福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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こここなイッピン

手びねりの植木鉢〈PALETTE〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

2019年に設立された〈PALETTE〉ののびのびとした創作環境のなか、新しいアイデアがどんどん形になっていく「植木鉢」。〈SOLSO FARM〉でも取り扱われる人気商品が誕生した背景とは?

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自由な創作環境と、メンバー同士が刺激し合うことで生まれる、大胆かつユニークな陶芸作品

ひとつひとつ手にとって、形状やサイズ、釉薬の色やその混ざり、手に伝わる質感を確認しながら「どんな植物を合わせようか」と思案したくなる、大胆な造形の「植木鉢」。

石垣を積み上げたようなもの、湯飲みのようなもの、鱗のような模様入り、耳飾りのついたテラコッタ風と、ありそうでないような、自由奔放な表現がなんとも魅力的です。

観葉植物とあわせてお部屋のインテリアに取り入れれば、とにかくインパクト大! グリーンの癒しに加え、目を楽しませてくれる特別な存在になること、請け合いです。

これらの植木鉢を制作しているのは、大阪府大阪市の障害福祉サービス事業所〈PALETTE(パレット)〉。この場所に集う人の個性を認め合い、協働のなかで新しい価値を生み出していく、まさに絵の具が交じり合う“パレット”のような場所を目指し、2019年に設立されました。

「菓子工房」「陶芸工房」「印刷工房・アトリエ」と3つの活動プログラムが用意されている同事業所。メンバーの創作意欲を刺激しながら、それぞれの好きや得意を生かせる「ものづくりの場」を提供しています。

今回ご紹介する植木鉢は、「陶芸工房」で活動するメンバーたちの個性や創造性の塊といえるイッピン。国内屈指のファームマーケット〈SOLSO FARM〉でも取り扱われる人気商品です。

そんな植木鉢の誕生は、メンバーによるちょっとしたハプニングに端を発して形になったとか⁉ 

「これ、植木鉢やん!」

「陶芸工房」で植木鉢を制作するのは、主に生活介護を利用するメンバー。粘土の成形、着色、焼成、納品に至るまで、ほぼ全ての作業を担っています。

かつては他エリアの事業所に卸す食器制作が中心でしたが、メンバーの創造性を生かせる陶芸の可能性を模索していました。

そんなある日、工房で作業をしていたメンバーが、マグカップの底に穴を開けたことがありました。その時のことを、施設長の嶋岡真人さんはこのように振り返ります。

「これ、植木鉢やん! って思いまして(笑)。でも同時に、植木鉢っておもしろいかも、と感じたんです。もともと観葉植物の展開にも興味があったので、例えば植物を扱う専門店に鉢を卸して、それに見合った植物をチョイスしてもらえたら、おもしろいプロダクトになるんじゃないかな? と考えました」

さっそく〈PALETTE〉が問い合わせたのは、グリーン愛好家から絶大な人気を得る〈SOLSO FARM〉。先方からは思わぬ好反応を得て、コラボレーションに発展。2022年から〈SOLSO〉の各店舗で販売がスタートし、大小さまざまな植木鉢に多肉植物などが植えられ、購入者のもとへ旅立っていきました。

植木鉢の売り上げによる工賃還元から、自身の手掛けた作品が売れたことを知ったメンバーたち。その喜びは植木鉢の制作にも現れ、人気のあるデザインの傾向を研究するなど、メンバー自らが工夫するようになったといいます。

かつて陶芸教室で働いていたスタッフが、粘土の扱い方や器のつくり方といった基礎を教え、その後はメンバーの自由な発想やスタイルで制作している植木鉢。〈SOLSO〉からは「どんな鉢が納品されるか、楽しみにしているスタッフが多い」という声が届いているのだとか

刺激し合うことから生まれる、多様なコミュニケーション

メンバーの笑い声や、フリースタイルのラップが聞こえてきたり、ときには喧嘩も勃発するという、賑やかな〈PALETTE〉の工房。メンバーたちは大きなテーブルに向き合って座り、前日の阪神タイガースの試合展開を語ったり、気の合う者同士でおしゃべりを楽しみながら、手を動かしているといいます。

そうしたなかで、それぞれの作品を見て刺激し合い、「かっこいい」「すてき」と感じた誰かの意匠を自身の作品に取り込むなど、メンバーのものづくりにはさまざまな変化が。

「団子がつくりたいねん!」と粘土を丸めることにこだわるメンバーは、ある日「団子を積み重ねて器にしてみませんか?」というスタッフの提案を受け入れます。その作業も案外楽しいと感じたのか、現在も団子を積んだエキセントリックな植木鉢制作に励み、評判を得ているのだとか。

さらにはその作品に影響され、団子で鉢をつくるメンバーも複数名いるのだそう。言葉のコミュニケーションだけでなく、ものづくりを通じたコミュニケーションも生まれているようです。

釉薬は「伝統釉」のほか、口に入っても害がなく、絵の具のように塗れ、焼いても色が変わりにくい「SC釉」を使用。制作に慣れるにつれ、本格的な伝統釉にシフトしたり、釉薬をミックスさせたりと、メンバーは自由な発想で着色や装飾を楽しんでいます

「陶芸工房」で制作されているのは植木鉢だけでなく、動物の置物や、マグカップのみつくるメンバーも。それらの創作も〈PALETTE〉では尊重されています。

「メンバーの活動が社会につながっていけばいいなと思いつつ、それでも一番大切にしたいのは、生きがい・やりがいを持って楽しく過ごすこと。メンバーの『今やりたい!』という衝動を、可能な限りサポートするようにしています」(嶋岡さん)

達成感、自信、モチベーションが循環するものづくり

陶芸をはじめ、さまざまな表現活動に力を入れている〈PALETTE〉ですが、その根底には過去の活動のなかで感じてきた課題に向き合ったテーマが据えられています。

〈PALETTE〉の母体となる社会福祉法人の事業所で行われていた絵画教室には、表現活動に積極的で、魅力的な作品を生み出すメンバーが多く在籍していました。それらの作品を社会に発信する「くるむプロジェクト」を立ち上げ、ユニークなプロダクトが数々制作されてきました。

一方で、それらの活動のなかで、気がかりに感じる状況もあったといいます。

「さまざまな作品の中から、スタッフ側で“売れやすい絵”を選んで商品化する状況もあって。その商品を原作者であるメンバーに見せても、ものづくりに関わっていないからか、あまり興味を示してくれないんです。これって、どこか利用者さんの感情を置いてきぼりにしているんじゃないか……? と感じるようになっていました」(嶋岡さん)

その後、メンバーの表現活動を後押ししつつ、苦手の克服ではなく、好き・得意・興味のあることで社会とつながれる場所をつくろうと、「くるむプロジェクト」を統合する形で〈PALETTE〉の設立が計画されます。

そのコンセプトづくりの段階で決定し、現在も事業所の活動の特徴となっているのが「デザインから販売まで事業所内で完結させる」というもの。

「イラストや作品だけで参加するのではなく、検品・プリント・縫製といった過程にも『自分が関わっている』と思えることが大事だと思っています。商品が完成することで達成感につながり、それが売れると自信につながっていく。その自信が、また新しいプロダクトづくりへのモチベーションになる。そんな好循環が生まれる場所にしたいという思いが強くありました」(嶋岡さん)

〈PALETTE〉の活動からうまれるプロダクトは、メンバーの好きや得意、情熱、遊び心といったものがそのまま形になったような魅力をまとっています。それは事業所が目指す好循環のなかで生まれたメンバーの自信やモチベーションが表層化したものかもしれません。

大阪市淀川区に新設された建物も、利用する人の居心地を重視した特徴的な造りになっています。1階のギャラリー&ショップは常時誰でも入館でき、ここで生まれたプロダクトも購入可能です。陶芸作品、雑貨、アパレル、焼き菓子など、グッと心掴まれるイッピンに出会えるはず! ぜひ一度、訪ねてみてはいかがでしょうか。