福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

こここ文庫

エル・ブリの一日―アイデア、創作メソッド、創造性の秘密 フェラン・アドリア、ジュリ・ソレル、アルベルト・アドリア(著)

本を入り口に「個と個で一緒にできること」のヒントをたずねる「こここ文庫」。

今回の選者は認知特性や興味関心に合わせた学びの仕組みを提案する、株式会社SPACE 代表取締役の福本理恵さん。「創造性を持って自分らしく生きるための一冊」をご紹介いただきました。

食と学びをテーマに活動してきた福本さんが選んだのは、スペインの伝説的レストラン「エル・ブリ(elBulli)」の料理をめぐる挑戦を綴った一冊です。

【画像】白地に黒文字でタイトルが書かれた表紙画像
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答えのない人生のつくり方 ー試行錯誤による創造性の解放ー

探究すること、触れること、味わうこと、分析すること。どこから始めても、それぞれに異なる道筋を通っても、いずれは新しい料理にたどり着く

『エル・ブリの一日―アイデア、創作メソッド、創造性の秘密』P.64-65


世界に衝撃を与えた、伝説のレストラン「エル・ブリ」

「人生のレシピに正解はない」

従来の料理の概念を覆し、トランスフォーメーションさせたスペインの伝説的三ツ星レストラン「エル・ブリ」。今では幻となった「エル・ブリ」にて、フェラン・アドリアを中心とするシェフたちが試行錯誤を繰り返して奮闘する姿に、創造性への挑戦が垣間見れる一冊です。

この一冊が届けてくれるメッセージは、自分らしい人生を創造するためにどのような姿勢が必要なのかということ。試行錯誤から生み出される料理の数々は、答えのない人生のつくり方ととてもよく似ています。

たとえば、「エル・ブリ」を代表する「エスプーマ」という調理法があります。エスプーマは、白インゲン豆をサイフォンを使ってクリーム状に仕上げる調理法です。ムースよりも軽い食感をなんとか出したいという中で考案されました。今ではサイフォンの原理を用いた料理を出すレストランも一般的になりましたが、当時はインゲンを泡のフォーム状にするという発想すらありません。この斬新な調理法は、衝撃をもって世界に迎えられました。既存のやり方に捉われず、伝統と革新の境界を飛び越える「エル・ブリ」の姿勢がこの代表作に現れています。彼らのキッチンで新しい料理が開発されるプロセスには、創造的な学びのエッセンスがギュッと詰まっています。

子どもたちから学んだ「好奇心」の大切さ

これまでの約10年、私は個性豊かな子どもたちとともに学校の枠を超えた教育を実践してきました。独特かつ強烈な興味関心を持っていたり、認知やアウトプットの方法が個性的だったり。既存の道を自ら外れた彼ら彼女らの人生のつくり方は、まさに「エル・ブリ」的です。決まったレシピは持たず、素材の味見をしながら、未知の世界へとトライアンドエラーを繰り返す。そしてその旅路で自分らしい学びのレシピを生んでいく。

当時16歳だったある少年は「鯉のぼり」に魅せられて、日本に活力を生む存在としての鯉のぼりに特化したニッチなブランドを自ら立ち上げました。その過程では自然のモチーフにインスパイアされつつ、伝統的な染めの技術を試したり、北欧のスタイルと融合するデザインを試したりしながらオリジナリティの高い鯉のぼりを生み出していきました。

私がこれまでに出会った子どもたちは、その人生や存在そのものが、決して他のものに置き換えられることのないユニークさを放っていました。それはきっと、誰かが決めたやり方を踏襲せず、自分の五感をフルに活用して自ら試し続ける人生の実践者だからなのだと思います。

好奇心をくすぐる目の前の「素材」に手を伸ばし、その魅力を発掘していく時間への没頭は、感性や創造性を開放し、新しい発見へと導きます。そこに欠かせないのは「好奇心」と「試行錯誤できる余白」です。決まった道を外れて寄り道を歓迎できる時にこそ、人生がドライブするタイミングなのかもしれません。

本来、「学び」とは自分らしい人生を創造するためにこそ意味をなします。その意味においては、「エル・ブリ」的な姿勢はきっと答えのない人生を創り出すためのメソッドのヒントを与えてくれるのではないでしょうか。