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観光地でも名所でもない、“共存社会”を訪ねる本。『ウェルフェア トリップ ―福祉の場をめぐる小さな旅―』発売
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しょえい
〈アノニマ・スタジオ〉から書籍『ウェルフェア トリップ ―福祉の場をめぐる小さな旅―』が発売されています

12の福祉施設や共同体を訪ねる一冊

「日常の生活から離れ、小さな旅をしたくなったら、どんなところを訪ねますか?」

そんな問いかけから始まる本があります。2021年12月2日に〈アノニマ・スタジオ〉から発売された、『ウェルフェア トリップ ―福祉の場をめぐる小さな旅―』です。

「私は福祉施設を訪ねます」と答えるのは、著者の羽塚順子さん。日本各地にある12の福祉施設や共同体を訪問し、「人間同士が支え合いともに生きるという本来の在り方」を伝えています。

福祉の現場を旅する「ウェルフェアトリップ」

著者の羽塚順子さんは、特別支援学級で障害のある児童に関わった経験があります。その後、フリーランスで書籍や雑誌、Webの企画編集、執筆に携わる中、友人からの声かけで福祉施設で作られた製品を組み合わせたオリジナルの引き出物セットを企画。かつて福祉施設に通う障害のある人たちがつくる製品は「授産品」と呼ばれていましたが、「もっと共感できる言葉にしたい」と「社会福祉=ウェルフェア」と「公正な取引=フェアトレード」を組み合わせて、「ウェルフェアトレード」と名付けました。

そこから障害者施設を中心に多くの出会いが生まれ、伝統技術の職人技を自閉症のある若者が継承するプロジェクトやアートイベントのコーディネートなど、福祉と企業・地域をつなぐ仕事づくりに携わってきました。

書籍のタイトルにもなっている「ウェルフェアトリップ」は、「ウェルフェアトレード」からの派生。社会福祉=Wel fare(より良くやっていく)と旅行=tripを組み合わせた造語です。本書では、長年福祉との関わりを持つ中で出会った魅力的な施設や人や取り組みを紹介しています。

ぐるんとびー
団地の一室を利用した、小規模多機能ホーム〈ぐるんとびー〉(神奈川県藤沢市)では、団地一階の外側のスペースを借りて定期的に野菜を販売するなどして地域と交流をしています

観光地でも名所でもない、共存社会を訪ねる

書籍の中で紹介されるのは、観光地でも名所でもない福祉施設や共同体です。しかし、羽塚さんは「何度も訪れたくなるコミュニティであり、尊敬する方たちがいて、末長く応援していきたいと思う、心惹かれる」場所であると、「はじめに」で語っています。

羽塚さんが本書で訪れるのは、児童福祉・障害者福祉・高齢者福祉の現場、そして少年院です。「北イタリア発祥のソーシャルファームを目指すオリーブ畑」のある〈埼玉福興〉(埼玉県熊谷市)や「伝統と福祉の連携で生み出される上質な和紙」をつくる〈一越会〉(群馬県前橋市)など。

描かれているのは、自分のやりたいことに夢中で取り組む障害のある人たちの様子や、野山にあるものを使って昔ながらの方法でものづくりをする施設の活動など。読み進めていくと、人間本来の生き方や持続可能な社会のかたちが見えてきます。

るんびにいびじゅつかん
知的に障害のある人による美術作品などを展示する〈るんびにい美術館〉(岩手県花巻市)。織物、コラージュ、切り絵、刺繍作品など様々な作品が作られています
きょうどうがくしゃしんとくのうじょう
心身にハンディを抱える人など、さまざまな背景を持つメンバーが共同生活をし、国内外で高い評価を集めるナチュラルチーズを生産する〈共働学舎新得農場〉(北海道上川郡)

居場所や生きがいを見つけるヒント

羽塚さんは「信頼できる仲間たちと『心地よい経済』を回したり、お金に換えられない体験や関係性ができたら、本当の意味での『豊かな生活』をつくりだせるかもしれません」と語ります。そして、福祉施設が、そのとっかかりになりうるとも言います。

福祉の現場は、縁がなければ「壁を隔てた向こう側」のような遠い存在に感じるかもしれませんが、訪ねたくなるヒントが詰まった場所です。本書は、羽塚さんと一緒に福祉の現場を巡っているような感覚で読み進めることができる一冊。福祉の現場が今はまだ身近ではない方も、まずは一読者として福祉の世界を旅してみませんか。