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福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

こここなイッピン

マスクド☆ソックス〈まちこうばGROOVIN'〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

今回のイッピンは、その表情に愛嬌や哀愁さえも漂わすマスクマン人形「マスクド☆ソックス」。埼玉県東松山市にある〈まちこうばGROOVIN'〉に通うメンバーが描く覆面レスラーのイラストを忠実に再現したぬいぐるみです。

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反則も5カウントまでならアリ!? 架空の町「むさしらんざん町」で暮らすマスクマン人形

空中戦を繰り広げる、カラフルなコスチュームのマスクマンたち。その表情は闘魂に燃え……! という雰囲気はどこにもなく、どちらかといえば、闘志は感じられないおとぼけムード。

「マスクド☆ソックス」というシリーズで制作される覆面レスラーのぬいぐるみ。その素材は“靴下”がメイン。マスク部分などの布の重なりはボンドで貼りつけるのではなく、生地と色合わせた糸で縫いつけるという細やかさ。さらに目・鼻・口は刺繍や玉結びで描かれています。

さまざまなデザインマスクを被ってマントを翻し、キャラクターごとに個性を際立たせるマスクマン。それぞれに名前がつけられ、キャラクターの性格も職業も細かく設定されているというから驚きです。

さらに「むさしらんざん町」という埼玉県に実在する町を舞台のモチーフに、そこで暮らす彼らの物語まで用意されているそう。おもしろい!

右の赤い覆面レスラーの名前は、杜暮家健太郎(とぼけけんたろう)。むさしらんざん町役場・どーする課に勤務しており、口ぐせは「あ~明日休みたい」。水色のマスクマンは、むさしらんざん駅の近くにある〈喫茶ぶる~でいもん〉のわけありマスター・大沼五郎。星入りマスクマンは、むさしらんざん町で活動するロックバンドのドラム担当・星野流星。流星寺の長男で、木魚を高速で打つなどの悪評から、極悪坊主と呼ばれているそう(※すべて架空の設定です)

マスクマンの原作者は、施設のメンバー・ケンジさん

〈社会福祉法人 昴〉が埼玉県東松山市で運営する、障がいのある人たちが利用するアトリエ/ギャラリー〈まちこうばGROOVIN’〉。そこに通うケンジさんが描いた覆面レスラーのイラストを、その雰囲気そのままにぬいぐるみに落とし込んだのが「マスクド☆ソックス」です。

以前アトリエでは、創作活動として工作系を主に取り組んでいましたが、ある日の活動でメンバーに紙とペンを用意すると、それぞれが独特のおもしろさを持つイラストを描き始めました。そのなかで、ひと際目を引くイラストを描いていたのが、ケンジさんでした。

人や動物の絵を描くことが多いというケンジさんのイラストは、色彩豊かで、描かれたモチーフの表情はユーモアたっぷり。なによりも、無心の境地に至ったような(?)虚空を見つめる目に、ジワジワと心を惹きつけられる不思議な魅力がありました。そんなケンジさんのイラストに魅せられたスタッフの石平さんが「覆面レスラーを描いてみない?」と誘ったのが2010年のこと。

靴下でつくられたとは思えないクオリティ! フェルト製のマントが一体一体につけられています

ルチャリブレがモチーフ! マスクマンシリーズの誕生ストーリー

もともとプロレス好きという石平さんは、ルチャリブレ(覆面レスラーの多い、メキシカンスタイルのプロレス)のカタログ写真集をケンジさんに託すことに。それ以降、A6の小さな紙にマスクマンを描くことが日課になったケンジさん。それらはだんだんシリーズと化し、石平さん以外のスタッフも、ケンジさんのイラストに注目するようになります。

さらに石平さんは、同施設に通所し、独特の書体を描くことが得意なカズヒサさんにも声をかけ、「マスカラ・コントラ・マスカラ」というトリオを結成。〈かうんと5〉というNPO法人も立ち上げて、マスクマンを世に広めるべく活動を開始しました。ケンジさんが描くとぼけた表情の覆面レスラーと、石平さんがセレクトした意味深なテクスト、カズヒサさんの味わい深いフォントが盛り込まれることで、マスクマンの世界感はますますオリジナリティを高めていきました。

施設内だけでマスクマンを楽しむのはもったいない! と、小さなギャラリーで展示を行ったり、マスクマンの今後の展開を相談するべく、埼玉県が主催した「障害者アート マッチングサポート事業」にも参加。マスクマンに名前・性格・職業を設定してキャラクター化し、彼らの日常を描いた物語を制作してはどうか、というアドバイザーの提案を実践していきます。

また、〈まちこうばGROOVIN’〉の隣町である嵐山町をモチーフにした「むさしらんざん町」という架空の町を設定し、手づくりのマスクマン人形が巡るといったSNSの投稿もスタート。その物語をベースに、Tシャツ、ポストカード、マスクマン人形などをグッズ化するなかで、マスクマンはさまざまなかたちで多くの人に知られるようになりました。

5カウント間なら反則OK!? 架空の「むさしらんざん町」

むさしらんざん町は、絵にかいたようにローカルな町だ。もう“そのまんま”なのです。町をぶらついてみると、そこかしこで、“いい味”出している人や景色に出合うことができます。わざとじゃなく、自然にそうなっちゃった……だけなのです。

暮らしている人たちも、トボケた人たちが多く、この町をより味わい深いものにしています。町も人も、ひとことで言い表すのなら“いなたい”といった感じでしょうか?

変哲のない、古くからある、のどかなむさしらんざん駅。その近くには、ナポリタンが評判の〈喫茶ぶる~でいもん〉が。駅前通りは、飲み屋、菓子屋、商店が並んでいます。
(むさしらんざん町の説明より)

ローカル感満載のむさしらんざん町で、変哲のない日常を過ごすマスクマンたち。そんな彼らにも、ひとつの決まりごとがあります。それは「カウント5」というルール。

スポーツ界での反則には厳しい罰則が課せられますが、プロレスの世界では、5カウントまでは反則が許されるという独自のルールがあります。その5カウントは、観客が「待ってました!」ともっとも盛り上がる時間。むさしらんざん町には、ゆるい反則やアクシデントを許容するルールが設けられているのです。

「メイド・イン・武蔵嵐山」を目指す、マスクマン

マスクマン人形そのものは〈まちこうばGROOVIN’〉のスタッフが制作しています。ケンジさんは、あくまでマスクマンを描き、物語をかたちづくる原作者。その世界観を大切にしながら、スタッフが一体一体丁寧につくり上げています。

ゆくゆくは、裁縫の得意な嵐山の地域の方にマスクマン人形の制作を請け負ってもらい、「メイド・イン・武蔵嵐山」として、地域を代表するマスコットにしたいという夢を持つ〈まちこうばGROOVIN’〉。

ケンジさんの描く世界感とその魅力を、地域住民に共有しながら、地域ぐるみで盛り上げ、さらには障害のある人の暮らしや活動に関心を寄せてもらいたい。そんな願いがマスクマンには込められています。