福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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こここなイッピン

刺繍と織りの雑貨〈暮らしランプ〉×〈POP.POP.POP〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

京都市に所在する〈一般社団法人 暮らしランプ〉と、ポップでカラフルなオリジナル商品を手がける〈POP.POP.POP〉とが出会い、日常を楽しく彩るアイテムが続々と誕生しています。商品のコラボから協働がスタートした2社ですが、その後は意外な展開に。

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「おもしろい」「楽しい」を共感しあえる関係性から生まれたコラボアイテム

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刺繍を大胆に配置し、大ぶりなコサージュをつけたようなデザインTシャツと、ショルダー部分に裂き織りを採用したリュック

夏が来ましたね。日焼けが気になる季節になりました。半袖焼け、イヤだなあ。でも、かわいいアームカバーって、ないよなあ……。

と、諦めていたあなた。ここにありますよ! とってもカラフルで、どこかエスニックな香り漂う、すてきなイッピンが!

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真ん中に縫い付けられているカラフルな織物は、古布を裂いて糸状にして織り込む「裂き織り」です。ちょっと斬新なデザイン……! と思いつつ、ひじ部分をカバーしてくれて、破れにくい。とっても理に適ってる。

商品名は「うでぬき」ですが、用途は自由。冬の寒い日のアーム&レッグウォーマーにもなり、事務作業時のアームカバーにもおすすめ。なんなら普段使いのおしゃれアイテムにも◎

こちらのトートバッグには、大ぶりな花のごとくパッと目を引くカラフル刺繍が。ぎっしりと重ねられた色糸が複雑で、美しい。どこかエレガントさも感じませんか。

ヒラヒラと揺れるピンクのリボンの存在感もすてき!

これらのアイテムは、京都府京都市にある〈一般社団法人 暮らしランプ〉と、ポップでカラフルなオリジナル商品を手がける京都系雑貨ユニット〈POP.POP.POP〉のコラボレーションから生まれています。

〈暮らしランプ〉は、就労継続支援B型事業所〈こきゅう+〉、生活介護事業所〈atelier uuu(アトリエ ウー)〉など、さまざまな事業を運営しており、所属するメンバーは事業所内作業のほか、それぞれの得意なことや好きなことを活動のひとつとして行っています。

裂き織りを手がけているのは、〈こきゅう+〉に所属する服部正吉さん。鮮やかな彩りを好み、四季折々の色彩を巧みに表現する裂き織りを得意としています。

一方の刺繍は、〈atelier uuu〉に所属する松本龍さんの作品。自身で色糸を選び、布に針が通らなくなるまで糸を重ねていくのが、松本さんの刺繍の特徴です。

これらの作品に「おもしろい!」と反応し、直感的な閃きとアレンジ力でユニークな商品へと昇華させるのが〈POP.POP.POP〉。その名の通り、ポップで、ビビッとアンテナに引っかかるようなアイテムが生まれてきました。

さまざまな“感性”と“素材”が入り交じったアイテムたち

〈暮らしランプ〉と〈POP.POP.POP〉のコラボがスタートしたのは2022年。それまでも〈暮らしランプ〉の活動のなかで生まれた作品は、タペストリーにしたり、さまざまなプロダクトにしたりしてきましたが、しばらくは作品を貯め、何かしらの形で発信するタイミングを見計らっていたといいます。

そんな数ある作品をたまたま目にしたのが〈POP.POP.POP〉。特に松本さんの作品に「ただの刺繍じゃない……!」と感銘を受け、これらを生かしたものづくりへの意欲が沸いたといいます。

〈暮らしランプ〉側も、メンバーの作品の魅力に共感してくれる人に出会えたことを喜び、2社のコラボレーションが進んでいくことになります。

刺繍や裂き織りを手掛けるメンバーの姿勢やものづくりの現場を見て感じ、よりおもしろい商品を生み出したいと、松本さんや服部さんのもとを訪ねた〈POP.POP.POP〉。そういった関わりのなかで完成したのが、Tシャツ、うでぬき、バッグ、リュックなどの商品です。

日常を楽しく彩るようなアイテムを前に「そうそう、 こういうのが欲しかったの!」と、見た瞬間に即決購入していくお客さんが多いのだとか。

ちなみに、「うでぬき」に使われている素材は、奈良県の工場から譲り受けた廃棄靴下。そのリブ部分と、〈POP.POP.POP〉の活動の中から出た端切れを縫い合わせて制作しています。また、裂き織りの織り糸にも不要となったアンティーク着物が使用されており、まさにクリエイティブ・リユースといえるアイテムです。

さまざまな感性と素材が合わさったこれらのイッピンに、あなたの物欲も刺激されたのではないでしょうか?

「福祉がそこに在った」という場所づくりを目指して

〈暮らしランプ〉は現在、就労継続支援B型、生活介護事業所、放課後等デイサービス、相談支援所のほか、コーヒーショップ&焙煎所〈NAKANOTEI COFFEE 蔵ROASTERY〉や、おばんざいとお酒の店〈なかの邸〉など、さまざまな事業を運営しています。

そのスタートとなったのは、障害のあるスタッフと共に週末だけオープンしていた〈カフェ3〉という小さな喫茶店。そこに集まってくる人たちの心地よい居場所づくりや、良好な関わり合いを模索し、一つひとつ重ねていった結果、現在のような多事業に発展していったといいます。

カフェと福祉事業所が併設された拠点。写真は〈NAKANOTEI COFFEE天王山〉の店内。〈暮らしランプ〉はカフェ事業にも力を入れており、コーヒー生豆のハンドピッキングや、ドリップパックの封入などがメンバーの作業となっている

〈カフェ3〉を立ち上げ、〈暮らしランプ〉の代表を務める森口誠さんは、事業への思いやイメージをこのように語ります。

「挨拶し合える人が増えたり、趣味の合う友だちができたり、訪ねてきてくれる人がいたり、あの人元気かな? と思い出してもらえたり。そういった人間関係が一人ひとりに生まれる場になればいいな、と思いながらやっています。僕らが願う福祉は誰かが誰かに与えるのではなく、みんながそこに居て、僕らもそこに居て、福祉がそこに在った、みたいな形だといいなと思っていて」

森口さんが大切にしているのは、なにかを狙ってのアクションではなく、「たまたまそうなった」という自然の成り行き。たまたまそこにいる誰かと共通の話題が生まれ、自然と仲良くなっていくような場を目指しているといいます。

「そういう場所は障害の有無は関係なく、いろんな人にとって心地がいいはずなんです。そんな場をつくり、最終的に良好な人間関係の構築につながってほしいと願って僕らは行動していきます」

コラボを経て生まれた、“楽しい”が共有できる新事業とは?

〈POP.POP.POP〉との関わりも、たまたまの出会いやタイミング、良好な人間関係の構築のなかで生まれたといえます。

〈カフェ3〉を訪れたことで〈暮らしランプ〉の存在を知った〈POP.POP.POP〉の本田北斗さん。森口さんの魅力に惹かれ、いつか一緒におもしろいことができたら――と思っていたといいます。

あるとき〈暮らしランプ〉が求人を出しているのを知り、介護福祉士の経験者でもある本田さんは職員募集に応募。それがきっかけとなって松本さんの刺繍を目にすることに。職員としての採用ではなく、商品のコラボレーターになるというユニークな経緯があります。

そうした協働を経て、2024年6月からは〈POP.POP.POP〉のアトリエ〈ひるねスタジオ〉に〈暮らしランプ〉のメンバーがお出かけし、一緒に創作を開始!

「僕がやりたいこと全部に『おもしろい!』って反応してくれはるのが森口さん。この人なら“楽しい”を共有しながら協働できるな! と思ったんです」(POP.POP.POP・本田さん)

〈ひるねスタジオ〉は生活介護事業所としての運営も目指しており、事業内容は創作活動がメイン。本格稼働に向けて少しずつ準備をスタートしており、ユニークな作品も続々と生まれているといいます。

〈ひるねスタジオ〉の様子。右側の手前から2番目の男性が〈POP.POP.POP〉の本田北斗さん、右奥の女性が〈POP.POP.POP〉のものづくり担当であり、テキスタイルデザイナーの小枝由佳さん

挨拶し合える人、趣味の合う友だち、訪ねてきてくれる人、あの人元気かな? と思い出してもらうこと、そんな人間関係が生まれる場――。森口さんが思い描く〈暮らしランプ〉のイメージは、まさに森口さん自身と〈POP.POP.POP〉の間でも体現されています。「おもしろい!」を共感し合うふたりから、今度はどんな共創が興るのでしょうか。

今回のイッピンはもちろん、〈ひるねスタジオ〉をはじめとする各事業所の活動や、そこから生まれる新アイテムにもぜひ注目してみてください!