーティスト・クリエイターの3者を交えたチームをつくり、〈公共とデザイン〉のナビゲートのもとで対話を深めながら、「産む」について考え直す作品づくりの種をみつけていきました。

参加者からは「ワークショップによって、自身の『産む』に対する気持ちが、社会的な物語によるものであることを自覚できた」「不妊治療の悩みが軽くなった。いろんな背景の方の、多様な視点を知れたことで、悩みを客観的に見つめることができた」といった声が寄せられました。

【写真】キットの箱と中に入っているカードなど
体験談に基づいてつくられた演劇ツールキット「産magination」を使ったワークでは、不妊治療などのシーンにおけるやりとりなどを即興で演じることで、言語化できていなかった思いや無意識の偏見が露わになり、対話のきっかけが生まれました
【写真】ピンクと水色の、パイプのようなものでつくられたリング状のオブジェ
【写真】緑のスポンジでつくられた、カエルのような生き物の口から、白い紙がでているオブジェ
ワークショップ参加者が「産むを問い直すセレクトショップの商品」としてつくった作品。100円ショップにあるものでつくったこれらの作品の一部は、本展覧会でも展示されます

5組の参加作家と作品のご紹介

約2カ月のワークショップに参加した5組のアーティスト・クリエイターは、そこで得たインスピレーションをもとに、それぞれが作品制作を行いました。

美術家の井上裕加里さんは、プロジェクトを通して当事者と対話するなかで、「産む」に関する価値観や選択肢が想像以上に多様であることに驚いたといいます。今回取り組んだ映像作品では、特別養子縁組制度や里親制度を利用した経験のある当事者、もしくは利用を希望しているカップルに家族の絵を描いてもらい、それをもとに臨床心理士の方と対話する様子を撮影しました。「日常とは違う方法で自分と対峙する」ためのアプローチを記録した本作品は、家族観について見つめ直すきっかけを鑑賞者へ提供します。

【写真】
井上裕加里さん。東アジアの近現代に潜在する歴史認識、文化観の差異や関係性、地域性をテーマに映像作品を制作している

自身も不妊治療を経験したことがあるという、美術作家の碓井ゆいさんは、体外受精のプロセスで生まれる治療に使われなかった胚、「余剰胚」を擬人化し、その会話を読む作品を制作しました。不妊治療を経験していない人にはなかなか知られることがない「余剰胚」の存在や、その廃棄にまつわる葛藤、体外受精を支える「胚培養士」という職業にスポットライトを当てます。

【写真】
碓井ゆいさん。身の回りの素材や手芸の技法を用い、社会制度や歴史についての批評や考察を平面・立体作品で表現する(撮影:デルフィン・パロディ/提供:青森公立大学 国際芸術センター青森)

その他にも、建築コレクティブ〈GROUP〉は、異なる家族形態を持つ世帯が集まって暮らす住宅のあり方を調査・提案したモックアップを作成。コラボレーションした〈TAK.STUDIO〉と〈ふしぎデザイン〉のデザイナー2組は、セクシャルマイノリティや不妊治療中の方と話す中で生まれた、5種類の鳥の形をした張り子のお守り「ハリコドモ」をつくりました。

【写真】
異なる専門性をもつ5人からなる建築コレクティブ〈GROUP〉の大村高広さん(左)、齋藤直紀さん(右)。建築/美術/政治/労働/都市史の相互的な関係性に焦点を当てた活動を展開している
【写真】
越出つばささんと土田恭平さんからなる、東京を拠点とするアーティスト&デザインデュオ〈​​TAK.STUDIO〉。詩的な感性とインダストリアルの美学を融合させ、新しいプロダクトを作り出す
【写真】
〈ふしぎデザイン〉は、プロダクトデザイナーの秋山慶太が運営するデザインスタジオ。「作り、考え、伝えることで、ふしぎな価値を生み出す」というステートメントのもと、心を動かし共感を生むデザインを行う

産むか産まないかだけではなく、多様な選択肢を想像し、「一人ひとりの『産む』の物語を紡ぎなおすきっかけになること」を願う本展。「産む」を考えることは、一人ひとりがどう生きていくかを考えることにつながりそうです。

ぜひ会場へ足を運び、今の社会にある家族のイメージや、「産む」に対する自分自身の価値観を見つめ直してみませんか。