こここ編集部より

編集後記〈西淡路希望の家〉——アトリエ記事&まほぴさん対談記事
編集後記

  1. トップ
  2. こここ編集部より
  3. 編集後記〈西淡路希望の家〉——アトリエ記事&まほぴさん対談記事

【写真】スマホを見せながら会話しつつ、道を歩いている
取材中の一幕。〈西淡路希望の家〉のスタッフ金武啓子さんと、歌人の「まほぴ」こと岡本真帆さん(撮影:進士三紗)

『スーパーハイパーカレンダーメモ帳』『ポテトブローチ』『チラシロンT』『ジャスティンポーチ』……わかるようでわからない、不思議な名前が並ぶ〈西淡路希望の家〉のECサイト。みなさんは訪れたことがありますか?

これらはぜんぶ、生活介護事業所である同施設の利用者さんの創作物に、スタッフさんの“ひと工夫”が加わってできたアイテムです。『ともさんCAP』『たけしトートバッグ』『てつやきゅう人形』など、作者の名前を冠したアイテムも多数あり、それぞれに熱烈なファンがついています。

見るだけで楽しい〈西淡路希望の家〉のBASE

大阪の施設であるがゆえに、編集部が「こここなイッピン市」で商品を販売させていただくと、「こっち(東京)で買える貴重なチャンスなので……」とわざわざ訪れる人がいるほど人気の〈西淡路希望の家〉。〈こここ〉でもついに2023年1月、念願の取材をさせてもらいました!

半日にわたる濃厚な取材は、歌人の「まほぴ」こと岡本真帆さんも同席いただいたうえで、「アトリエにおじゃまします」と「対談」の2本の記事として先日公開しています。ぜひ本記事を読んでほしい!と思いつつ、このブログでは本編に入れられなかったエピソードや写真を、担当した佐々木が振り返ってみます。

引っ越し前後の〈西淡路希望の家〉訪問!

〈西淡路希望の家〉は、主に知的障害のある方が通う生活介護事業所です。現在70名ほどの方が利用し、就労から表現活動まで、個々のニーズに合わせた取り組みを行っています。

1記事目の訪問記では、まず施設の各部屋にお邪魔して、その様子を拝見。〈西淡路希望の家〉ならではの班編成をベースに、利用する方々の特性などに合わせた活動がされていました。

執筆者の北川由依さんが記しているように、「壁に吊るされた絵や布、無造作に置かれた道具類から、利用者のみなさんにとって創作活動が身近なものであることや、のびのびと生活していることが伝わってくる」のが、本当に印象深かったです。

ひとつ裏話としては(といいつつ本文でも明かしていることなのですが)、〈西淡路希望の家〉は関連施設の建替えに伴い、2022年末〜2023年明けにかけて、縫製スタッフさんが作業を行っていた部屋と、商品作りとは別の「美術部」の活動で使っていた部屋の、近隣への移転が決まっていました。

そこで1月の取材の前に、フォトグラファーの進士さんと編集担当の僕とで事前訪問を実施。どこまで本記事で使うかは未定でしたが、せっかくなので引っ越し前の最後の状態を記録させていただきました。

【写真】奥に台所、手前に台があり、無造作にさまざまなものが置かれている
2022年11月時点の、4階の「縫製の部屋」(撮影:進士三紗)
【写真】壁に布や刺繍、チラシなどを素材にした鞄類が多数かけられている
下のフロアで作られた利用者さんの創作物から、さまざまな商品がこの部屋で生み出されてきました(撮影:進士三紗)

「縫製の部屋」についてはその後、引っ越し先(近くの一軒家)の整理が進んだので、そちらで改めて1月の取材時にたくさん撮影させてもらっています。ぜひ本記事にて。

スタッフの金武啓子さんも、在庫管理のしやすさや地域の“拠点”としての役割など、新しい部屋への期待をのぞかせていました。

一方で以前の部屋には、商品化に力を入れるようになって以来、十数年使われてきた歴史を物語るようにアイテムが所狭しと置かれていました。ずらっと壁に掛けられたり、上から吊るされたり……それぞれ強い存在感を放っていて、両方の部屋も見せていただける貴重な機会になりました。

【写真】「えのへや」の文字とデコレーションがされた木の板が、廊下の手すりの上に置かれている
「えのへや」も近隣に移転しましたが、1月の取材時はまだ整理の真っ最中で、たくさんの作品が梱包されて保管されていました。こちらも今後、どんな部屋に変わっていくのか楽しみです(撮影:進士三紗)

これら移転前後の部屋で、創作活動や商品への思い、スタッフとしての“感動してしまった責任”の意味など、たっぷりとお話いただいています。十数枚の写真とあわせて、ぜひ読んでみてほしいです。

岡本真帆さんとの「表現」をめぐる対談

また今回〈西淡路希望の家〉を訪ねるにあたり、日々の創作活動への寄り添い方、商品や作品の魅力の伝え方などを、他の表現領域で活動する方の視点も交えてじっくり掘り下げたいと考えました。そこでお声がけしたのが、歌人・岡本真帆さんです。

平日の明るいうちからビール飲む ごらんよビールこれが夏だよ

ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし

日常の一コマや、何気ない感情の移ろいを言葉にする岡本さんの短歌は、SNSをされている方なら、見聞きしたことがある人も多いでしょう。

そんな岡本さんに、金武さんとの対談を快諾いただいての当日。実は先に紹介した「アトリエにおじゃまします」の取材でも、施設の創作現場から新しい縫製の拠点、移転前後の「えのへや」の視察まで、すべてに立ち会っていただきました。

【写真】マスク越しにもわかる笑顔
対談で話題になった「メガネ占い」をしてもらっている岡本さん(撮影:進士三紗)

その後の「表現」をめぐる対談では、ご自身が歌を詠むときに意識されていることなどを共有いただきながら、この日現場で感じたことや、「自分の創作」と「他者の創作」におけるスタンスの違いの話題に。

改めて「自分にとっての創作ってなんだろう?」と振り返ってくださったり、「わからなさ」を受け止めていくことの大切さを投げかけていただいたりと、刺激的な1時間あまりを過ごさせてもらいました。

ちなみに、岡本さんに対して「普通にファンです!」と話していた金武さん。この対談のセッティングに「本当にいいんですか?」と事前に何度も確認され、当日もかなり緊張されていたご様子でしたが(笑)、これまでのキャリアなど、いろいろと背景をご共有くださいました。

たくさん付箋が貼られた『水上バス浅草行き』(岡本さんのご著書)を、金武さんが大事そうに手にしていた姿が今も脳裏にあって、素敵な対談だったなあと思い返します。2人の軽やかな掛け合いもできるだけ再現した記事になっているはずです。

余談ですが……

当日、みなさんの話に熱中するうちにタイミングを失ってしまい、僕自身の好きな岡本さんの歌を伝えることができなかったのをちょっと残念に思っていました。(いや、進行的には優先すべき話題がたくさんあったので、触れなくて良かったと今でも思うんですが……)

せっかくここまで編集後記を書いたので、勢いのまま佐々木が三首選んだものを紹介しちゃいます。どれも『水上バス浅草行き』より。

みなさんもぜひ、本を手にとってみてください。では……どうぞ!

沈黙の石焼き芋をゆっくりと割れば世界にあふれる光

この街はどこも消毒済みだから手書きの誤字がとてもうれしい

パチパチするアイス食べよういつか死ぬことも忘れてしまう夕暮れ

【写真】付箋がたくさん貼られた本が机の上に置かれている