こここ文庫
あたらしいほうりつの本 2018年改訂版 又村あおい(著)
本を入り口に「個と個で一緒にできること」のヒントをたずねる「こここ文庫」。今回は、福島県の猪苗代町にある「はじまりの美術館」学芸員の大政愛さんに「福祉を学ぶ一冊」を選んでいただきました。
もともと美術を専門にしながら、障害のある人の作品を扱ったり、福祉施設と関わって企画をしている大政さん。知らない専門用語に出会ったときに、とても助けられているという一冊です。
更新されていく福祉の制度や法律をわかりやすく
今の制度の多くは、皆さん住んでいる市町村の役所で手続きをして、決定を受けないと使うことができません。そして、どういうサービスが使えるのかは、できるだけ自分で調べる必要があります。(この本では)障害のある人が地域でくらしていくために必要なサービスを、できるだけわかりやすく紹介するように心がけました。
『あたらしいほうりつの本 2018年改訂版 』P.2「はじめに」
「今日は“ヘルプ”で、◯◯さんと一緒にはじまりの美術館に来たんです」
私は社会福祉法人が運営する美術館で働いている。直接支援をすることはほとんどないが、時々デジタルアーカイブのために撮影に行ったり創作の様子を見させていただいたりすることがある。一番よく行く事業所は「地域生活サポートセンター パッソ」。創作活動やドライブなど、日中を楽しく過ごすために多くのメンバーが利用している。
冒頭の言葉は、ある日、パッソのメンバーとスタッフが美術館に来館したときの言葉だ。「ヘルプで美術館に行く」。そのときは、ピンチヒッターで支援に入っているのかと思った。だが実際はそうではなく、パッソでは「居宅介護(通称:ヘルプ)」という事業も行っており、特に移動支援(おでかけ)が多く、その支援の一環で美術館に来たという話だった。
思えば、働き始めてから初めてきいた言葉がいくつかある。
「ジハツ」
「ホウデイ」
「セワニン」
「A型/B型」
意味は説明できなくとも、なんとなくニュアンスはわかる。でも、なんとなくじゃよくないよな。なにかないかな、と思っていたときに出会ったのがこの本だった。
あるイベントで福祉関連書籍が並ぶなか、パッと青い表紙が目をひいた。中身は私がなんとなく聞いたことがあって、知りたかったことが、イラストや表、そしてやさしい言葉で体系化されていた。特に本書では暮らしや生活・仕事などに寄り添ったサービスや支援について丁寧に解説されている。
福祉も制度も法律も、どんどん更新されていく。この本は障害のある方ご本人やご家族の方も読みやすいようにやさしくつくられた本で、きっとより生きやすくなるための軸になる一冊だと思う。ちなみに、私が当時から関心のある「意思決定支援」についてもコラムで解説されている。どこかで聞いたことがある言葉たちを整理したり、ふと立ち止まったりしたときに役立つ一冊だ。
information
あたらしいほうりつの本 2018年改訂版
又村あおい(著)
- 出版社:全国手をつなぐ育成会連合会
- 発売年:2018年
- ISBN:978-4909695017
- >本の入手方法は発行元のウェブサイトからご覧ください