福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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こここなイッピン

ラグミトン&ミノムシブローチ〈TEN TONE〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

〈ソーシャル・グッド・ロースターズ〉などを運営する〈一般社団法人ビーンズ〉の就労継続支援B型事業所〈TEN TONE〉のものづくりをご紹介! この冬、ちょっとユニークで楽しいプレゼントを探している方にはピッタリなイッピンです。

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メンバーの個性やカラーが生きている! 十人十色のものづくり

寒い日は、あったかい服装にプラスして、“見た目”にも温もりのあるアイテムを加えてみるのはどうでしょう? モコモコ手袋、ふんわりマフラー、ボアのバッグ、耳まで覆うニット帽など。冬モチーフのブローチもいいかもしれません。それらを目にするだけで、寒さが和らぐような気がするのは不思議です。

さて、今回のイッピンは、目にもあたたかな「ラグミトン」。野球のグローブほどありそうなボリューム感! 装着すれば見た目そのままのあたたかさで、自転車で風を切っても完全防寒まちがいなし。対向者の視線もばっちりゲットです。

毛糸の種類もさまざまで、絶妙なカラーリング。よく見れば、裂いた布が紛れ込んでいるのを発見

そしてもうひとつ、今回ご紹介したいイッピンが「ミノムシブローチ」。ラグミトンと同様、さまざまな糸や裂き布でボリュームたっぷりに織られ、ミノムシの形そのままに仕上げられています。

ミノだけでも約10センチ、紐を加えれば30センチ近くもあるビッグブローチ。存在感たっぷりかつ、ほっこりしたビジュアルに、気持ちまでほんのりあたたかくなる……かも?

近年めっきり見かけなくなったミノムシ。まさかこんなところで遭遇するとは!ドラマの美術として使われたこともあるのだとか

メンバーに“はまる”ものづくりとは? 実験的作業から生まれるアイテム

東京都渋谷区で「アート・クリエイティブ」「木工」「アパレル」という3つの軸で創作活動を行っている就労継続支援B型事業所〈TEN TONE(テントーン)〉。今回のイッピンは、そのアパレル部門にて制作されています。

日々6~7名のメンバーが、刺繍、それらを使ったブローチやトートバッグなどを手がけており、3年ほど前からは手織りラグの制作もスタートしました。そして、そのラグづくりから派生したのが今回のイッピン、ラグミトンとミノムシブローチです。

アパレル部門で、メンバーが手織りで制作しているラグ。木工部門ではバターナイフや木のブローチなどを制作。アート・クリエイティブ部門ではメンバーが描いたイラストをレターセットやノートなどにして販売したり。最近は詩を書くメンバーも増えたことから、詩集の制作も行われています

ラグづくりにおいては、絵柄やモチーフが次々に湧いてくるメンバーもいれば、織りは得意でも絵柄を考えるのが苦手なメンバーもいます。後者のメンバーが悩まずにつくれるアイテムは何か、スタッフがさまざまに考えるなかで、試しに制作してみたのがミトンでした。

ラグをつくる要領で、メンバーに絵柄を入れずに楕円形に織ってもらい、ミトンの甲に縫い付けてみると、想像以上にユニークなアイテムが完成。絵柄はなくても、配色や素材にこだわったメンバーのラグ織りがおもしろい形になった瞬間でした。

今ではアパレル部門の活動にラグミトンづくりが加わり、絵柄を考えるのが得意なメンバーも制作。左右合わせてひとつの絵柄になるようなユニークなラグミトンも生まれています。

このラグミトンの織りを担当したメンバーのUNOさんは「初めてつくったときは、うまくいくかな……? 思ったんですが、途中から毛糸の色や種類などでいろいろチャレンジして仕上げたんです」と話してくれました

ミノムシブローチも同様の経緯から誕生し、寄贈された毛糸類や裂いた布などを活用して、ラグと同様に織られたもの。今や品薄状態の人気商品に!

メンバーの得意や不得意に向き合い、どんな作業が“はまる”のか、メンバーの反応を見ながらトライ&エラーを繰り返しているというスタッフたち。ラグミトンも、ミノムシブローチも、そのような実験的制作や試行錯誤から生まれました。

現在も実験的制作はさまざまに行われており、最近はミシン刺繍や羊毛フェルトを使った柄制作などもスタートしているのだとか。

服でもバッグでも、つけ方も購入者次第というミノムシブローチ。ミノの形をハサミでカットして整えたり、紐も好みの長さにしてOK。写真は安全ピンがついたブローチですが、挟むタイプのピンがついたブローチも制作されています

つくり手らしさや個性を残す

一人ひとりが“個性を生かした仕事”を選びとり、“心地よい場をつくること”をコンセプトに、2016年9月に設立された〈TEN TONE〉。

その母体である〈一般社団法人ビーンズ〉は、放課後等デイサービス〈豆庭〉や、共同生活援助施設〈Mamesso〉のほか、コーヒー焙煎所&カフェ〈ソーシャル・グッド・ロースターズ〉や、クラフトビール醸造所〈方南ローカル・グッド・ブリュワーズ〉なども運営しています。

さまざまな事業を展開する〈一般社団法人ビーンズ〉の思いはいずれも、障害のある人一人ひとりの“自己決定”と“自己実現”の場をつくること。〈TEN TONE〉でも、「アート・クリエイティブ」「木工」「アパレル」の3軸から、メンバー自身が興味のある分野を選択でき、日々の活動としています。

「ものづくりのなかで『こうしたほうがいいんじゃない?』『私はこうしたい!』という意見がメンバーさんからあがってくるのがおもしろくて。メンバーとスタッフとで意見交換みたいなことが始まるんです」

そのように話す指導員・土井直也さんは、自身も作家活動をするアーティストで、主にアパレル部門の活動をサポートしています。そんな土井さんは、「メンバーの意思が言葉として出てくることは、作品や商品ができること以上に重要」だといいます。

作品を媒介にして、メンバーは自身の意見や考えを声に出し、スタッフはその声を受け止め、意見を交換しながら、メンバーと共に作品化していく。〈TEN TONE〉でも、メンバーの“自己決定”や“自己実現”が尊重され、作品に落とし込まれています。

贈り物のやり取りが多くなる冬の季節。相手をびっくりさせるような、ちょっとユニークで楽しいプレゼントを探している方にはピッタリのアイテムかもしれません

〈TEN TONE〉のさまざまな作品を眺めていると、それらに宿るメンバーの個性やカラーといったものを強く感じられるかもしれません。

「つくり手らしさ、その人の個性を残したものを商品にしたいという思いがあります。最終的な仕上げにはスタッフの手が加わることも多いですが、それでも“手をつけすぎない”ことを心がけています」

と語る〈TEN TONE〉管理者の川田祐士さん。「十人十色」という施設名をそのまま体現するようなものづくりの場となっているようです。

原宿の〈ハラカド〉にて実演販売も実施中!

都内を中心に、さまざまな福祉イベントや販売会に積極的に参加している〈TEN TONE〉。最近では原宿に誕生したばかりの〈ハラカド〉内にある〈シブヤフォントラボ〉にて、月に1回の実演販売も行われています。ラグミトンの原形である手織りラグ、木工部門で制作されているバターナイフの制作風景などを目にすることができるかも。

また、第3水曜日には、渋谷区の事業所内で定期販売会も開催。デザイン雑貨や、ハンドメイドクラフトを手にするチャンス。それらを手がけたメンバーにも出会えるかもしれません。ぜひTEN TONEの十人十色のプロダクトが生まれる現場に立ち会ってみてはいかがでしょうか?