福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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こここなイッピン

久万の森から生まれるプロダクト〈DOCU〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

良質な木材を産出する愛媛県の久万地域で、林業、福祉施設、クリエイターによるプロジェクトがスタート。地域をリサーチするなかでの気づきや思いを形にした5つのプロダクトをご紹介します。

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デザイン力で課題を魅力に変えた、愛媛の「林福連携」プロジェクト

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深呼吸をしたくなるような、清々しい白木の香り立つプロダクト〈DOCU(ドキュ)〉。良質な木材を産出する愛媛県の久万地域で林業を営む〈久万造林〉のヒノキ材を用い、5人のデザイナーや建築家がアイテムを企画・デザイン。そして、愛媛県松山市で木工を得意とする福祉作業所〈社会福祉法人 宗友福祉会うさぎ堂〉が制作を行うイッピンです。

無垢のヒノキ材からなる「bou」。特別な工具を使わずに自身で組み立てられるキットとしても販売されています(Design:Takeshi Nishio)

まるで帽子を逆さにしたようなユニークな形状のアイテムの名は「bou」。踏み台やスツール、ひっくり返せばバスケットとしても使えます。子どもでも簡単に持ち運べる軽量さでありながら、強度にも長けたデザインに。

伝統的な木工法・挽曲げを、現代の技術から改良した「ACU」。写真は2024年の旧型で、現在は切り込み数を増やして強度を高めた最新型が販売されています(Design:Akihiro Kumagaya)

こちらはブックシェルフかつ、椅子としても企画された「ACU」。やわらかい陽の差す場所に置いて、お気に入りの読書スペースにするのはどうでしょう。

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小さなこどもが舐めても安全なように、塗装なしの白木仕上げになっている「Alive」。制作に関わるメンバーたちからは「くまさん」と呼ばれているのだとか(Design:Shuhei Nagao)

そして、子どもの玩具やオブジェとしても愛らしい「Alive」。ツルンと丸みを帯びたもの、カクカクしたもの、木の節や虫食いの跡があるもの。ひとつひとつ形状が異なる、世にふたつとない動物型の造形です。

ほかにも、30ピースからなる木製立体パズル「Mokke」や、トレーやペン立てなど用途の自由な「SURF」と、5人のクリエイターが久万の地域や福祉作業所を巡り、森や人との関係をつむぎながら、それぞれが抱いた思いや発見を形にしました。

現在は5つのアイテムが展開されており、それらの制作には〈うさぎ堂〉に所属する障害のあるメンバーたちが関わっています。

木材に埋め込まれた磁石で自由に形づくる「Mokke」。子どもの創造力を発揮する知育玩具にいかが?(Design:Kodai Iwamoto)
日常のなかの“必要”と“無駄”の間を行ったり来たりしながら、独自の立ち位置に存在するというコンセプトで制作された「SURF」。デスクトレイやペン立てなど、使い方を自由に設計できるユニークなプロダクト(Design:Rui Itasaka)

木工を得意とする〈うさぎ堂〉の、とある悩み

就労継続支援B型と生活介護の事業所として、2019年に開設された〈うさぎ堂〉。その工房内には、コンピュータ制御で木材を加工する「NCルーター」など、先進的な機械装置が40基以上も導入されています。メンバーたちはこれらの機械に木材をセットしたり、形になったパーツにヤスリをかけたり、加工時に出た木くずなどを掃除したりと、日々さまざまな作業を担っています。

〈DOCU〉がスタートする以前は、神輿や葬儀用道具の制作、薪の製造などがメンバーの主な活動でした。しかし、パーツをヤスリで削りすぎてしまうというメンバーの特性から商品として出せないものが多くあり、また現状の仕事では高性能機械の稼働率をあげられないという施設側の課題があったといいます。

そんななか、林野庁が実施する「林福連携」の助成事業を知った〈うさぎ堂〉。林業、木材産業者、福祉関係者、そしてクリエイターなどの連携による木材製品の開発を後押しするという事業でした。

〈うさぎ堂〉職員の槙野賢児さんを中心に事業への申請を進めるなかで、協業を引き受けてくれたのが、久万の森で150年に渡って林業を営む〈久万造林〉の井部健太郎さんと、デザイナーやディレクターとして活動する西尾健史さん、熊谷彰博さんでした。

クリエイターたちの着眼点で、“課題”を“魅力”に変える

そうして〈DOCU〉の活動がスタートしたのは2022年。西尾さんと熊谷さんを中心として、グラフィックデザイナー、建築家、プロダクトデザイナー、フォトグラファー、ライターなどが集結し、松山にて合宿ミーティングを重ね、森を歩き、人を訪ね、久万という地域をリサーチしてきました。

〈うさぎ堂〉の工房を訪ねた折、クリエイターたちは不思議な光景を目にします。それは、木材のヤスリがけに使う“作業机”の様相でした。

研磨の際、いつの間にか机の縁まで大きく削り、なかには穴まで空けてしまうこともあるというメンバーたち。机を変容させるほどの集中力でヤスリがけを行うメンバーの手仕事に、クリエイターたちは大きな驚きを覚えたといいます。

「それらを特性と捉えたプロダクトをデザインできないだろうか?」

そんなクリエイターの着眼点から生まれたのが「Alive」。NCルーターを使って木材を動物型に切り出し、メンバーの自由な研磨で仕上げるという、新しい観点のデザインプロセスを企画。ヤスリで削りすぎて商品にならないという課題を、むしろ魅力に変えたプロダクトが誕生しました。

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ひとつの木材を2~4人で削ることもあり、ますます個性を帯びていく「Alive」。足裏には、研磨を行った全メンバーのイニシャルが入っています

また、難易度の高い作業をメンバーにチャレンジしてもらい、技術や自信を高めていくことにもつながるプロダクトにしたいと企画されたのが「ACU」。

NCルーターで正確な切り込みと角度をつけた木材をしばらくお湯に浸け、グイッと曲げると、強度も担保されたアーチ型に。そんな曲げの作業もメンバーの仕事として定着しています。

〈DOCU〉というプロジェクトが立ち上がったことで、〈うさぎ堂〉ではメンバー自らがやりたい作業を選択して関わるという状況が生まれ始めているといいます。

人々が出会い、関係を育み、機会を得て体験し、取捨選択することは、一般的にはありふれた営みです。一方で、障害のあるメンバーにそのような機会を用意できていなかったのでは……と、本プロジェクトを通じて気づき、支援者として省みることが多々あったと〈DOCU〉の一員でもあり、〈うさぎ堂〉職員の槙野さんは語ります。

取り組みをドキュメントし、“あるがまま”を発信する

商品を企画した5人のクリエイターだけでなく、フォトグラファーやライターもプロジェクトのスタート時から活動を共にしています。林業の現場、製材所での作業、〈うさぎ堂〉の職員やメンバーの日々の活動の様子など、〈DOCU〉に関わるモノゴトを写真や動画、文章などで記録してきました。

製品の魅力を伝えるだけでなく、どのような場所で、どんな人が関わり、どんなプロセスで生まれたものなのか――地域・人・ものづくりの“あるがまま”を伝えるドキュメンタリーとして発信したいという思いがあったといいます。

〈DOCU〉の公式サイトでは、現地の写真や動画に加え、関係者へのインタビューも発信。プロダクトの資材を提供する〈久万造林〉の井部さんを取材した記事「DOCUの木が生まれる愛媛県久万のこと」では、久万の山に木を植えた初代の話、植林が生んだ地域の活性、人と自然の共存を目指す「黄金の森プロジェクト」のことなど、久万という地域がありありと目に浮かぶようなインタビューも公開されています。

ものづくりの過程で、山や森の多様性に寄与することも〈DOCU〉が当初から掲げている目的のひとつ。適切なタイミングで木を択伐して多種多様な樹種を植え、間引いた木でプロダクトをつくる。消費によって森の環境を整える仕組みもつくりたいと〈DOCU〉のメンバーは語ります

今後も、関係者のインタビューの順次公開、各地の福祉作業所や思いを共にする人との対談、写真集の発行なども視野に入れ、活動をドキュメントしていく予定なのだとか。

ものづくりの面でも、既存商品のアップデート、新デザイナーを招いての商品開発、プロダクトを活用した空間コーディネートなど、各クリエイターの得意を生かした事業展開を予定しているといいます。

今後、セレクトショップやポップアップなどで〈DOCU〉のプロダクトを見かけることがきっとあるはず! ぜひ手に取り、久万の森やプロジェクトの思いを感じてみてください。

2025年1月、ドイツで行われるデザイン・コンペティション「iF DESIGN AWARD 2025」にて〈DOCU〉の取り組みが評価され、プロダクト部門とホームファニチャー部門を受賞しました